5
シンガポールはDX 推進の一大拠点

シンガポールはDX 推進の一大拠点

新型コロナウィルスによるパンデミックはあらゆる分野でデジタル化を加速させている。対面でのリアルなコミュニケーションに変わり、デジタルを通じた取引、デジタル経済の拡大は製造業や小売業といったビジネスだけではなく、教育などあらゆる領域に拡大している。今後もさらにデジタル化が拡大していくことが予測される中、世界第2位のデジタル競争力を持つシンガポールはアジアにおけるデジタル経済構築のための拠点として注目を集めている。


5Gでデジタル化を進める土壌を作る

シンガポールにおけるデジタル化は、さまざまな分野で進んでいるがその最大の理由の一つとして、シンガポールがデジタル化を進める上で理想的な環境である点が挙げられる。例えばデジタルを象徴する企業であるGoogleは、アジアにおける次の10億人のインターネットユーザー獲得の拠点としてシンガポールをとらえ1000人のエンジニアが活動している。またシンガポールはアジアにおけるGoogleデータセンターを有している2つの都市の1つだ。デジタル経済を便利に安心した環境にするための一つがデータ通信の領域であり、シンガポールは最速かつ最も信頼性の高い場所といえる。またシンガポールは第5世代移動通信システム、5Gソリューションの商用利用を促進するため、企業に対して支援を行っている。

2019年に5Gイノベーションを開始するために4,000万ドルの助成金を立ち上げ、さらに2021年度には追加で3,000万ドルを5Gソリューションのテストや採用のための資金として支援する。AIやIoTなどのデジタルテクノロジーを普及させるためには高速大容量でかつ、多数の端末に安定的に接続できる5G環境は欠かすことができない。例えば、PSAシンガポールとシンガポール海事港湾庁は、港湾内の自動搬送車AGVの稼働が5Gに変わることで大きく拡大すると見込んでいる。4Gでは港湾内のAGVの稼働数は300台から400台程度であるが5Gに移行することで、その稼働数が2,000台以上同時に稼働させることができる。このように5GはAIやIoTによるスマート化には欠かすことができない土台である。
 

AIやIoTに精通したデジタル人材の育成

AIやIoTを使いこなすためには5Gによる環境構築以外に、デジタルに精通したデジタル人材の育成が欠かすことができない。シンガポールでは企業や学生などさまざまなシーンの人々がデジタル化するための教育への取り組みも行っている。シンガポール科学技術研究庁(A * STAR)の研究所であるシンガポール製造技術研究所(SIM Tech)とSkills Future Singapore(SSG)庁による共同イニシアチブで行われるDigital Transformation&Innovation™プログラムは、企業向けに提供されるもので、デジタルテクノロジーを加速させることで企業戦略やビジネスモデル、などがどのように変化し加速していくかを学べるプログラムだ。戦略やビジネスモデル、システムアーキテクチャの分析と再設計などを通じ、新たなビジネスの成長と持続可能な競争優位性を学んでいく。また企業でもデジタル人材の育成に本格的に注力する動きが出ている。

Facebookシンガポールは2021年3月に、最大のトレーニングイニシアチブであるUpskill with Facebook Singaporeの立ち上げを発表した。このトレーニングイニシアチブは、企業や個人、研究者を対象に提供されるもので、デジタルマーケティングを中心に4つのデジタルスキルを習得することができる。Infocomm Media Development Authority(IMDA)とエンタープライズシンガポール(ESG)およびデジタルインダストリーシンガポール(DISG)によってサポートされ、最大で2700名の個人や1000名の中小企業が参加可能だ。これにより新卒者や中途採用者、中小企業の能力開発が行われ、本格化するデジタルトランスフォーメーションにも対応できる人材を育成していく。また20週間のプログラムを終了するとFacebookソーシャルメディアマーケティングプロフェッショナル証明書が与えられる。このようにシンガポールでは、企業が自社をデジタル化したい場合、すぐに即戦力となる人材を供給できる環境が整っている。


進む製造業のデジタル・トランスフォーメーション

5G環境やデジタル人材の育成などが続々と行われているが、既にシンガポールの製造業ではデジタル化に向けて多くの企業が動きだしている。AIやIoTによってデジタル化されたスマートファクトリーでは、生産性の向上や品質改善が行われ競争力の強化が行われる。例えば、大手化学品メーカーのデンカでは、シンガポールを自社工場で初のスマートファクトリー化を行っている。AIやIoTで各生産工程におけるデータが収集され、集まったビッグデータをAIが解析することで、生産性の向上と製品品質の改善が行われる。また半導体大手のインフィニオンテクノロジーズは、今年の3月にシンガポールをアジアにおけるAIイノベーションハブにしていくと発表した。この計画は全社的なデジタルトランスフォーメーションの一環として、2023年までにシンガポールをグローバルな人工知能(AI)イノベーションハブとしていく。これによってシンガポールのすべての従業員がAIソリューションを展開および開発できるようにし、1000名以上の従業員のスキルアップが見込まれる。また2023年までには約25のAIプロジェクトが展開される見通しだ。このハブ化計画は、SGInnovateや、シンガポールのローカルスタートアップ、高等教育機関と連携して行われるもので、開発されたAIソリューションは半導体や電子機器に取り入れられる。また新たなイノベーション開発だけではなくAI人材の育成も積極的におこなっていく。シンガポール国立大学のNUS-ISSとAIシンガポールと協力しAIコースを開設。次世代のイノベーター育成に力を注ぐ。

 

DXを支援するソリューションプロバイダーも豊富

シンガポールではこうしたデジタル化を支援するためにさまざまな取り組みを行っている。例えば、シンガポールでは製造業がインダストリー4.0へ移行するにあたり、スマートインダストリーレディネスインデックス(SIRI)を提供している。SIRIはEDBが世界経済フォーラム(WEF)と提携して国際標準になっており、2021年末までには世界で1,000の公式SIRI評価を実施する計画だ。SIRIを導入することでスマートファクトリーに移行するために自社に何が必要なのかが一目瞭然になり、デジタル化への道しるべとなる。また、製造業のデジタル化を支援するDXソリューションプロバイダーも活躍している。シンガポールには多くの製造業が拠点を構えているが、製造業のDXでは工場やプラント内のデータ収集が必要だ。工業用計測器や制御機器の大手メーカーである横河電機は既に50以上の工場やプラントにAIを導入して工場の生産性向上や課題解決への支援を行っている。またシンガポールでは2016年にDX化の拠点である「Co-innovation Centre」を開設、VR仮想現実を使った工場内オペレーションの体験や、プラント内のサイバーセキュリティの確立など、最先端のデジタル技術を体験することで、生産性の向上や異常事態の回避などデジタルイノベーションでの支援を行っている。シンガポールでは、製造業のデジタル化を行うためにジュロン・イノベーション・ディストリクト(JID)を設けて支援を行っている。ここでは政府や企業、大学、研究機関が連携して、デジタル化の支援を行い、数多くのソリューションプロバイダーも進出している。

シンガポールでは5Gの構築とデジタル人材の育成によってAIやIoTが普及するための環境づくりを行っており、さらに政府や企業、DXソリューションプロバイダーなどさまざまな立場でデジタル化を支援している。新型コロナウィルスで加速するデジタルトランスフォーメーションを推進する一大拠点として注目が集まっている。

関連記事