シンガポールを拠点とするコーエイ ツールは、ホンダ、トヨタ、BMWなどの国際企業向けに自動車部品の金型をエンドツーエンドで製造することを事業の中核としている。同社は価格競争力を維持する必要性から、2017年にi4.0の導入を開始した。信頼できるパートナーとして選ばれたのが、シンガポール経済開発庁(EDB)とジュロンタウン公社(JTC)が共同設立したSSTCだ。SSTCは、各企業がi4.0の中核となる能力を開発できるよう、技術ソリューションを通じて支援することを目指している。
SSTCはコーエイ ツールの製造業務を見直した上で、同社に合わせてi4.0による変革に向けた3段階のアプローチを開発した。コーエイ ツールは段階的にi4.0を導入することで、既存プロセスの補完・高付加価値化に向け、どこに技術ソリューションを配置するのが最適かを自社で評価することができた。システム全体を一度に洗い直し一新する必要がなかったことから、業務の混乱も最小限に抑えられた。
自動化の推進:ロボットと人による効果的な共同作業
第1段階(半自動化)では、部品検査など人手を要する作業を半自動化プログラムにまかせることで、ヒューマンエラーを最小限に抑え、フォローアップ・プロセスに向けたリアルタイムのデータ収集を円滑化した。第2段階(完全自動化)では、組立ラインにロボットアームと完全自動化モジュール式セルが導入された。
自動化技術の効果的な利用は、生産効率の向上と手作業の必要性を削減することにつながった。
- 自動化により、パンデミック中でも無人化機械で生産を続けることが可能に。
- 変革プロセス全体で円滑に生産を継続できるよう、SSTCは、作業員が新しいプロセスに習熟するためのトレーニングセッションを実施。
- 多くの手作業から解放された従業員は、他部署での仕事に向け再教育を受けたり、新しく実装されたシステムを介した組立ラインの管理をしたりするなど、生産サイクルに沿った新しい職務に向け技能向上が行える。
製造工程の変革促進:シンガポールから業務を管理
第3段階と最終段階(統合的生産と業務管理)では必然的に、製品在庫や顧客注文の追跡、生産や受注処理の指示を行う製造実行システム(MES)を通じた海外業務の遂行がその対象となった。
製造プロセスの標準化と体系化は、全体的な生産性の向上、生産にまつわる問題を軽減する従業員の能力強化につながった。
- MESを利用することで、プロジェクト状況をリアルタイムでモニタリングし、完成予定日をより正確に顧客に助言して、シンガポールから事前に製造計画を立てられる。
- リソースや設計計画も、MESを通じて拠点全体で簡単に共有できるようになり、深刻な人材不足のさなかでも地理的な制約を克服し、海外拠点全体のエンジニアを活用できる。
- 納期までに仕上げる生産能力が不十分であると判断された拠点があれば、その地域のプロジェクトを別の工場に委託することができ、より柔軟に業務を遂行できる。
- MESによって柔軟性が増したことで、リソースの最適化、能力拡大、顧客基盤の拡大に取り組めるようになった。
不確実性の今の時代だからこそ、i4.0を活用する好機
i4.0による変革の工程を早期に始動させたことにより、コーエイ ツールの製造サイクルタイムは短縮し、生産性は向上した。そのおかげで、同社は予期せぬ市場の混乱にうまく対処できるようになった。コーエイ ツールはシンガポールでの成功をきっかけに、タイと中国の工場でも同様のi4.0導入ロードマップを実施し、マレーシア、インドネシア、日本の拠点でもデジタルトランスフォーメーションを計画している。
サプライチェーンの需要がシフトし、市場が不安定なこの時代において、メーカーにとってデジタルトランスフォーメーションの緊急性はかつてないほど高まっている。デジタルトランスフォーメーションには「汎用型」の戦略というものはない。だがメーカーは適切なパートナーと協働することで、想定される危機を回避し、i4.0の可能性を最大限に高めることができるだろう。シンガポールで成功を見せているパートナーエコシステムには、i4.0を取り入れ、世界に通用する将来対応可能なインフラ開発を行う企業を支援する体制が整っている。
飛躍を目指すメーカーにとって、今ほどの好機はない。
i4.0による変革を検討しつつも、どこから手を付けるべきかお悩みの場合は、スマートインダストリー準備指標(SIRI)(英語)をご参照ください。
INCIT(International Centre for Industrial Transformation)がご案内する一連のフレームワークとツールが、メーカーの規模や業種にかかわらず、デジタルトランスフォーメーションの工程を開始し、拡大、維持する方法の策定にお役立ていただけます。SIRIを通じてi4.0の可能性を活用する方法についてご紹介しています。
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