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シマノ“未来の工場”完成で島野容三会長が語る、シンガポールの人材を中心とした生産のグローバル化戦略

シマノ“未来の工場”完成で島野容三会長が語る、シンガポールの人材を中心とした生産のグローバル化戦略

自転車部品や釣り具を製造するグローバル企業のシマノが2023年5月、デジタル技術やロボットなど最新鋭の設備を導入した「未来の工場(Factory of the Future)」をシンガポールに誕生させた。シマノが初の海外生産拠点としてこの地に進出したのは1973年のこと。以来50年、生産のグローバル化を先頭で支えてきたシマノシンガポールが、これから向かう先とは――。「シンガポールの優秀な人材とともに腰を据えてものづくりを続けてきた」という島野容三会長に話を聞いた。

シマノ“未来の工場”完成で島野容三会長が語る、シンガポールの人材を中心とした生産のグローバル化戦略

現地人材の活用で海外工場を統括するシマノシンガポール

主力のスポーツ自転車用部品で世界シェアトップ。あらゆるメーカーの自転車のギアやブレーキなどの中核部品に採用されていることから、“自転車業界のインテル”と呼ばれる——それがシマノだ。

特に自転車スポーツが盛んな欧米市場での評価は高い。最高峰の自転車ロードレースのツール・ド・フランスでは、その信頼性から選手の7割以上が同社の部品を搭載しているとも言われ、いまや海外売り上げが9割を占める。

2021年まで20年にわたり5代目として社長を務め、現在は会長の島野容三氏はこう話す。

「シンガポールへの進出は、1965年にアメリカ、1972年に欧州に販売拠点を置き、輸出が増えてきたことがきっかけでした。販売だけでなくものづくりもグローバル化させるため、東南アジアのどこかに海外工場をつくろうという話になったのです。それで当時社長だった父(2代目の島野尚三氏)がさまざまな場所を見て回り、政情や経済が最も安定していたシンガポールに決めました。1973年、シンガポールが建国して8年で進出したので、シンガポールがまだ若いころからともに歩んできたことになります」

シンガポール南西部のジュロン工業団地に1973年、シマノ初の海外工場は建てられた。自転車部品の製造でみるみるノウハウが蓄積し、生産技術はいつしか日本の工場に劣らないレベルに到達した。さらに、製品の品質を大きく左右する金型について、日本と同じ製造設備が唯一シンガポール拠点に導入されて以降は、日本のものと寸分違わない製品をつくれるまでになった。

そうしてシマノシンガポールは、海外工場を統括するようになる。1990年以降、シマノはマレーシア、インドネシア、フィリピン、チェコ、中国(2カ所)で合計6つの海外工場を建てたが、「資金的にも人的にも、さらには技術的にもシンガポール拠点が核」になった。シマノシンガポールから出資し、ラインの立ち上げや技術移転、人材の育成など多くの支援のほか工場運営も、シマノシンガポールの社員が中心となり行ってきたのだ。

というのも、シンガポール人の多くは英語や中国語などアジア圏で使われる広い言語が堪能で、世界各地の工場のスタッフと円滑にコミュニケーションが取れることは、日々オペレーションをするうえでプラスだった。その優位性を活かしてシンガポール拠点は、生産のグローバル化の足がかりとなったのだ。

「我々は、シンガポールの人を信頼し、積極的に現地の人材を採用しながらシンガポールで腰を据えてものづくりを続けてきたのですが、それが功を奏しました。社員たちに『世界をリードするのは君たちだ。ここでがんばれ』とメッセージを送り続けるうちに、個々の能力が開花しました。優秀な人材に恵まれてきたからこそ、シンガポール拠点はここまで発展したのです」
 

現地人材の活用で海外工場を統括するシマノシンガポール


日本のマザー工場を補完する役割に期待

東南アジアの中心に位置し、物流や人の移動にも便利なシンガポールで、シマノシンガポールは1973年の設立以来、事業を順調に拡大させてきた。近年では2014年に、自転車文化を発展させるため、自転車をテーマとした体験型展示施設「SHIMANO CYCLING WORLD」をオープンさせた。そして2023年5月、ついにシンガポールに誕生したのが、「未来の工場(Factory of the Future)」と位置づける新工場だ。島野会長はこう説明する。

「シンガポールに工場を建てて今年で50年。海外工場の統括会社としてこれからもがんばっていくために、老朽化が進んでいたもともとの工場の代替として造りました。大阪府堺市の本社工場は2014年に建て替え、当時は最先端でしたが、さらにその上を行く “未来の工場”が完成しました。今後、海外工場のフラッグシップ工場となるよう仕立てていくつもりです」

未来の工場は、ロボットによる自動化に加え、AIやIoTなどデジタル技術を活用したスマートファクトリーだ。この工場では、原材料管理から製造工程、製品の管理まですべての製造過程のデータをセンサーにより集積させる。そのビッグデータをAIがリアルタイムで分析し、生産効率の改善を行う。また、各工程にロボットや自律型無人搬送車などの機材を可能な限り導入して自動化を徹底することで、労働力の削減を図る。

この最新鋭の工場に投じられた金額は約200億円(約2億5000万SGD)。2018年に着工し、約3万平方メートルの敷地に地上5階地下2階、延べ床面積4.3万平方メートルの広さを持つ。建設地は、先端製造の研究開発および製造拠点としてジュロン地区内に新たに開発された「ジュロン・イノベーション地区」だ。そして、そこへの移転の決め手となったのが、シンガポールの産業育成や投資誘致を担う政府機関であるシンガポール経済開発庁(EDB)からの助言だったという。

「シンガポールに進出して以来、EDBが常に我々の窓口で、いつも親切にバックアップしてくれました。そのため、EDBから新たな開発地区に工場を移してはどうかと勧められたときにも、EDBが言うのだから間違いないとすぐに移転を決めました」

島野会長は、さらに続ける。

「シンガポールは、いかにコンペティティブであるかということを常に意識している国です。そのため行政、特にEDBはビジネスのことや、また我々がどういった支援を必要としているかを非常によくわかっていて、シンガポールに進出する企業へのアドバイスが的確なのです」

シマノの新工場は生産拠点としてだけではなく、研究開発拠点としての役割も果たす。今後は、身につけて使用するコンピューターの技術であるウェアラブル技術を製品に活用するための研究や、サイクリング用アパレル製品向けの特殊素材の開発などが行われる予定だ。

「シマノはシンガポールで、開発やデザイン業務まで行えるようになってきています。事業活動に関わる技術や技能の多くを備えていて、司令塔である日本のマザー工場の機能を補完する力をつけつつあるのです。研究開発能力を持つ新工場も完成したということで、これからの発展に大いに期待しています」

シンガポール拠点、そしてシマノのこれからのために、EDBはどのような協力ができるのか。その問いかけに、島野会長はこう答えた。

「拠点のさらなる発展のためにも、ますます優秀で高度な人材が必要です。これまでシマノシンガポールの成長を支えてきたのはシンガポールの人材でした。我々はものづくりだけでなく、研究開発やデザイン開発の面でもシンガポールの産業に貢献していくつもりなので、これからも、現地の人に働いてもらえるよう、人材確保のためにぜひとも協力してもらいたいと思っています」
 

日本のマザー工場を補完する役割に期待

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