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京都の77%の企業がシンガポールをビジネスの目的地として認める理由〜オムロンとSCREENの事例より〜

京都の77%の企業がシンガポールをビジネスの目的地として認める理由〜オムロンとSCREENの事例より〜

日本の古都・京都の77%もの企業がシンガポールを起業・海外進出の投資先として認知している——そんな驚くべき事実が、ある調査により浮き彫りになった。シンガポールがとりわけ京都で、それほど多くの企業を惹きつけているのはなぜなのか。京都の老舗企業であるオムロンとSCREENを取材し、シンガポールでの活動を紹介するとともにその理由を考察する。

京都の77%の企業がシンガポールをビジネスの目的地として認める理由〜オムロンとSCREENの事例より〜

京都のビジネスリーダーはシンガポールを“スマートな国”とイメージ

日本の企業の 3 社に 2 社が、京都ではそれ以上の割合の企業がシンガポールをビジネスの目的地として認知している。その事実が明らかになったのは、マーケティング分析や市場調査を行うニールセンが2022年に実施した「UNDERSTANDING THE SINGAPORE BUSINESS BRAND」 の調査だった。

この調査はビジネスの目的地としてのシンガポールのブランド力を測るためのもので、グローバル化能力のある日本企業316社を対象に、2022年9〜12月にオンラインで実施された。そして同調査では、ほかにも興味深いことがいくつか浮かび上がった。

シンガポールの認知度について日本国内の都市別でみると、京都のビジネスリーダーの認知度が最も高く、起業または事業の海外進出に向けた投資先として「シンガポール」を挙げた企業が、日本全体で65%なのに対し、京都は77%に上った。

さらに注目すべきは、京都のビジネスリーダーがシンガポールに抱くイメージについてである。「シンガポールのビジネス・エコシステムは、スマート・キャピタル(資金だけでなく知識ももたらす洗練された投資家)を惹きつける」との回答が多数を占めたのだ。

“スマート・キャピタルを惹きつける”シンガポールのビジネスの環境とはどのようなものなのか。また、実際シンガポールに進出している京都の企業は、どのように活動を展開しているのか。

京都のビジネスリーダーはシンガポールを“スマートな国”とイメージ

シンガポールを拠点にオートメーション化を推進する「オムロン」

オートメーション分野の世界的リーダーであるオムロンは、京都市に本社を置き、工場や医療機器向けに技術を提供している。同社とシンガポールとの関わりが始まったのは1972年。シンガポールに現地法人OMRON ASIA PACIFICを設立して以来、アジア太平洋地域を統括してきた。

「シンガポールで事業を始めて50年、シンガポールはアジア太平洋地域の重要な拠点であり続けています」

OMRON Management Centre Asia Pacificのヴィレンドラ・シェラー(Virendra Shelar)社長はそう話し始めると、シンガポールの優位性について続ける。

「まず、シンガポールは政治環境が強固で安定し、経済大国として位置づけられています。この強固な政治・経済基盤はさまざまな分野の企業を惹きつけ、企業に成長と成功のための環境を提供しているのです。また、東南アジアの中央に位置し、交通網が発達しているため、域内はもちろんそれ以外の地域でも、急成長する市場に容易にアクセスできる点も魅力です」

オムロンでは現在、長期ビジョン「Shaping The Future 2030(SF2030)」によって、持続可能な未来に貢献することを強く掲げている。シンガポールでも同様で、社会に大きなインパクトを与えるため、あらゆる事業に取り組んでいる。

その一つが、コネクテッド・ヘルスケアによる在宅モニタリングの推進だ。例えば、患者が家庭で定期的に血圧をモニタリングし、医師や介護者と簡単にその情報を共有できるよう、インターネットに接続された血圧モニタリング機器を提供している。これにより、患者のより良い健康管理を実現し、予期せぬトラブルの減少につなげている。これは、オムロンのヘルスケア・ビジョンである "Going for ZERO "の大きな原動力となっている。

もう一つ、OMRON ASIA PACIFICのシンガポールでの活動を語るうえで欠かせないのが、産業オートメーション事業のための「オートメーションセンタ(ATC)」の開設だ。研究開発機能を備えたこの革新的なライブ・ラボ兼ショールームは2017年にオープンした。製造現場の知能化や見える化を加速させるAIやIoTなどの技術を紹介し、シンガポールの中小製造業でスマート・マニュファクチャリングを推進する。

さらに2022年、同社はシンガポールで2カ所目となるオートメーションセンタを設立した。「OMRON AUTOMATION CENTER SINGAPORE for Logistics」と名づけられたこの施設は、物流に特化したソリューション開発センターだ。アジア太平洋地域の企業が業務を合理化するため、革新的な自動化ソリューションをテスト、開発、展開できるようにすることも目的とし、業界の成長を支えている。

「シンガポールは研究開発活動を奨励し、インフラに投資し、活気あるスタートアップ・エコシステムを育成しています。このような環境はイノベーションを刺激するとともに、私たちにも新たなテクノロジーを活用する機会を提供しています」(ヴィレンドラ社長)

 

高い語学力を持つ人材の活用でグローバル事業を優位に展開する「SCREEN」

半導体製造装置大手のSCREENも京都市に本社を構える。海外に31拠点を展開し、シンガポールには1979年に現地法人を設置した。多くの顧客を抱える東南アジアでのサービスを拡充することが目的だった。

現在はSCREEN SPE SingaporeとSCREEN Holdings Singaporeの2社が置かれ、前者は半導体製造装置、後者は印刷関連機器およびプリント基板関連機器の販売やメンテナンスを行う。

「古くからシンガポールに進出する日本の企業は多いため、まず、日系企業への理解があります。さらに福利厚生が充実していると評価してくださっているようで、日系企業は就職先としても人気です。そういった意味で、シンガポールは日本の企業がパフォーマンスを発揮しやすい場所だと思います」

そう話すのは、SCREEN SPE Singaporeの新居健一郎取締役社長。シンガポールの拠点は、東南アジアにある他の事務所をサポートするなど統括拠点として存在感を放っているというが、その役割を果たすうえで要となっているのが現地の人材だという。

新居取締役社長は、「シンガポールの方たちは実直で、非常に真面目に仕事に取り組む印象」と評し、こう語る。

「私たちは、装置の立ち上げやメンテナンスなどを行うサービスエンジニアを各国で多数採用していますが、特にシンガポールの方たちは基本的に英語と中国語が堪能です。グローバルに事業を展開するSCREENにとってこれは強みです。というのも、世界各地のサービスの需要にはバラツキがあり、ある地域にエンジニアが不足した際には、そこにシンガポールのエンジニアを派遣することもできるからです」

人材に関しては今年6月、同社は熊本事業所内にエンジニアを教育するグローバルトレーニングセンター「匠-TAKUMI-」を開設し、話題となった。今後シンガポールのエンジニアのさらなる技術力向上のため、日本のこのセンターを活用する計画もあり、シンガポール経済開発庁(EDB)と協力についての話し合いが進められている。

「EDBにはこれまでにもいろいろ助けられてきました。コロナ禍で部分的ロックダウンを発動した際、日本人のエンジニアをシンガポールに派遣できず困っていると、入国できるよう特別に手配してもらいました」(新居取締役社長)

SCREENやオムロンのような京都のスマートな企業と、シンガポールならではの教育水準の高い人材や、サステナビリティに重きを置くエコシステムなどのビジネス環境はこのように相性が良い。だからこそ、京都の企業はシンガポールをビジネスの目的地として重視するのかもしれない。

高い語学力を持つ人材の活用でグローバル事業を優位に展開する「SCREEN」

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