—「化学の力で世界をよりよくするスペシャリストになる」をパーパスに掲げ、2030年までにスペシャリティ・メガトレンド・サステナビリティの3要素をそなえた事業の創造に集中するというデンカのミッションを支えるために、デンカシンガポールはどのような戦略を持っていますか。
シンガポールは日本とは状況が異なるので、目標も違います。日本本社は新しい経営計画「Mission 2030」を策定し、これが世界でよりサステナブルなビジネスを構築するための経営指針となります。一方、シンガポール版の「Singapore Mission 2030(SG-M30)」は、世界共通の「Mission 2030」を補完するものです。
SG-M30における大きな推進力の一つは、人的資源による価値創造です。デンカシンガポールは、全従業員の可能性を伸ばすことに力を注いでいます。Total Company Learning Plan(TCLP、全社学習計画)を通じて、SG-M30の目標達成に必要なスキルを向上させるため、足りないトレーニングを見つけ出し、対策を講じているのです。デンカシンガポールは“グローカル(世界的に事業を展開しながら、地域に根差した事業活動をする)”な組織を目指しており、シンガポールの従業員それぞれに自らの役割を担ってもらいたいと考えています。
—デンカシンガポールはどのようにサステナビリティを向上させていく計画を立てていますか。
私たちは、2030年までにCO₂排出量を50%削減し、2050年までにカーボンニュートラルを実現するというシンガポール政府の持続可能性目標に賛同しています。私たちは将来を見据え、具体的なステップを踏んで、この目標を実現する計画を持っています。例えばシンガポールでは、CO₂排出量を削減するための太陽光パネルの設置方法を検討しています。最終的には全工場に導入し、廃棄物ゼロなどの取り組みも強化していく予定です。
—デンカシンガポールの生産に関する見通しはどうなっていますか。アセチレンブラックの生産量は増加していますか。また、新たな生産ラインの増設は考えていますか。
サステナビリティの大きな潮流に沿い、デンカシンガポールでは、サステナブルな用途に適したさまざまな製品の生産能力の拡大に注力していきます。すでに、放熱材料に使用される球状シリカの生産能力を2024年に拡大し、増大する市場需要に対応しています。
また今後、自動車軽量化のため金属に代わって構造に使用されるスチレン系樹脂、EVバッテリーや風力発電に使用されるアセチレンブラック、車載充電器やEVバッテリーに使用される球状アルミナなどについても、需要の増加が見込まれます。デンカシンガポールは、よりサステナブルな日常必需品への世界的な移行を支援し、その重要な原材料の安定供給を確保することに取り組んでいます。
—デンカシンガポールの生産工場では、他にどのような計画が進められていますか。
シンガポールの先進的な研究開発インフラを活用し、デンカシンガポールは地域の研究開発のハブとして機能していきます。既存製品の改良や新製品のイノベーション、関連技術の可能性を探っています。
プラスチックは環境にとって必ずしも理想的な素材ではありませんが、日常生活に欠かせない素材であることに変わりはありません。デンカは環境に対する義務を果たすため、サステナブルなポリマーソリューションの革新に専念することで、この課題を解決することに尽力します。
また、デンカシンガポールと日本本社間の円滑な運営を確保するため、工場に効果的なデジタル・ナレッジ・マネジメントシステムを導入することにも重点を置いています。シンガポールは新たなAI技術の実験場として、日本のモデルとなっていく予定です。
さらに、長期的な目標は、工場の複雑なオペレーションをサポートするための「ファクトリー・アバター」を開発することです。これは、従業員の退職や転勤によって既存の知識が失われる前に知識を共有することで教育、問題解決、工場の効率的な管理を支援するリソースです。デンカシンガポールは、この独自技術を洗練させた後、他のデンカの施設に展開することを楽しみにしています。