5
横河電機進出50周年——東南アジアにおける地域統括・研究開発拠点としての躍進

横河電機進出50周年——東南アジアにおける地域統括・研究開発拠点としての躍進

工場などの自動化を支援する制御システムや計測機器で世界的シェアを誇る横河電機が今年、シンガポール進出50周年を迎えた。1974年のシンガポール現地法人設立からこれまで、同社はいかにしてシンガポールや東南アジアでビジネスを成長させてきたのか。現地法人Yokogawa Engineering Asia(YEA)の今村英智ディレクターに聞いた。


Singapore Development Centre Research and innovations at Singapore Development Centre (SGDC)

Singapore Development Centre Research and innovations at Singapore Development Centre (SGDC)

シンガポールを拠点に東南アジアのビジネスを展開してきた50年 

従業員約800人、シンガポール管轄地域での年間売上高約4億5,000万SGD(約495億円)——この数値が示すとおり、横河電機のシンガポールにおける事業活動の規模は、非常に大きい。事業が飛躍的に発展し、まさに“躍進”と呼ぶにふさわしいシンガポールでの50年を振り返り、今村氏はこう語る

「当社が長い間シンガポールで活動を続けてこられたのは、産業の技術革新に合わせて、活動領域を広げてきたことが主な要因ではないかと考えています」 

横河電機は海外展開の一歩として、シンガポールに1974年、初の現地法人Yokogawa Electric Singaporeを設立した。

「シンガポールを選んだのは、東南アジアの中心に位置し急成長する地域のマーケット全体を俯瞰できることや、教育制度が優れており質の高い労働力が得られること、また、自由貿易政策により輸出入の規制が緩和されていることなどが理由でした」(今村氏)

進出翌年には、当時主力製品であった指示電気計器の生産コストを抑えるため、シンガポール東部のベドック工場でメーターの生産を開始した。この海外初の工場は、コスト削減の効果はもちろん、優れた品質管理や製造技術が認められ、シンガポール経済開発庁(EDB)からモデル工場にも選ばれた。
 

Glory moments awards

50周年記念式典の様子。左から:Mr. KATO Tomoyuki (Managing Director of Yokogawa Electric Asia Pte Ltd), Hitoshi NARA (President and Chief Executive Officer), Mr. EGUCHI Daijiro (Chairman of Japanese Chamber of Commerce & Industry, Singapore), Dr Tan See Leng (Minister for Manpower and Second Minister for Trade and Industry), Mr. PNG Cheong Boon (Chairman of Economic Development Board, Singapore), Mr. CHAY Kin Wah (CEO & President of Yokogawa Engineering Asia Pte. Ltd.)


横河電機は、1975年には販売・サービス会社を、1986年にエンジニアリング会社を設立した。1988年、両社を統合し、1990年にはそこにYokogawa Electric Singaporeも統合して、Yokogawa Electric Asiaが発足。さらに1997年、同社の機能を移管するかたちで販売、エンジニアリング、サービスの機能を統合した新会社Yokogawa Engineering Asia (YEA)を誕生させた。YEAはいまでは、東南アジア、オセアニア、台湾地域の統括拠点としての役割を担っている。

一方、工場については1995年、よりコストの低いインドネシアのバタムに新工場を設置。ものづくりはバタム工場で行い、生産技術や工場全体のマネジメントなど高度なスキルはシンガポール工場から提供する体制を採り、現在では主力の制御システムの生産を一手に担い、世界中に供給している。横河電機はこの「ツインニングモデル」の初期採用企業の一つだ。現在では、電機メーカーのパナソニックや半導体大手のインフィニオンなどの多国籍企業も同様にこのモデルを活用し、シンガポールの製造エコシステムの利点と近隣の製造拠点の強みを組み合わせている。

「1980〜90年代には、東南アジア各国の現地法人に対しエンジニアリングの技術やサポートをシンガポールの現地法人から提供し、工場などのインフラの整備も同法人が中心となり行いました。2000年代は別に設立した現地法人Yokogawa Electric Internationalがグローバルビジネスの本社機能を担い、また2004年には、研究開発拠点『Singapore Development Centre(SGDC)』を設立するなど、当社はシンガポールや東南アジアでの事業を発展させてきました」(今村氏) 
 

1975 lady operating the server.

メータープロダクションの様子(1975年撮影)


現地のリソースやオープンイノベーションを活用して進める開発 

急速に技術が進歩する時代において新たな成長機会をつかむため、横河電機はシンガポールのイノベーションエコシステムを活用し、積極的に研究開発にも取り組んできた。

その拠点、SGDCは横河電機にとって日本国外で最大のR&D施設だ。生産制御システム向けソフトウエアの開発から、AIやクラウドアプリケーションなど、多岐に及ぶ。

SGDCはシンガポール政府の支援を得て立ち上げられた施設です。新しい技術の導入により近年、生産制御システムで活用される様々なソフトウエアパッケージの開発から、生産現場のオペレーションのデジタル化、また生産現場のデータを活用したアプリケーションの開発を行っています」(今村氏)

エンジニアなど社内のリソースを使い開発を進める一方で、2016年にはオープンイノベーション活動のため、SGDC内に同社初となる「Co-innovation center」を立ち上げた。

「Co-innovation center」では、外部のパートナーや顧客とともに、新たなビジネスチャンス創出に向けたイノベーション活動に取り組んでいます」(今村氏)

例えば、2019年にはシンガポール公益事業庁(PUB)と協業。上水道のインフラや設備などの状態を評価する目的で、IoTセンサーなど横河電機のデジタル技術を試験的に導入した。この共同研究は、自然の水源が限られるシンガポールにおいて、水の供給に意義深い貢献をした。

「開発、イノベーション活動についても、シンガポール政府に手厚くサポートしてもらっています。現在当社のシンガポールでの活動は、事業収益への貢献だけでなく、開発やイノベーションの促進にも大きく寄与しています」(今村氏)

このように、横河電機のシンガポール拠点は、グループの中核的な役割を担っており、製品の製造、ソリューションの提供、新製品の開発やイノベーションにおけるエンジニアリングおよび技術サポートを含む業務を行っている。また、本社の研究・デザインセンターと協力して、製品の設計、評価、テスト、改善を進め、試作から量産、さらには市場での商業化までを実現している。

 

マネジメント層を育成し国内でマネジメントを担当

横河電機がシンガポールの全事業拠点で雇用する従業員​約​800人の国籍は、シンガポールが最も多く、ほかにマレーシア、タイ、ベトナム、インド、フィリピン、ミャンマー、中国、オーストラリア、フランス、そして日本など国際色豊かだ。今村氏はシンガポールの人材をこう評価する。

「さまざまなバックグラウンドを持つ人材がシンガポールには豊富にいます。そうした人材が、会社に豊かなアイデアやイノベーションをもたらしてくれていると感じています。また、英語が話せるうえ高いスキルを持つ有能な人材を雇用できており、その結果、競争力のある組織が形成されています」

横河電機の何よりの強みは、人材の現地化が進んでいる点だ。
「シンガポールでマネジメント層が育成され、いまや日本人の管理職は少数となり、YEAの社長もシンガポール人です。通常業務は原則国内でマネジメントを担当していて、人材についても、主にシンガポール人が地元の人材を育てている状況です」(今村氏) 

人材育成の取り組みにも工夫が凝らされている。同社では、自己学習を促進するためのガイドラインとして、強力なL&D(学習と能力開発)ポリシーを導入している。そしてこのポリシーは、従業員の個人的な成長と専門的な成長をサポートし、従業員の成長を組織の目標と一致させるよう設計されているのである。

「シンガポールだけでなく、東南アジアやその他の地域でもグローバルなキャリアの機会を提供しており、多くのシンガポールの人材が他の地域や国際的な職務で活躍しています」(今村氏)

シンガポールで育った人材が力となり、同国を拠点に東南アジアやオセアニアでの事業を拡大する横河電機。今村氏は、同社のこれまでの活動を踏まえてこう語る。

「シンガポールは、同国の成功事例を他国に展開するなど、東南アジア地域全体を見据えた地域戦略を構築するのに最適な場所だと思います。今後も海外ビジネスに挑戦する日本企業が増えることを陰ながら応援しています」 

​​*1シンガポールドル​​(​SGD​)​​= 約110円(2024年8月28日時点)​ 
 

今村英智氏

今村英智氏