現地のリソースやオープンイノベーションを活用して進める開発
急速に技術が進歩する時代において新たな成長機会をつかむため、横河電機はシンガポールのイノベーションエコシステムを活用し、積極的に研究開発にも取り組んできた。
その拠点、SGDCは横河電機にとって日本国外で最大のR&D施設だ。生産制御システム向けソフトウエアの開発から、AIやクラウドアプリケーションなど、多岐に及ぶ。
SGDCはシンガポール政府の支援を得て立ち上げられた施設です。新しい技術の導入により近年、生産制御システムで活用される様々なソフトウエアパッケージの開発から、生産現場のオペレーションのデジタル化、また生産現場のデータを活用したアプリケーションの開発を行っています」(今村氏)
エンジニアなど社内のリソースを使い開発を進める一方で、2016年にはオープンイノベーション活動のため、SGDC内に同社初となる「Co-innovation center」を立ち上げた。
「Co-innovation center」では、外部のパートナーや顧客とともに、新たなビジネスチャンス創出に向けたイノベーション活動に取り組んでいます」(今村氏)
例えば、2019年にはシンガポール公益事業庁(PUB)と協業。上水道のインフラや設備などの状態を評価する目的で、IoTセンサーなど横河電機のデジタル技術を試験的に導入した。この共同研究は、自然の水源が限られるシンガポールにおいて、水の供給に意義深い貢献をした。
「開発、イノベーション活動についても、シンガポール政府に手厚くサポートしてもらっています。現在当社のシンガポールでの活動は、事業収益への貢献だけでなく、開発やイノベーションの促進にも大きく寄与しています」(今村氏)
このように、横河電機のシンガポール拠点は、グループの中核的な役割を担っており、製品の製造、ソリューションの提供、新製品の開発やイノベーションにおけるエンジニアリングおよび技術サポートを含む業務を行っている。また、本社の研究・デザインセンターと協力して、製品の設計、評価、テスト、改善を進め、試作から量産、さらには市場での商業化までを実現している。
マネジメント層を育成し国内でマネジメントを担当
横河電機がシンガポールの全事業拠点で雇用する従業員約800人の国籍は、シンガポールが最も多く、ほかにマレーシア、タイ、ベトナム、インド、フィリピン、ミャンマー、中国、オーストラリア、フランス、そして日本など国際色豊かだ。今村氏はシンガポールの人材をこう評価する。
「さまざまなバックグラウンドを持つ人材がシンガポールには豊富にいます。そうした人材が、会社に豊かなアイデアやイノベーションをもたらしてくれていると感じています。また、英語が話せるうえ高いスキルを持つ有能な人材を雇用できており、その結果、競争力のある組織が形成されています」
横河電機の何よりの強みは、人材の現地化が進んでいる点だ。
「シンガポールでマネジメント層が育成され、いまや日本人の管理職は少数となり、YEAの社長もシンガポール人です。通常業務は原則国内でマネジメントを担当していて、人材についても、主にシンガポール人が地元の人材を育てている状況です」(今村氏)
人材育成の取り組みにも工夫が凝らされている。同社では、自己学習を促進するためのガイドラインとして、強力なL&D(学習と能力開発)ポリシーを導入している。そしてこのポリシーは、従業員の個人的な成長と専門的な成長をサポートし、従業員の成長を組織の目標と一致させるよう設計されているのである。
「シンガポールだけでなく、東南アジアやその他の地域でもグローバルなキャリアの機会を提供しており、多くのシンガポールの人材が他の地域や国際的な職務で活躍しています」(今村氏)
シンガポールで育った人材が力となり、同国を拠点に東南アジアやオセアニアでの事業を拡大する横河電機。今村氏は、同社のこれまでの活動を踏まえてこう語る。
「シンガポールは、同国の成功事例を他国に展開するなど、東南アジア地域全体を見据えた地域戦略を構築するのに最適な場所だと思います。今後も海外ビジネスに挑戦する日本企業が増えることを陰ながら応援しています」
*1シンガポールドル(SGD)= 約110円(2024年8月28日時点)