Press Release
4 October 2024
シンガポール経済開発庁(EDB)は、シンガポールのベンチャー企業(既存企業による新興事業)の育成を支援するコーポレート・ベンチャー・ローンチパッド3.0(以下、CVL3.0)に、今後2年間で3,200万SGD(約35億5,200万円)の新たな資金を追加出資します。CVL3.0では、シンガポールを拠点とする既存の企業とスタートアップ(少数または個人の起業家による新興企業)とのパートナーシップの分野にも注力していきます。
2024/10/04
EDBのベンチャー企業育成部門であるEDBニューベンチャーズは、CVL3.0のパートナー企業9社とともに、高成長分野での新規ベンチャー創出に向けた指導や効果的なコラボレーションに注力します。
第一弾のCVL1.0は1,000万SGD(約11億1,000万円)のパイロットプログラムをベースに2021年5月に始動したもので、第二弾のCVL2.0は2022年7月に、より多くの企業を対象に2,000万SGD(約22億2,000万円)の追加出資によって強化されました。
CVLプログラムの立ち上げ以来、EDBはパートナー企業24社による14のベンチャー企業創出を支援しており、さらに複数の案件が進行中です。これらのベンチャー企業はシンガポールに本社を置き、地域市場をターゲットにビジネスチャンスを創出しています。また、既存および新規の投資家から7,000万SGD(約77億7,000万円)を超える追加融資を受けています。パートナー企業のうち少なくとも10社は複数のベンチャー企業を設立しており、専門のベンチャー組織を設立している企業もあります。また6社は、持続可能性やAIといった新たな成長分野のビジネスチャンスに注力しています。
CVL2.0による新規ベンチャー企業の詳細については、参考資料Aをご参照ください。
EDBのジャックリーン・ポー(Jacqueline Poh)次官は、次のように述べています。 「CVLプログラムでは、シンガポールのワールドクラスのビジネス・エコシステムを活用することで、成長のためのイノベーション創生を加速してきました。CVL3.0は、ベンチャー企業創出を通じてイノベーションの足跡を深め、企業とスタートアップのウィン・ウィンのパートナーシップを支援するEDBのコミットメントを再確認するものです」
スタートアップとのパートナーシップを支援するプログラムの拡大
CVL3.0では、企業が革新的な製品、サービス、テクノロジーにアクセスするための新たな道筋となる、企業とスタートアップのパートナーシップへの支援を導入します。
企業は、新製品の共同開発による新たな収入源の確保や、生産性を高めてコストを削減するなどの商業的成果を出すために、オープン・イノベーション・パートナーズと協力して、既存の優良スタートアップとパートナーシップを組みます。これらのスタートアップは、シンガポールのリアルな需要を取り込むことで成長機会を拡大し、地元の起業家によるエコシステムを活性化させることになります。
企業とスタートアップのパートナーシップが革新と成長を促進している一例として、シーメンスとアーティザン・グリーンの協業があります。シニア・バイス・プレジデント兼シーメンス・デジタル・インダストリーASEAN担当ヘッドであるイザベル・チョン(Isabel Chong)氏は、次のように述べています。
「スタートアップとのパートナーシップは、シーメンスの長期的な成長戦略の一環です。例えば、地元の水耕栽培農家アーティザン・グリーンとの協業によって、当社のオートメーションとデジタル化ソリューションを活用することで生産量を増やし、事業を拡大します。これは、当社の技術的専門知識とアーティザン・グリーンの都市型農業へのアプローチとの相乗効果、そして高品質な地元農産物の持続可能な生産への共通のコミットメントを示しています。EDBのCVL3.0が、企業とスタートアップの相乗効果を育み、業界全体の協業を促進する支援であることを嬉しく思います」
長期的なベンチャー企業創出力の強化に引き続き注力
CVL3.0は、引き続き、シンガポールに本社を置く新規ベンチャー企業の創出を通じて、ビジネスチャンスを多様化する企業を支援します。ベンチャー・スタジオ・パートナーズとの協力により、参加企業は6ヶ月のスプリントでコンセプト検証を学ぶとともに、持続的かつ長期的なベンチャー企業創出力を構築します。
専門エンジニアリングのグローバル企業であるIMI plcは、持続可能なエネルギーベンチャー企業をさらに発展させるため、CVLプログラムへの参加後、社内ベンチャー企業育成部門であるIMI ベンチャー・スタジオを立ち上げました。責任者であるマルコ・プラチディ(Marco Placidi)氏は、次のように述べています。
「CVLは、IMIがシンガポールにベンチャー・スタジオを設立することを決定した大きな要因です。EDBはベンチャー企業パートナーや企業による強固なエコシステムを構築し、IMIによるエネルギー・産業分野の脱炭素化と持続可能性に焦点を当てた一連のベンチャー企業の立ち上げを支援しています。ベンチャー・スプリントやそれ以降のEDBのアドバイザリー・サポートは、ベンチャー企業を成功させ、経験豊富な起業家精神を持った人材を惹きつける上で極めて重要です。ベンチャー企業育成を通じて、IMIは今後数年間の新規事業の成長と技術革新の可能性に大いに期待しています」
CVLのパートナー9社は、ベンチャー・スタジオとオープン・イノベーション・パートナーで構成されています。これらのパートナーは、各企業の経験レベルに応じて、能力開発、方法論、人材、リソースなど独自のサポートを提供します。
CVL3.0パートナー一覧は参考資料Bをご参照ください。
CVL3.0参加企業の募集を開始しました。詳細は以下のウェブサイト(英語)をご覧ください: https://www.edb.gov.sg/en/grants/corporate-venture-launchpad-programme.html
*1SGD=約111円(2024年9月4日現在)
シンガポール経済開発庁(EDB)とは
EDBは1961年に設立された貿易産業省傘下の政府機関で、シンガポールの産業育成、投資誘致を担っています。「外資系企業誘致のワンストップセンター」として、海外20カ所以上に事務所を持ち、外国企業に投資先としてのシンガポールの情報を提供するだけでなく、世界の経済、技術、市場動向を把握することで、シンガポールで競争力を持ちえる産業や分野を育成するための経済戦略を立案しています。日本には、東京に事務所を構え、日本企業のシンガポール投資をサポートしています。
EDB ニューベンチャーズとは
EDBニューベンチャーズはEDBのベンチャー企業育成部門です。その目的は、シンガポール発の高い潜在力を持つ新規ベンチャー事業が世界をリードするビジネスとなるよう、創出と拡大を支援します。そしてそうした新規ベンチャー企業の構築のために、コーポレート・ベンチャーリングに関する既存企業や、著名なビジネス・リーダー、シリアルアントレプレナーらと積極的に協力しています。シンガポールにおけるベンチャー企業育成のエコシステムを活性化させるだけでなく、パートナーやポートフォリオ・ベンチャー企業に対して、業界ネットワーク、専門知識、人材、リスクシェアリング・キャピタルへのアクセスを提供しています。
参考資料 A: CVL2.0で創出されたベンチャー企業
企業/ ベンチャー企業 |
概要 |
企業:Carsome ベンチャー企業:未公開 |
Carsomeは東南アジア最大の総合的な自動車のeコマース・プラットフォームで、マレーシア、インドネシア、タイ、シンガポール、フィリピンで幅広く事業を展開しています。 2024年第3四半期には、Carsomeが持つ包括的なデータ、高度な人工知能(AI)や機械学習(ML)、最先端技術を活用した自動車市場における新規ベンチャー企業を立ち上げる予定です。 |
企業:ENGIE Factory (venture building arm of ENGIE) ベンチャー企業:ARQ Energy |
ENGIE Factoryは、低炭素エネルギーとサービスのリーダーであるENGIEグループにおけるベンチャー企業育成部門です。同社ではエネルギー転換を加速させるスタートアップの育成と投資に取り組んでいます。2019年以降、シンガポール発のベンチャー企業を10社以上インキュベートし、2021年にゼロカーボン・ベンチャー企業のポートフォリオ立ち上げのためにEDBとパートナーを組みました。 昨今、送電網管理者は増加する電力需要への対応を迫られています。そしてビルのオーナーは、規制当局やテナントが効率性を求めており、改修のために数十億ドルを費やさなければなりません。そうした課題に対して、ENGIE Factoryは、CVLのスプリントを通じて創業チームやEDBと協力し、ソリューションとしてARQ Energyを開発しました。 ARQ Energyは、バッテリー・アズ・ア・サービス(BaaS)プラットフォームで、AIを搭載した独自のソフトウェアによって複数の企業が共有する1つの産業用バッテリーの潜在能力を最大限に引き出します。また、バッテリーの最適な充放電サイクルをスケジューリングし、光熱費や二酸化炭素排出量の削減、安定したエネルギー供給を可能にします。ARQ Energyのサービスは企業顧客のバッテリーの資金調達、購入、設置、管理をエンド・ツー・エンドで行い、手頃な価格で信頼性の高い持続可能なエネルギーへのアクセスを保証します。 ARQ Energyはシンガポールとフィリピンで事業展開しており、東南アジア全域に拡大する計画です。 |
ベンチャー企業:Verta Bioenergy |
Verta Bioenergyは、CVLで立ち上がったENGIE Factoryの2番目のベンチャー企業です。産業用熱や発電用のバイオマスペレットの集約、加工、流通に焦点を当てています。 |
企業:IMI Venture Studio (venture building arm of IMI plc) ベンチャー企業:HySights |
IMI Venture Studioは、専門エンジニアリングのグローバル企業であるIMI plcのベンチャー部門です。CVLはIMI Venture Studioの立ち上げを決定する上で重要な役割を果たしており、持続可能な目標を推進するベンチャー育成の可能性を強調しました。IMI Venture Studioは、エネルギーや産業部門に特化した創業者とともに新規ベンチャー企業を立ち上げることで、スタートアップのイノベーションとIMIの能力を融合させます。 HySightsは、IMIのシンガポールで最初のコーポレート・ベンチャー企業です。新エネルギーのマーケット・インテリジェンス機関では、クリーンエネルギー投資のリスクを軽減することで、低炭素水素やアンモニア、メタノール、e-メタンなどでエネルギー転換を加速することを目指しています。独自の垂直AIプラットフォームを活用し、新エネルギーのグローバルサプライチェーンの市場関係者に、業界をリードする独自のデータセットと独立した分析を提供します。 電力、石油・ガス、機器メーカー、銀行・金融、経営コンサルタントなどの大手と取引しており、2024年に向けて、市場へのリーチと製品ポートフォリオの拡大に注力しています。 |
企業:DayaTani |
DayaTaniはシンガポールを拠点とするアグリテックのスタートアップで、インドネシアの零細農家向けにエンド・ツー・エンドのサービスとテクノロジーを提供することで、農作物の収量増加と農家の生活向上を目指しています。同社は、土壌検査サービスやIoTベースの灌漑など現場での農学サポート、高品質の種子、農薬、肥料などの資金投入、農場の収益性を監視・改善するためのデジタルツールなどを提供しています。 CVLのスプリントに参加したことで、製品のアイデアと開発を加速させました。産業用アグリフードグループJapfaと一緒に行ったスプリントで、Japfaのインドネシアの業界ネットワークを活用し、農家の課題を明らかにすることを可能にしました。その結果、現在までに350以上の零細農家に影響を与え、収量を30%増加させました。30万平方メートルを超える農地をカバーしており、うち5万平方メートルはDayaTaniが運営する研究開発農場です。最近では、Ascent Venture Groupが主導し、KBI Investment、MDI Ventures、Northstar Ventures、BRI Ventures、Gentree Fundが参加するシード資金として230万SGDを調達しました。 また、DayaTaniアプリとWhatsAppからアクセス可能な「semi-bionic agronomist(セミバイオニック農学者)」チャットボットを立ち上げ、農家が作物の問題を診断できるようにしました。また、既存の農業技術を改善するためのデータ・サイエンス・モデルの構築にも注力しています。EDBの支援を受け、来年にかけてシンガポールにデータサイエンス研究開発チームを設立し、東南アジアの農業業界向けに多くのチャットボットや製品を開発します。 |
企業:LITEON ベンチャー企業:Cedars Digital |
Cedars Digitalは、先進的なカーボン測定、報告、検証、削減、中和ソリューションを通じて、企業がカーボンニュートラルの実現やエネルギー効率の向上を支援するカーボンマネジメントサービスのスタートアップです。 CVLでシンガポールからスタートした半導体のグローバル企業、LITEONによる初のコーポレートベンチャー企業であり、CVLのスプリントで主力製品のCarbonMをグローバル市場向けにテスト、検証しました。 同社は、包括的なサービスを通じて企業のカーボンマネジメントを強化します。独自のCarbonMプラットフォームはAIを活用し、主にエレクトロニクスや半導体業界向けに完全な炭素管理ソリューションを提供します。また、企業活動を分析し、正確な炭素排出係数を推奨することで、複雑な手計算によるエラー率を低減します。 更に、国際的な検証機関とのパートナーシップにより、企業のカーボン検証プロセスを迅速化し、標準的な8ヶ月のタイムラインを90%削減することを目指します。排出量報告の認証後は専門家によるコンサルティングを提供して、企業がESG目標を達成するための効果的な炭素削減戦略の策定と実行を支援します。また、市場サービスとして、企業が認証された炭素クレジットを購入するためのプラットフォームを提供し、排出量取引制度の要件を満たします。 2024年は、LITEONの現地技術・研究チームの専門知識を活用し、シンガポールでR&Dエンジニアリング、AI、事業開発の役割を拡大します。 |
企業:SC Ventures (venture building arm of Standard Chartered) ベンチャー企業:Engram |
SC Venturesは、スタンダードチャータード銀行がイノベーションを促進し、破壊的な影響をもたらす金融テクノロジーに投資し、代替的なビジネスモデルを探求するためのプラットフォームです。クリエイターの発掘と資金調達を支援し、成長中のデジタル・クリエイティブ・エコノミーにおける知的財産(IP)の可能性を引き出す方法を模索するProject Engramを立ち上げます。 Project Engramは、クリエイターの経済的権利を保護し、オリジナル資産の実証を支援するクリエイティブIPとコンテンツのマーケットプレイスです。クリエイティブIPをトークン化することで、クリエイターの流動性を高め、権利を保護すると同時に、富裕層の次世代投資家に働きかけます。 このプラットフォームは、トークン化された資産のための技術サービスを提供することによって、コンテンツ・クリエーターのオリジナル作品の登録や所有権記録の確保、潜在的な投資家との繋がりを可能にします。また、二次的著作物に関する権利を管理するツールを提供してクリエイターの公正な報酬を支援する計画もあります。 Project Engramは2025年初頭にシンガポールでローンチ予定で、最終的には世界中のクリエイターや投資家をターゲットとすることを見込んでいます。プラットフォームを開発するための技術、財務、製品の専門家からなるチームを構築中であり、経営層および管理職はシンガポールを拠点とする予定です。 |
企業:TÜV SÜD ベンチャー企業:AIQURIS |
ドイツの第三者認証機関テュフズードは、2024年1月に新規ベンチャー企業AIQURIS(旧称AI Procured)を立ち上げました。CVLプログラムを通じて、規格、規制、業界のベストプラクティスに基づくAIシステムの成文化された監査基準であるテュフズードのAI品質フレームワークを活用した技術ソリューションを開発しました。 AIQURISは、企業のビジネスニーズに対応したAIソリューションの評価を支援するソフトウェア・プラットフォームです。AIソリューションが導入される際の重大なリスクや品質要件を特定、監視し、導入が安全、確実、倫理的で、規制に準拠していることを保証します。AIQURISは、新しいAIソリューションの導入に必要な時間と労力を大幅に削減し、調達と導入プロセスを容易にします。 また、AI導入における品質と信頼性のあるベンチマークを設定し、メディア、クリエイティブ、製薬、保険業界、政府機関にわたる安全で効率的なAI統合のニーズに対応します。 |
参考資料B: ベンチャー・スタジオ・パートナーズとオープン・イノベーション・パートナーズ
ベンチャー企業創出: ベンチャー・スタジオ・パートナーズ |
スタートアップ・パートナーシップ: オープン・イノベーション・パートナーズ |
Next by Bain & Company |
Arthur D. Little |
BCG X |
Leap by McKinsey & Company |
EY-Parthenon |
Plug and Play |
FutureLab Ventures |
Start2 Group |
Leap by McKinsey & Company |
|
Wright Partners |
各パートナーの詳細はこちらをご覧ください(英語):
https://www.edb.gov.sg/en/grants/corporate-venture-launchpad-programme.html
参考資料 C: コーポレート・ベンチャーリング・モデルにおけるCVL3.0支援
ベンチャー企業創出支援
企業スタートアップ・パートナーシップ支援
Press Release
4 October 2024