コロナ禍が明らかにしたサプライチェーンの脆弱性
サプライチェーン再構築が求められる理由
コロナショックは、サプライチェーン強靭化の必要性を浮き彫りにした。新型コロナウイルスの感染拡大以降、人やモノの移動が制限されたことで、世界規模で物流や生産活動が停滞。トラック運転手などの不足により国際物流が遅延して、材料や部品などの調達が困難になり、工場も稼働停止に追い込まれるところまであった。販売についても、あらゆる国の対面サービスでの販売が、外出制限・自粛の影響で落ち込む事態になるなど、世界の供給網に大混乱が生じ、サプライチェーンのもろさがあらわになったのである。
デジタル技術の活用と地域連携が強靭化の要
そうした状況のなか、サプライチェーンの担い手である企業にはそれぞれサプライチェーンの見直しが求められているが、企業はどのようにして再構築していけばいいのか。昨年9月にジェトロが開催した「第2回サプライチェーン強靭化フォーラム」で、アメリカのコンサルティング大手のボストン・コンサルティング・グループのマネージングディレクター兼パートナーの岩渕匡敦氏が語ったことがヒントになるかもしれない。
まず、サプライチェーンのデジタル化戦略について岩渕氏は「(1)サプライチェーンの見える化から始まり、(2)サプライチェーンの分析、(3)サプライチェーンの最適化へとレベルを引き上げていくことが重要になる」と言及。つまり、デジタル技術をいかに活用するかが一つのカギになるといえそうだ。
例えば、電話やファクスでのやり取りでは、取引相手としか情報が共有されないが、発注や在庫状況をデジタル技術で見える化し、他のサプライヤーも含めて組織を超えて情報共有すれば、サプライチェーン全体の状況把握や最適化が実現する。そうすれば、さまざまなリスクに対して、“あるサプライヤーから調達できなくなった場合の影響”といった予測分析をしておくことが可能になり、それを踏まえた計画も立てられるようになるだろう。
そのようにサプライチェーン強靭化に欠かすことのできないデジタル技術だが、企業のデジタル技術活用について岩渕氏は、「システムの導入だけではサプライチェーンの強靭化にはつながらない」と指摘。そして、「サプライチェーンを強靭化していくためには、企業・各国政府・地域の観点で、データ連携など、それぞれが有機的に連動していく必要がある」と説明する。
要するに、生産活動のグローバル化により国を超えて構築されているサプライチェーンを強靭化するためには、産業界のデジタル化の取り組みのみならず、各国政府の支援、そして、東南アジア諸国連合(ASEAN)やEUといった国際機関を核とした地域連携も重要だと考えられる。
ASEANによる強靱化のフレームワークを近く公開へ
地域連携に関して、じつはASEANはサプライチェーンを強靱化するためのプロジェクトを既に始めており、同フォーラムではそのことにも触れられた。
ASEANは近年、域内のインフラ整備の計画「ASEAN連結性マスタープラン2025」の一環として、シームレスな国際物流の実現を目指したイニシアティブを実施している。そのなかで、サプライチェーンの効率性・強靱性にかかる独自の枠組みをつくっているところであり、ASEAN事務局は「2022年をめどにその一部を公開する予定」と発表。世界のサプライチェーン強靱化を加速させられるか。公開が待たれるところだ。
一方で、今年は、日本にとって初の経済連携協定(EPA)「日本・シンガポール新時代経済連携協定(JSEPA)」締結20周年の節目でもある。今後も日本とシンガポールの経済的なつながりを強化させて、二国間の貿易や投資を拡大させていくことこそが、両国、そして東南アジアのサプライチェーンを立て直し、さらには、世界のサプライチェーン再構築の礎となるのではないだろうか。
サプライチェーン多元化の切り札に — 東南アジア製造業同盟
企業に東南アジアの工業団地ネットワークを提供するSMA
調達に遅れを生じさせ、生産体制を乱したコロナショックは、限られた市場に供給を依存することの危うさを世に知らしめた。そんななか、1拠点が担っていた生産活動を多拠点へと分散させ、限られていた調達先をいくつかに分けるなど、サプライチェーンを多元化しようと模索している企業は少なくない。
そうした企業にとって、東南アジア製造業同盟(SMA)は役立つ存在かもしれない。SMAはシンガポールと周辺国への投資に関心を持つ製造業者の、工業団地ネットワークの活用を促進することを目的として2021年2月に結ばれた協定だ。
この協定では、シンガポール経済開発庁(EDB)とシンガポール企業庁(ESG)のほか、東南アジアで工業団地を運営する民間企業が連携。民間企業というのは、東南アジア最大級の不動産開発会社のキャピタランド、シンガポールの工業団地運営会社のセムコープ・デベロップメントとガランド・ベンチャーの3社で、マレーシア、ベトナム、インドネシアで合わせて15カ所以上の工業団地を運営している。この3社の協力のもと、SMAはシンガポールを拠点に生産活動を行っている企業に、東南アジアの工業団地ネットワークを提供し、企業の生産拠点の分散化を支援する。