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コロナショックを契機に進む世界サプライチェーンの強化と連携

シンガポールを中心とした生産拠点の分散化

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新型コロナウイルスのパンデミックは、サプライチェーンを世界規模で混乱させ、寸断させた。そうした事態を受け、多くの企業がサプライチェーン強靭化の取り組みを加速しているが、果たして秘策はあるのか——日本貿易振興機構(ジェトロ)が2021年9月にオンラインで開催した「第2回サプライチェーン強靭化フォーラム」の講演内容、さらにシンガポールとインドネシア・バタム島に進出し生産拠点の分散化を成功させている企業の例を軸に考察する。

コロナ禍が明らかにしたサプライチェーンの脆弱性

 

サプライチェーン再構築が求められる理由

コロナショックは、サプライチェーン強靭化の必要性を浮き彫りにした。新型コロナウイルスの感染拡大以降、人やモノの移動が制限されたことで、世界規模で物流や生産活動が停滞。トラック運転手などの不足により国際物流が遅延して、材料や部品などの調達が困難になり、工場も稼働停止に追い込まれるところまであった。販売についても、あらゆる国の対面サービスでの販売が、外出制限・自粛の影響で落ち込む事態になるなど、世界の供給網に大混乱が生じ、サプライチェーンのもろさがあらわになったのである。

デジタル技術の活用と地域連携が強靭化の要

そうした状況のなか、サプライチェーンの担い手である企業にはそれぞれサプライチェーンの見直しが求められているが、企業はどのようにして再構築していけばいいのか。昨年9月にジェトロが開催した「第2回サプライチェーン強靭化フォーラム」で、アメリカのコンサルティング大手のボストン・コンサルティング・グループのマネージングディレクター兼パートナーの岩渕匡敦氏が語ったことがヒントになるかもしれない。  

まず、サプライチェーンのデジタル化戦略について岩渕氏は「(1)サプライチェーンの見える化から始まり、(2)サプライチェーンの分析、(3)サプライチェーンの最適化へとレベルを引き上げていくことが重要になる」と言及。つまり、デジタル技術をいかに活用するかが一つのカギになるといえそうだ。  

例えば、電話やファクスでのやり取りでは、取引相手としか情報が共有されないが、発注や在庫状況をデジタル技術で見える化し、他のサプライヤーも含めて組織を超えて情報共有すれば、サプライチェーン全体の状況把握や最適化が実現する。そうすれば、さまざまなリスクに対して、“あるサプライヤーから調達できなくなった場合の影響”といった予測分析をしておくことが可能になり、それを踏まえた計画も立てられるようになるだろう。  

そのようにサプライチェーン強靭化に欠かすことのできないデジタル技術だが、企業のデジタル技術活用について岩渕氏は、「システムの導入だけではサプライチェーンの強靭化にはつながらない」と指摘。そして、「サプライチェーンを強靭化していくためには、企業・各国政府・地域の観点で、データ連携など、それぞれが有機的に連動していく必要がある」と説明する。  

要するに、生産活動のグローバル化により国を超えて構築されているサプライチェーンを強靭化するためには、産業界のデジタル化の取り組みのみならず、各国政府の支援、そして、東南アジア諸国連合(ASEAN)やEUといった国際機関を核とした地域連携も重要だと考えられる。

ASEANによる強靱化のフレームワークを近く公開へ

地域連携に関して、じつはASEANはサプライチェーンを強靱化するためのプロジェクトを既に始めており、同フォーラムではそのことにも触れられた。  

ASEANは近年、域内のインフラ整備の計画「ASEAN連結性マスタープラン2025」の一環として、シームレスな国際物流の実現を目指したイニシアティブを実施している。そのなかで、サプライチェーンの効率性・強靱性にかかる独自の枠組みをつくっているところであり、ASEAN事務局は「2022年をめどにその一部を公開する予定」と発表。世界のサプライチェーン強靱化を加速させられるか。公開が待たれるところだ。  

一方で、今年は、日本にとって初の経済連携協定(EPA)「日本・シンガポール新時代経済連携協定(JSEPA)」締結20周年の節目でもある。今後も日本とシンガポールの経済的なつながりを強化させて、二国間の貿易や投資を拡大させていくことこそが、両国、そして東南アジアのサプライチェーンを立て直し、さらには、世界のサプライチェーン再構築の礎となるのではないだろうか。

 

サプライチェーン多元化の切り札に — 東南アジア製造業同盟

 

企業に東南アジアの工業団地ネットワークを提供するSMA

調達に遅れを生じさせ、生産体制を乱したコロナショックは、限られた市場に供給を依存することの危うさを世に知らしめた。そんななか、1拠点が担っていた生産活動を多拠点へと分散させ、限られていた調達先をいくつかに分けるなど、サプライチェーンを多元化しようと模索している企業は少なくない。  

そうした企業にとって、東南アジア製造業同盟(SMA)は役立つ存在かもしれない。SMAはシンガポールと周辺国への投資に関心を持つ製造業者の、工業団地ネットワークの活用を促進することを目的として2021年2月に結ばれた協定だ。  

この協定では、シンガポール経済開発庁(EDB)とシンガポール企業庁(ESG)のほか、東南アジアで工業団地を運営する民間企業が連携。民間企業というのは、東南アジア最大級の不動産開発会社のキャピタランド、シンガポールの工業団地運営会社のセムコープ・デベロップメントとガランド・ベンチャーの3社で、マレーシア、ベトナム、インドネシアで合わせて15カ所以上の工業団地を運営している。この3社の協力のもと、SMAはシンガポールを拠点に生産活動を行っている企業に、東南アジアの工業団地ネットワークを提供し、企業の生産拠点の分散化を支援する。

企業がシンガポールを中心に拠点を分散化させる意義

SMAの具体的な支援は、戦略的パートナーが運営するシンガポール周辺国の工業団地とシンガポールの双方に投資する企業に対して行われ、特別な物流料金の適用や、シンガポールでのイノベーション活動に対する最高150万SGD(約1億3,000万円)の助成金、シンガポールのサプライヤーとのマッチングのサポートなどを提供。企業のシンガポールと周辺国への進出を後押しする。

さらに、シンガポールには25カ国と自由貿易協定(FTA)のネットワークがあり、2022年1月にはアジア太平洋地域の経済連携の新たな枠組みである「地域的な包括的経済連携(RCEP)」も発効した。これにより、域内の関税率は徐々に下がっていき、SMAが対象とするシンガポールおよび周辺国の工業団地で生産されたモノの輸出入の多くが、近く無関税または低関税になる。  

つまり、シンガポールを中心に東南アジア一帯に生産拠点を分散させておけば、SMAによる支援や節税によりコストを抑えながら、サプライチェーン寸断のリスクの低減を図れるというわけだ。  そうした点においても東南アジアは生産拠点として理想的であり、SMAを活用した東南アジアへの進出は、サプライチェーンの回復力向上を目指す企業にとって特にメリットが大きいといえる。

シンガポールとバタム島から世界へと羽ばたく企業

 

シークスのシンガポールとバタム島での事業活動

シンガポールとインドネシアのバタム島に拠点を置き、SMAを活用している企業のうちの1社が、電子機器の受託製造サービス日本最大手のシークスだ。

両拠点での活動は、例えば基板実装(配線だけのプリント基板に電子部品をはんだ付けし、電子回路を形成すること)事業の生産はバタム島で行っている。必要な部材は、輸出コストが大きいプラスチック成形品や板金は島内で調達。そのほかの部材については、電子部品はマレーシアや中国から、モーターはベトナムやミャンマーからというようにさまざまな国から調達しているが、それらはシンガポールを通じてバタム島に輸入。そして、組み立てを終えた製品は、シンガポールを通じて、日本や北米、ヨーロッパなどに輸出しているという。

補完関係にあるシンガポールとバタム島

しかしなぜシークスは、わざわざシンガポールとバタム島の両方に拠点を構えているのか。同社の執行役員インドネシア・フィリピン地域担当の河西正則氏は2月16日にオンラインで開かれたセミナー「シンガポールの東南アジア製造業同盟の活用」で基板実装事業を例にこう説明した。
「シンガポールから原材料を運び入れて、バタム島から完成品を出荷しているのですが、シンガポールとバタムを行き来する物流量のバランスが取れています。そのため、物を送った帰りに空のコンテナを引いてくるというようなことがなく、物流効率がいいのです」

さらに物流に関して、「シンガポールの物流インフラは素晴らしい」と河西氏は続ける。シンガポール港のコンテナ取扱量は世界第2位。そして、シンガポールは東南アジアの中継地であることから、一旦荷物を下ろして積み替えをする貨物量が非常に多く、世界主要港のなかでトップとも推計されている。そのため「シンガポールから各地への航路の本数が多く、コロナ禍であっても船舶物流のリードタイムに悩まされることなく、すぐに輸出できている状況」だという。
加えて、シンガポールは東南アジアの中央に位置し、国際金融センターでもあることから、東南アジアでビジネス展開をする企業の多くがシンガポールに拠点を構えており、その点も魅力だと河西氏は評価する。

「シンガポールにはビジネスパートナーが豊富なので、現地での事業展開がスムーズです。また法人税が17%と世界に比べて低く、さまざまな優遇税制があることも、シンガポールに企業が集まりやすい理由だと思います」

一方、海を挟んでシンガポールに隣接するバタム島は、フェリーで1時間ほどと非常に近く、人やモノの移動に便利である。そのうえ、シンガポールから通関手続きを経ずにモノを輸入し、加工や組み立てを経て再びシンガポールへと輸出できる「フリートレードゾーン」に指定されている。
そしてなにより、広大な土地と豊富な労働力を持ちコスト競争力に優れ、河西氏は「人員の定着率が高く、当社のバタム島での離職率は0.3%です」と、さらなるバタム島の魅力について語る。

そのように、シンガポールの物流インフラなどハブとしての機能と、バタム島の生産機能とは補完関係にあるため、両方に拠点を持つことこそが事業を最適化させる近道なのである。

バタム島の拠点では産業用スキャナーの生産が拡大中

シークスのバタム島の拠点では、電機メーカーのエプソンや自転車・釣り用具のシマノをはじめ日系企業が島内で最も多く入居するバタミンド工業団地に工場を構える。発電所や下水処理設備など自給自足インフラが整えられた環境に三つの工場を持ち、大規模な生産活動を実施。従業員およそ1,800人が、基板実装のほか、情報機器や産業機器、医療機器の成形などを手がけている。

特に1999年に生産を開始した産業用スキャナーが好調で、生産台数は右肩上がり。いまでは中国の拠点でも生産を行うなど、事業が拡大しているという。

「産業用スキャナーの生産については、バタム島の生産ラインを中心に、今後自動化に取り組んでいきます。さらに、新製品も立ち上げて、ゆくゆくは生産ラインをメキシコや中国にも拡大する予定です」

そう河西氏が笑顔で語る通り、これからシークスは、シンガポールとバタム島から世界へとますます事業を広げていくに違いない。

林外務大臣とバラクリシュナン外務大臣がサプライチェーンの強靱化などの協力で再確認

 

~第15回日本・シンガポール・シンポジウムで~

日本とシンガポールの共通の課題について意見交換を行う「第15回日本・シンガポール・シンポジウム」が1月25日、26日にオンラインで開催された。林芳正外務大臣とシンガポールのヴィヴィアン・バラクリシュナン(Vivian Balakrishnan)外務大臣が発言し、国際社会が直面するサプライチェーンなどの課題解決に向け両国が協力することの重要性を再確認した。  

26日の公開ウェビナーで、林外務大臣は国際社会について「これまで国際社会の平和と繁栄を支えてきた普遍的な価値や、国際秩序に対する挑戦が一層顕在化し、また、経済的要因が安全保障を大きく左右し始めている」と指摘。そして、「経済安全保障の分野においても、特にサプライチェーンの強靱化、基幹インフラの安全性確保、技術流出の防止などの協力を進める余地は大いにある」との認識を示した。

また、「日本はシンガポールを、地域や国際社会が直面する課題に対応する責任を共有するパートナーと考えている」と強調。「地域の経済関係を強化し、ビジネス環境を整備する観点からも、両国が自由貿易、デジタル化、気候変動などの分野で、旗振り役を務めていくことが重要」と訴えた。  

一方、バラクリシュナン外務大臣は、日本とシンガポールの経済関係について「非常に強固なつながりを有している」と評価。その中核となっているのが今年20周年を迎える「日本・シンガポール新時代経済連携協定(JSEPA)」であると前置きし、「JSEPAはさまざまな機会を企業に提供し、そして、双方の市場の魅力を向上させてきた。現在の経済関係は広範囲にわたり、サービス業や物流といった伝統的分野から、より新しい医療や精密工学といった新興分野にも拡大している」とJSEPAが両国に与えてきた影響を振り返った。  

そして、現在の両国について「コロナによるグローバルサプライチェーンや貿易における混乱にもかかわらず、日本はシンガポールにとって最大の貿易相手国の一つであり続け、またシンガポールのほうも、日本からの投資先として引き続き人気を博している」と話した。

主力産業一覧

主力産業一覧
  • 「未来の航空宇宙都市」と呼ばれるシンガポールは、130社を超える航空宇宙業界の企業を擁し、アジア最大級で最も多様なエコシステムを誇ります。一流企業や宇宙産業スタートアップ企業をはじめとして成長を続ける企業が拠点を置いています。

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  • シンガポールは、アジア市場への玄関口であり、世界トップクラスの消費者向け企業の多くが、環太平洋の拠点としてシンガポールを活用しています。

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  • シンガポールは、東西のクリエイティブカルチャーが交差する場所であり、拡大を続けるこの地域の消費者基盤へ向けて開かれた扉でもあります。世界的ブランドが、地域統括会社を構えており、トップクラスのクリエイティブな企業がシンガポールを拠点としています。

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  • 今日、主要なガジェットにはシンガポール製の部品が使用されています。エレクトロニクス産業の一流企業は、シンガポールで未来を設計しています。

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  • 精製、オレフィン製造、化学製品製造、ビジネスと革新力が強力に融合するシンガポールは、世界最先端のエネルギーと化学産業のハブに数えられています。100社を超えるグローバル化学企業が主要な事業を当地に構えています。

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  • アジアのデジタルの中心都市として、シンガポールは情報通信技術 (ICT) 企業が選ぶ拠点となっています。世界クラスのインフラ、人材、活気のあるパートナーのエコシステムを提供しています。一流企業と連携して、最先端の技術とソリューションを開発し、シンガポールのビジョンであるスマートネーションと地域および世界の市場を支えています。

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  • アジアの流通のハブとして、当地域内外への世界クラスのコネクティビティを提供します。安全で効率的なロジスティクスと、サプライチェーン管理ハブとしての妥当性を以て、シンガポールは地域の境界を超えた取引と消費に貢献しています。

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  • シンガポールは、医療技術企業がこの地域で成長するための戦略的な拠点です。今日、多くの多国籍医療技術企業がシンガポールを拠点として、地域本社機能や製造、研究開発を行なっています。

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  • 資源豊かなアジアの中心に位置するシンガポールは、農産物、金属、鉱物のグローバルハブです。我が国のビジネス環境は、強力な金融、サプライチェーン管理、技術力を以て、世界をリードする企業を引き付けています。

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  • シンガポールは、アジアでも主要な石油 ・ ガス (O&G) 装置とサービスのハブであり、3,000社を超える海洋・オフショアエンジニアリング (M&OE) の会社があります。世界クラスの機能と優れたコネクティビティは、アジアの強力な成長の可能性に着目する多くの企業をシンガポールに誘引しています。

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  • シンガポールが有する優れた人材、強い生産能力、研究開発のエコシステムは、製薬やバイオテクノロジー企業を誘引しています。企業はシンガポールから世界中の人々に薬を提供し、アジア市場の成長を担っています。

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  • シンガポールの洗練された精密工学(PE)の能力と先進の製造技術で主要分野である高度な製造な地域ハブとしての強みを反映しています。

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  • シンガポールは、プロフェッショナル・サービス企業に最適なハブであり、国際的な労働力と信頼できる規制と枠組みを提供します。

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  • アジアは世界的な都市化のメガトレンドの中心であり、人口集中や公害、環境悪化などの都市問題の軽減を目指して、各国政府はスマートで持続可能なソリューションの開発を推進しています。大企業のいくつかはシンガポールを拠点として、アジアのために持続可能なソリューションを商業化すべく、革新、試行、連携を進めています。

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