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シンガポールが取り組む代替タンパク質プロジェクト

シンガポールが取り組む代替タンパク質プロジェクト

代替タンパク質の開発やビジネスで活気づくシンガポール。その担い手は国内外のプレイヤーたちで、「いまにもイノベーションを起こそうとしている」とシンガポール経済開発庁(EDB)のジョン・エン(John Eng)氏は言う。研究機関、生産インフラ、政府機関によるアクセラレーター(事業の成長を加速させる)機能の整備、公的資金の投入など各方面からイノベーションを支える、国を挙げての代替タンパク質プロジェクトのいまを追う(2021年7月2日開催のEDB Webinar: Pioneering Alternative Proteins in Singaporeより)。


勢いづくシンガポールの代替タンパク質業界

シンガポールでは現在、国内企業のみならず多くの外国企業が、代替タンパク質の研究開発やビジネスを行っている。

ここ最近では、細胞培養技術を持つ日本のスタートアップ企業インテグリカルチャーが、エビや甲殻類の細胞培養開発を行うシンガポールのスタートアップ企業Shiok Meatsと共同で、2020年にエビの培養肉の研究開発を開始した。

また、代替卵や培養鶏を開発するアメリカのスタートアップ企業Eat JUSTが、植物由来のタンパク質を生産するための試作的役割を果たす工場、パイロット・プラントの設置場所としてシンガポールを選び、2020年に工場の建設を発表した。

これらはほんの一例に過ぎず、シンガポールの代替タンパク質業界が活性化している理由を、「シンガポールにはイノベーションが起きやすい環境や、販売や生産の面での協力体制が整備されているから」とジョン・エン氏は説明する。そして「シンガポールで活動する代替タンパク質関連各社は、いまにもイノベーションを起こそうとしています」と続ける。

政府機関のサポートと公的資金投入でイノベーションを加速

シンガポールは国を挙げて代替タンパク質産業の育成に取り組んでいる。その一つがシンガポール企業庁(ESG)で、世界の代替タンパク質業界にはどんなマルチプレイヤーがいて、どんなイノベーションが起こり得るのかを調査し、スタートアップ企業や起業家をサポートするアクセラレーター機能の役割を果たしている。

代替タンパク質プロジェクトへの投資も活発で、長期的な公的研究開発資金を確保。その額は1億4,400万米ドル(約157億9千万円)にも上る。

加えて、シンガポールにはシンガポール食料・バイオ技術革新研究所(SIFBI)、臨床栄養研究所 (CNRC)といった公的な優れた研究機関があるため開発能力が高い。また、 TemasekとA*STARの共同設立によるFood Tech Innovation Centre、BuhlerおよびGivaudanが共同で開設したProtein Innovation Centre、技術研究所のFoodPlant@Singapore Institute of Technologyをはじめ、産業界のための研究開発インフラも備えている。

代替タンパク質の食品安全リスク管理と進む法整備

代替タンパク質の販売に関する協力体制も整っている。培養肉などの新たな食品の市販前の承認については、シンガポール食品庁(SFA)が企業を導いており、ジョン・エン氏は「イノベーションが起こりやすい規制にすることに務めており、その結果、世界で初めて培養肉の販売を認めることができました」と胸を張る。

そのほか、リサーチ施設Future Ready Food Safety Hub (FRESH)が、食品安全リスクについて代替タンパク質スタートアップにガイダンスを提供するとともに、消費者意識に関してアドバイスを行い、商業化を促している。

さらに、アジア市場に新たに展開しようとしているスタートアップにとっては、流通が課題となるため、空港業務や機内食を手掛けるシンガポール企業 Singapore Airport Terminal Services(SATS)とのパートナーシップによるワンストップの流通プラットフォームも提供している。

共有設備や高い技術で代替タンパク質生産をバックアップ

シンガポールでは代替タンパク質の生産もスムーズに行える。まず、設備の共有化が進んでいるため、生産設備へのコスト負担を抑えられる。レンタル設備では、85,000平方メートルの敷地に建設された食品メーカー向け施設や、冷蔵庫と倉庫が一体化した施設。また、噴霧乾燥機や押出機、殺菌装置などを完備したシンガポール工科大学運営の小ロット生産用の施設などが整備され、シンガポールで事業を展開する企業はいつでも活用できる。

さらに、シンガポール初の代替タンパク質生産の受託工場SGProteinも建設中。アメリカの工業メーカー Buhlerの最新技術が採用され、植物由来の代替タンパク質年間3,000トンを生産する能力を持つ。

ジョン・エン氏は「GTM(Go-to-Market)を考えるうえで、生産スピードは重要」としたうえで、代替タンパク質生産におけるシンガポールの協力体制について「設備面の充実はもちろん、シンガポールは世界第8位の化学品輸出国として高品質で熟練した生産技術を持っています。乳児用栄養食品と飲料の世界の主要生産拠点にもなっていて、品質に対する世界からの信頼も厚いです」と自信を見せる。

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