5
自動化にむけて加速するシンガポールの製造業

自動化にむけて加速するシンガポールの製造業

製造業の競争力強化のカギを握るインダストリー4.0。デジタル化と自動化という二つのテクノロジーによって、製造業の生産性を大きく向上させる。マッキンゼー・アンド・カンパニーの発表によると、ロボットや無人搬送車などを、モジュールを使用して工場に統合すると、生産性は300%も大幅に上昇すると予想している。


またハーバードビジネスレビューでは、自動化の導入は雇用に置き換えられるものではなく、より多くの価値を生みだすものだとしている。従業員の作業負担を減らすだけではなく、彼らが新たなスキルを身につけることで、より専門性の高い職種として、給与の増加や雇用創出の機会につながるのだ。今回はシンガポールにおける製造業の自動化導入と改善に向けたさまざまな活動をご紹介しよう。

BDのアドバンスド・モールディングセンターでジョブトレーニングを受ける新入社員 Photo by Becton / Dickinson

企業のインダストリー4.0導入に向けたシンガポール政府の取り組み

シンガポール経済開発庁(以下、EDB)は、企業がインダストリー4.0を導入するためにさまざまな取り組みを行っている。例えば、2017年には、企業がインダストリー4.0を導入するための「シンガポール スマートインダストリー準備指標(SSIRI)」を発表。各企業が自社の現状を知り、インダストリー4.0へ移行していくための具体的な指針となるフレームワークを提供している。また、シンガポール科学技術研究庁(A * STAR)の研究機関であるシンガポール製造技術研究所(SIMTech)では、自動化とデジタル化によって生産性が向上したスマートファクトリ―のモデル工場を立ち上げている。このモデル工場では、本物の生産ラインでの試験的な運用ができたり、自動化工場に適応する能力を身につけるトレーニングが行われる。

ロボティクスとAIがシンガポールの製造業の生産性を加速させる

こうした取組を受け、シンガポールではさまざまな企業が自動化に向けて動き出している。 例えばオムロンはシンガポールに最新のオートメーションセンターを開設している。このオートメーションセンターでは、このセンターはイノベーションショールーム兼研究開発施設を兼ねており、ロボティクスを中心にAIやIoTなどの次世代製造技術に1,350万シンガポールドルが投じられた。また、村田機械の自動マテリアルハンドリングシステムは、自動保管、搬送および倉庫管理システムによって、ピッキングや仕分け、配送など倉庫管理から物流までを一元的に管理し、コスト削減と生産性向上をもたらす。このソリューションは、半導体やエレクトロニクスを始めとする工場での生産システムの自動化・無人化から、企業の経営に直結したロジスティクス(戦略物流)の推進まで、多様な業界・場面での導入が期待されている。一方、米国に本拠を置く医療技術の世界的リーダーであるBecton Dickinson(BD)が、シンガポールにアジアで最初のアドバンスト・モールディングセンターを開設しました。同センターは、アジアにおけるBDの主力プラスチック成形製造施設であり、同社にとって世界で最大かつ最も洗練されたプラスチック成形工場の1つだ。アドバンスト・モールディングセンターでは、データ分析を使用して製造プロセスを追跡することで製造能力を高め、医療製品の製造に不可欠な高品質プラスチック部品の正確かつ一貫した生産を可能にする。このプロジェクトにより、BDは従来の50%以上のプラスチック部品を生産することができます。さらに、シンガポールのロボティクスとオートメーションの会社であるPBA Groupと韓国の産業用ロボット会社Hanwha Roboticsは、EDBのサポートによって、新たにロボット製造設備を共同で立ち上げている。このロボットはピッキングや配置、パレット積み、ねじ回し、研磨、分配といった作業を行うもので、従来は手作業で行われていたものを自動化によって効率化してくれる。PBA Groupはまた、自動倉庫ソリューションを提供する企業KAZEを立ち上げている。KAZEは、PBA の持つ精密ロボット工学、モーションコントロール、ビジョンシステムなどのエンジニアリング技術を結集して作られた会社で、インダストリー4.0を全面カバーするソリューションの設計・製造を行っている。その代表的な製品が、シンガポール製の自律走行ロボットThe Golden Retriever AMRシリーズだ。The Golden Retriever AMRシリーズは、頑丈で柔軟性があり、フリートマネジメントという車両管理システムや倉庫自動化ソフトウェアで管理することができ、さまざまな業界に簡単に導入することができる。PBAの社内製造能力を活用して、KAZEは顧客に応じてカスタマイズして提供することもできる。倉庫自動化への移行は、東南アジア初のロボットアームの共同製造施設であるPBA-Hanwha Roboticsローンチに続く動きとなる。これらの開発により、PBAロボティクスとオートメーションソリューションの範囲がさらに強化されている。

PBAのGolden Retriever AMR Photo by PBA

企業の変革を支援する新たな支援サービスも始動

2019年1月に、EDBは新たに、ドイツの認証会社TÜVSüd、マッキンゼー・アンド・カンパニー、SAP、シーメンスと共に大小問わず、全ての企業がインダストリー4.0を導入するための新たな支援サービスを開始した。EDBは、具体的な企業の現在のレディネススコア(SSIRIによって計算されたインダストリー4.0に向けた準備状況)とリソースの状況に応じて、重点分野とデジタルイニシアチブを推奨していく。そしてパートナー企業は具体的に次のような役割を担う。マッキンゼー・アンド・カンパニーは、企業が自動化をするためのプロセスの再設計や、テクノロジーロードマッピング、組織能力開発を担い、SAPは、製造業のインテリジェント化を支援する。またシーメンスは、デジタル化するための固有のポートフォリオを提供する。これには自動化だけではなく、ソフトウェアアプリケーションや、通信、セキュリティなども含まれる。そして企業がデジタル化・自動化をする過程の信頼性はTÜVSüdの認証によって担保される。シンガポールのスマートファクトリーイニシアチブは今後さらに加速していくだろう。

関連記事