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先進的製造業のデジタル革命と持続可能性の最前線

先進的製造業のデジタル革命と持続可能性の最前線

デジタルトランスフォーメーションからイノベーションやサステナビリティの推進にいたるまで、「未来の工場」を稼働させる企業とシンガポールとの提携について、シンガポール経済開発庁(EDB)のジャクリーン・ポー(Jacqueline Poh)次官が語る。

先進的製造業のデジタル革命と持続可能性の最前線

​​シンガポールは先進的製造業分野の強化を引き続き進めている。国土の面積が狭いにもかかわらず、製造業はシンガポールにとって経済の大きな柱だ。2023年には国内総生産(GDP)の20%近くを占め、労働力全体のうち12%の雇用を創出している。特に、半導体、ヘルスケア、特殊化学、航空宇宙産業といった高付加価値分野の成長に注力している。​ 

​​シンガポールの製造業をめぐる状況は発展を続けており、特にインダストリー4.0が提唱するテクノロジーが戦略的に重視しているのだ。さらに、インダストリー4.0をリードする最先端の施設として世界経済フォーラムが指定する、デジタル技術、データ分析、スマート製造プロセスを統合した「ライトハウス工場」も増加している。​ 

デジタルトランスフォーメーションからイノベーション、サステナビリティの推進にいたるまで、シンガポールの「未来の工場」へのアプローチについて、 EDB のジャクリーン・ポー次官は下記の動画 * の通り語っている。

* 英語のみ。 YouTube の自動翻訳機能で日本語字幕をご利用いただけます。
 

The Future Of Manufacturing - Episode 5 Jacqueline Poh: Making Factories of the Future video thumbnail image
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​先進的製造業のエコシステムを強化するためにシンガポールが行っている3つの施策​ 

 

​​1. デジタルトランスフォーメーションによって生産性を飛躍的に促進​ 

​​シンガポールは、​スマートインダストリー準備指標​(SIRI)を通じて、製造業者に対しインダストリー4.0のテクノロジーを導入するよう積極的に勧めている。このSIRIによって、企業は自社のデジタル成熟度を評価して改善が必要な領域を特定し、デジタルトランスフォーメーションのためのロードマップを作成することができる。グローバルスタンダードと自社とを比較評価することで、製造業企業はテクノロジーへの投資やプロセスの最適化について情報に基づいた意思決定を行い、生産性や競争力をグローバル市場において向上させることができるのだ。​ 

 ​​たとえば、シンガポールで金型製造業に従事する日本企業のKOEI TOOLは、インダストリー4.0による変革を通じて大幅な成長を成し遂げている。デジタルツールやスマート製造テクノロジーを活用することで生産性を60%以上向上させた。​ 

KOEI TOOLが取り組んでいるインダストリー4.0による変革の詳細についてはこちら
 

​​2. コラボレーションを通じてイノベーションを促進​ 

​​シンガポールの先進的製造業におけるイノベーション戦略において、成長を続ける鍵を握っているのはコラボレーションだ。これが明白に示されているのは、政府機関である科学技術研究庁(​A*STAR​)が所管する再製造技術開発センター(​ARTC​)などの施策である。ARTCは官民が連携するプラットフォームであり、産業界のリーダー、研究機関、政府機関が先進的製造ソリューションに関する共同開発・実証実験を行っている。他にも国立付加製造イノベーション・クラスター(​NAMIC​)が例として挙げられる。NAMICは、様々な分野にわたって3Dプリンティング技術の導入を加速し、イノベーションと生産性を推進することに特に力を入れている。​ 

​また、シンガポールに進出する企業は、シンガポール国内企業(中小企業286,000社など)と提携し、アジア・グローバル市場向けにソリューションをローカライズしたり、国内サプライヤーのネットワークを構築したりすることでサプライチェーンの強靭性を高めることもできる。国内企業にとっても、リソースや専門知識へのアクセスを得ることが利益になる。例えば、シンガポールに本拠を構える精密プラスチックエンジニアリング企業のSunningdale Techは、あるグローバル企業と提携し、グローバル自動車メーカーに向けた新たな製造技術と試作品を共同開発した。この新たな製造技術により、同社は他メーカーとの案件を複数勝ち取った。シンガポール政府による「能力変換のためのパートナーシップ(​PACT​)」スキームは、こうした協働を支援し、シンガポールに拠点を置くグローバル企業と国内企業が提携する際に発生する費用の一部を負担している。
 

​​3. 製造業とロジスティクスの両分野にわたってサステナビリティを統合​ 

シンガポールは、企業がアジア全域にわたる脱炭素化を進め、グリーン経済関連の新たな機会を得るための取り組みに支援を行っている。こうした支援は、産業関連施策や助成金の組み合わせにより実施されている。例えば、シンガポールの工業用地の80%以上を管理する​​JTCコーポレーション(通商産業省所管の法定機関で工業、商業地区の開発管理を行なっている)​​は、可能な限り太陽光パネルを設置することで​シンガポールの太陽光発電導入目標実現に寄与​している。こうした取り組みにより、2030年までに少なくとも2ギガワットピーク(GWp)の太陽光発電設備容量を備え、シンガポールの総電力需要の約3%を満たすことを目指している。

​​シンガポールは再生可能エネルギーをより利用しやすくなるように取り組んでおり、EDBでは​エネルギー効率やサステナビリティに関する報告書作成補助金​を通じて企業を支援している。企業の炭素排出量削減に向けた取り組みを支援するため、EDBは「エネルギー資源効率化助成金」を拡充し、受給するために必要な二酸化炭素排出量の削減基準を500トンから250トンに引き下げた。これによってより多くの産業施設がこの助成金を活用し、エネルギー効率を改善し排出量を削減するプロジェクトに取り組むことができるようになる。​ 

​​製造業分野では、グリーンソリューションに着手する企業がいくつかある。グローバルバイオ医薬品企業であるアストラゼネカの​抗体薬物複合体(ADC)製造施設​は、操業開始初日からゼロカーボンを実現するよう設計されている。同様に、バイオ医薬品大手のGSKは、2025年1月1日から​シンガポールにある3つの製造拠点を再生可能エネルギーで100%まかなう​予定である。GSKは、シンガポールの政府系エネルギー企業であるセムコープ(SembCorp)との10年間にわたるエネルギー契約に基づき、GSKの製造施設が必要とする電力はセムコープの太陽光発電プロジェクトから供給され、再生可能エネルギー電力証書が発行される。GSK製造拠点内の太陽光パネルからは電力需要の約3%が供給されるのだ。​ 

​​ロジスティクス分野では、シンガポールを起点とする域内やグローバルサプライチェーンを取りまとめる製造業者の取り組みを支援するトップクラスの企業が存在し、効率性と競争力を維持しつつ環境に優しい慣行を導入している。​ 

​​ロジスティックス・輸送のリーディングカンパニーであるトールグループは、シンガポール内の自社施設で新たなテクノロジーを活用し、エネルギーの消費と温室効果ガスの排出を削減している。自動運転車両やスマートシティ・テレマティクスなど、運行車両群をリアルタイムで追跡・最適化するテクノロジーが用いられている。​ 

​グローバルなロジスティックス・サプライチェーンサービスプロバイダーである​DSV​もまた、シンガポールにDSV Pearlという新たな物流拠点を建設中で、米国のLEEDゴールドやシンガポール建築建設庁(BCA)のグリーンマーク・プラチナといった環境性能評価の認証取得を目指している。DSV Pearlには再生可能エネルギーを利用するため太陽光パネルが設置され、施設や電気自動車(EV)充電スタンドに電力を供給する。また、エネルギー消費を最適化するためスマート照明システムも導入予定である。
 

​​シンガポール:先進的製造業にとって利点の多いグローバルな拠点​ 

​​先進的製造業における数々の実績、世界最高水準のインフラ、そしてイノベーションへのコミットメントにより、シンガポールは製造業の未来を切り拓こうとしている企業にとって魅力的な進出先となっている。貿易・物流拠点としての確かな利便性、ビジネスフレンドリーな政府の政策、そして充実した研究エコシステムを備えており、シンガポールは企業や製造業界のソリューション提供に即応できる信頼に足るパートナーとなる。​ ​​シンガポールが行っている、先進的製造業の事業を加速させるための取り組みに関しては、ポケットガイド​『シンガポールが拓く製造業の未来』​をダウンロードの上、ぜひご参照ください。​ 

また、本年度の予算案では、企業成長を支援するためのさまざまな施策が盛り込まれており、返金可能投資クレジットやAI、サステナビリティ、人材育成への助成などが含まれていますので、シンガポールがどのように企業をサポートしているかについて詳細にご紹介いたします。 

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