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AIやIoT技術の進歩とともに急成長中の半導体産業に力を入れるシンガポール

AIやIoT技術の進歩とともに急成長中の半導体産業に力を入れるシンガポール

AI(人工知能)や電気自動車など、成長を続ける最先端技術の発展により、半導体産業の市場価値は10年後までには1兆米ドルを超え、現在の2倍規模になると予想されている。こうしたデジタル経済の中で存在感を増しているのが、半導体の国際ハブ・シンガポールだ。

AIやIoT技術の進歩とともに急成長中の半導体産業に力を入れるシンガポール

シンガポールの半導体産業が持つ強力なエコシステム

シンガポールは長年にわたり、半導体やメモリー製品、センサーに至るまで、電子製品のグローバルサプライチェーンにおける一大拠点となっている。半導体の研究開発・製造活動を通して強力なエコシステムを構築し、企業間のつながりを育むことによって、半導体業界を発展させてきたのである。

最初の半導体工場は、世界で実用化が加速し始めた1969年、フェアチャイルド・セミコンダクター、ナショナルセミコンダクター、STマイクロエレクトロニクス、テキサス・インスツルメンツによって設立。すでに50年以上もの歴史を刻む。いまやシンガポールの半導体産業は、GDPの約6.8%、製造業生産高の3分の1を占め、シンガポール経済の重要な柱となっている。

とりわけ、メモリーカードやSSDなどに採用されているNAND型フラッシュメモリー、デバイス間の信号伝送を可能にする無線周波数フィルター、車載機器向けIC(集積回路)などといった特定の半導体ICにおいて、シンガポールはサプライヤーとしての地位を確立。さらにIC設計、半導体装置の製造、高度なパッケージング技術と最終テストにも強みを持つ。

そんなシンガポールには、半導体産業における世界のトップ企業の多くが集まり、拠点を置く。アメリカのマイクロン・テクノロジーやブロードコム、欧州のSTマイクロエレクトロニクスやインフィニオンテクノロジーズ、そして台湾のメディアテックやユナイテッド・マイクロエレクトロニクスなどもそうだ。
 

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半導体産業の成長を支援する魅力的な投資先シンガポール

世界規模の半導体企業が、シンガポールに進出するのはなぜなのか。シンガポール経済開発庁(EDB)のタン・コンフィ(Tan Kong Hwee)副次官によると、シンガポールのビジネスに適した環境、政治的安定性、熟練した労働力、将来を見据えた規制などが魅力となり、価値の高い製品をグローバルに製造し輸出する拠点として、シンガポールが選ばれているという。シンガポールは、企業が自信を持って投資できる場所なのである。

例えば、シンガポールは多くの国々とFTA(自由貿易協定)ネットワークを築いている。輸出入先を多角化することによってより多くの企業が生産拠点を多様化し、より強靭かつ俊敏なサプライチェーンを構築できるよう尽力してきたのだ。
新型コロナウイルスの世界的な流行のピーク時でさえ、シンガポールは半導体工場とその主要サプライヤーの事業継続のために、資材、設備、製品の自由な流通を確保するよう配慮した。

半導体不足の問題が顕在化する前から、半導体産業の成長を強力に支援する取り組みも行われた。大規模な半導体製造プロジェクトに必要とされる、振動試験済みの工場用地、電気・工業用水の整備など、必要なインフラを確保するための先行投資を続けてきた。一方で、シンガポールの半導体産業をが持続可能にするため、エネルギー供給構成の多様化を推進。2035年までにシンガポールの発電能力の約3分の1、最大4ギガワットの低炭素電力の輸入を目指している。

EDBとESG(エンタープライズシンガポール)、民間セクターの三者協定である、「東南アジア製造アライアンス(SMA)」も設立。シンガポールと東南アジア地域への投資に関心がある企業に対し、さまざまな地域の補完的な利点を組み合わせ、東南アジアでの生産拠点の拡大、サプライチェーンの多様化を支援している。

ろ過・分離・精製技術の先進企業である米Pall Corporationも、シンガポールに進出する一社だ。シンガポールに先端半導体製造用のろ過ソリューションを提供する最新の製造施設を建設する計画が進行中で、2022年8月には起工式が行われた。これは世界的な半導体需要に対応することを目的としたもので、設備投資額は1億米ドル(約1308億円)にものぼるという。

社長のナレシュ・ナラシムハン(Naresh Narasimhan)氏は、「アジア太平洋地域(APAC)は、今日、世界の半導体市場の大部分を占めており、まもなく他の市場を凌駕すると予想しています」と述べ、シンガポールの新たな製造施設が、域内顧客の地域ハブとして機能することに期待を寄せる。

さらに、シンガポールは、熟練した人材を活用した能力開発にも力を入れている。エレクトロニクス産業の主要なサブセクターを形成しているシンガポールの半導体業界では現在、5万9000人以上の従業員を雇用し、今後5年間でさらに約5200人増加すると予想している。より多くの学生が卒業時に半導体産業に進むことを奨励するため、EDBは企業、業界団体、教育機関と協働して、学生のためのキャリアフェア、工場訪問、半導体啓発週間の実施や、トレーニングプログラムなどに取り組んでいる。今後はシンガポール人だけでなく、グローバルな人材の確保にも力を入れていく予定である。
 

Photo Credit: Pall Corporation

Photo Credit: Pall Corporation


シンガポールが見据える半導体産業の未来

シンガポール政府は2021年から2025年にかけて、研究、イノベーション、企業への投資を支援するために250億SGD(約2兆6250億円)の予算を確保しており、その一部は半導体企業のさらなる研究開発の支援に充てられる予定となっている。

というのも、シンガポールの半導体業界は、企業、研究機関、大学で構成される強力なR&D(研究開発)エコシステムによって大きく支えられているからだ。またシンガポールには強力な知的財産制度があり、企業がシンガポールで生み出す新しい製造技術を保護。こうして5G、電気自動車、AR・VRなどのメガトレンドを可能にする能力と技術を構築している。

加えて、これからの半導体産業にとってシンガポール政府が必須事項と捉えているのが、“持続可能性”だ。シンガポールがビジネスパートナーにとって信頼できる製造拠点であり続けるために、気候変動という世界的な課題にお置いて積極的にその役割を果たすことを約束している。

シンガポールは今後、太陽光発電の導入を拡大するほか、再生可能エネルギーである低炭素電力の輸入、炭素削減技術の開発と採用も検討している。

今後の半導体産業の展望について、タン・コンフィEDB副次官は、「シンガポールに拠点を置く企業が、さまざまな市場への取引を容易にし、グローバルサプライチェーンのアクセスを享受できるよう、引き続き努力していきます」と力を込め、さらに日本の企業にこう呼びかける。

「シンガポールは小さな国かもしれませんが、私たちは世界の多くの半導体企業にとって、重要な製造および研究開発の拠点になっています。もちろん、半導体やその他の電子部品セグメントで構成されるエレクトロニクス産業を成長させ続けることは、シンガポールだけでは難しい。グローバルパートナーシップを結び、コミュニティーを構築し、各パートナーの強みを活用する必要があります。だからこそ、日本企業とパートナーを組んで、ここシンガポールで先端技術の開発・製造を行い、双方の国際競争力を高めていきたいと考えています」

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