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アジア経済を盛り上げる協業促進の取り組み

アジア経済を盛り上げる協業促進の取り組み

政府および民間企業の代表者が両国間の経済協力などについて対話する「第2回日本・シンガポール官民経済対話」が2024年4月に開催された。そこで合意されたのが、日本とシンガポール間の協業促進のための取り組み「日本・シンガポール共創プラットフォーム(JSCCP)」の創設であり、「日本・シンガポール・ファストトラック・ピッチ 2024」の開催も同時に発表された。アジア経済の発展にも寄与する二つの取り組みの詳細や実際の活動について、また、日本とシンガポールをまたぐ戦略的なパートナーシップの事例などについて伝える。

アジア経済を盛り上げる協業促進の取り組み

共同でイノベーションを進めるための「日本・シンガポール共創プラットフォーム」 

シンガポールで2024年6月6日、「日本・シンガポール共創プラットフォーム(JSCCP)」の開始を記念したキックオフセミナーが開催された。JSCCPは、日本とシンガポールの企業、大学、研究機関などのオープンイノベーションを長期的に促進するための新たな枠組みだ。 

セミナーには、齋藤健経済産業大臣やシンガポールのタン・シーレン(Tan See Leng)第二貿易産業大臣が出席した。タン大臣は「ここにいるすべての人が積極的に意見を交換し、お互いを知り、新たなパートナーシップを築くことを奨励します」とJSCCPに期待を寄せた。 

JSCCPでは、両国の先進的な知見を共有し、共同開発プロジェクトや企業間連携を促進するほか、大学・研究機関の研究成果の商業化、国際展開に向けた取り組みを推進していく。具体的には、シンガポールにイノベーション機能を持つ日系企業や、同機能の設置を検討している日系企業に対して、情報や協業機会を提供する。 

第2回のセミナーも7月19日にシンガポールで開かれ、政府と民間企業の代表者がシンガポールにおける共同イノベーションの機会と支援策について意見交換を行った。 
 

JSCCPでのセミナーの模様

JSCCPでのセミナーの模様

企業間のコラボレーションを促す「日本・シンガポール・ファストトラック・ピッチ」

7月19日には「日本・シンガポール・ファストトラック・ピッチ 2024」のファイナリスト・ピッチも開催された。

日本・シンガポール・ファストトラック・ピッチは、経済産業省と日本貿易振興機構(JETRO)、シンガポール政府機関が共同で、両国の企業間の連携を短期的に促すための取り組みだ。

同ピッチコンテストでは、日本とシンガポールのチャレンジオーナー5社(AGC、アルケマ、ASLマリーン・ホールディングス、三井化学、NTT DOCOMO ASIA)が、他社との協業により解決を図りたい課題(チャレンジ)を提示し、スタートアップ企業などから提案を募った。

当日は、約300名(会場参加約170名、オンライン参加約130名)の聴衆が見守るなか、約50件の応募から選ばれた13社のファイナリストがプレゼンテーションを行い、チャレンジオーナー各社がアワードを選出した。 

NTT Docomoに選出されたスタートアップ Accredity

NTT Docomoに選出されたスタートアップ Accredity

【アワード受賞者】

  • AGCはシンガポールのBreathless Studiosを選出:AI(人工知能)画像解析によるガラス分別 
  • アルケマは日本のエマルションフローテクノロジーズを選出:リチウムイオン電池からレアアースを回収、リサイクルする技術を開発 
  • ASLマリーン・ホールディングスは日本のAC Biodeを選出:環境に配慮した効率的なケミカルリサイクル用触媒を開発 
  • 三井化学はシンガポールのRainforestを選出:マタニティ・子ども用品に樹脂素材を応用 
  • NTT DOCOMO ASIAはシンガポールのAccredifyを選出:ブロックチェーンによる、検証可能なクレデンシャルを使用して、さまざまな場面に対応する認証ソリューションを提供 
     

商船三井や日本郵船は既に協業をスタート 

上記の二つの取り組み以外にも、日本とシンガポール間では、ビジネスや技術における協力が盛んに行われてきた。

例えば、近年では、大手海運会社の商船三井とシンガポールの海運系スタートアップPyxis Maritimeが2023年11月、海運業界を取り巻く環境意識の高まりに対応するため、シンガポール域内での電気推進船(EV船)の事業化に向けた協業に合意した。主にEV船の共同研究・開発・建造や、日本でのEV船導入拡大に向けたマーケティングなどに注力していく。 

海運会社としてさまざまなノウハウを培ってきた商船三井と、スタートアップ企業ならではの柔軟な発想力と意思決定スピードを持つPyxisのコラボレーションに、各方面から注目が集まっている。 

また、大手海運会社の日本郵船とシンガポールで海事産業の脱炭素化を目指す非営利団体Global Centre for Maritime Decarbonisationは2024年6月、バイオ燃料が船の設備に与える影響について調査を開始した。 

バイオ燃料は既存の船舶用エンジンや燃料供給設備をそのまま利用できるうえ、温室効果ガスの排出を削減する有力な手段とされている。これまでにさまざまなバイオ燃料の試験が行われてきたが、主に燃料特性と温室効果ガスの排出削減効果に焦点が当てられてきた。そこで同プロジェクトでは、日本郵船が運航する自動車専用運搬船でバイオ燃料を6カ月間継続使用し、バイオ燃料がエンジン性能や燃料供給システムに与える影響について調査する。

経済団体の関西経済連合会、JR東日本のシンガポール現地法人であるJR東日本東南アジア事業開発、不動産会社の阪急阪神不動産もタッグを組む。シンガポールと関西双方のイノベーション創出を目指した連携協力に関する協定を2023年12月に締結した。 

具体的には、シンガポールに専任のアドバイザーを設置し、コワーキングスペースの提供やシンガポールの企業紹介などを行う。同様に、関西でもスタートアップ支援施設でシンガポールスタートアップ企業を受け入れるとともに、企業紹介などの支援をしていく。シンガポール・関西それぞれで、ビジネスコミュニティ形成の促進を図り、両者を結ぶ新たなビジネスチャンスの創出を目指す。 
 

パートナーシップが課題をチャンスに変える 

気候変動やAIの台頭など、世界は刻一刻と変化している。こうした状況において、イノベーションや戦略的パートナーシップは、アジアの成長の重要な原動力となるだろう。2024年5月、ガン・キムヨン(Gan Kim Yong)副首相は日本経済新聞社主催の国際会議である日経フォーラム第29回「アジアの未来」で以下のように述べている。 

「過去数十年にわたり、アジアは目覚ましい成長を遂げてきました。世界のGDPに占めるアジアの割合は、1980年代の約20%から現在では45%へと2倍以上に増加しています」

「私たちはいま、不確実で複雑な世界に生きています。この荒波と不確実性をいかにうまく乗り切るかが、私たちの子どもや孫たちの未来を左右するでしょう。簡単な解決策はありませんが、アジアのダイナミズムと、機敏なパートナーシップ、ダイナミックな成長、包括的な開発への取り組みが相まって、私たちはこの不確実な時代を乗り切り、課題をチャンスに変え、アジアのリーダーシップを確固たるものにし、より強く、より豊かになることでしょう」 

今回紹介した取り組みは、日本とシンガポール、そしてアジア経済のさらなる発展に貢献するだろう。 

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