きたるべきIoT社会を見すえた取組
それでは村田製作所はバッテリー事業をどのような分野への開拓を目指しているのだろうか。これまで同社の電池は、スマートフォンが中心であったが、需要が一巡している中大きな成長は見込めない。その一方で来るべきIoT社会では、ウェアラブル端末や電気自動車など新たな分野におけるバッテリー需要が高まるとされている。しかも、今日のエネルギー需要は、より薄く、より軽く、より耐久性があり、より長持ちするといった新たな充電式セルがもとめられている。また形状も多様化しており、例えばウェアラブル端末も耳に装着するヒアラブルやリストバンド型端末といった多様な形状があり、村田製作所ではこうしたニーズにこたえるため、生産設備の増強に乗り出している。特に中国とシンガポールにある生産拠点をアップグレードするために村田製作所は約500億円を追加投入した。中でも村田製作所が力を入れているのがシンガポール工場だ。
シンガポールを基点にグローバル市場に展開
村田製作所は、全リチウムイオン電池の半分以上をシンガポールで生産する計画だ。シンガポールを基点にグローバルに展開することで、薄く、軽く、丈夫な充電式バッテリーセルの世界的な需要の高まりにこたえることができる。またシンガポールは5Gモバイル接続とモノのインターネット(IoT)の推進にも力をいれており、充電式バッテリーを備えたデバイスの需要を刺激している。ムラタ・エレクトロニクス・シンガポールのゼネラルマネージャー、ヤオ・シーチーエ氏はシンガポールでのバッテリー生産について次のように述べている。「クリーンコードレス電源、エネルギー貯蔵、5G、電化製品、モビリティといった新興市場のトレンドにソリューションを提供するために、製品とプロセスの観点から常に新しいテクノロジーに挑戦しています」。
世界のエネルギー需要を満たすためのプラグイン開発
シンガポールの政治的安定性と優れた人材が容易に確保できる点も、村田製作所がバッテリー事業を拡大する上で重要な要素となっている。村田製作所がシンガポールに現地法人を設立したのは1972年。当初は海外初の工場の一つとしてスタートしたムラタ・エレクトロニクス・シンガポールだが、いまでは従業員数2,800名を擁する地域の一大統括拠点となっている。そしてこのシンガポール法人は、バッテリー事業のグローバル展開のため新たな電池のラインナップ拡充を行っている。そしてそのためのイノベーション開発と製造の加速にシンガポールの人材が活かされている。例えば、ムラタ・エレクトロニクス・シンガポールは、シンガポールのスマートエネルギー管理システムをテスト開発するために、シンガポールの大学やジュロンタウン公社(JTC)、シンガポール経済開発庁(EDB)と強力なパートナーシップを確立している。そのプロジェクトの1つとして、セマカウ埋立地の再生可能エネルギー資源のオフショア統合ネットワーク用の200kWhエネルギー貯蔵システムがある。
ゼネラルマネージャーのヤオ氏は、シンガポールで研究開発を進めるメリットについて以下のように述べている「ここには優れた大学があり、優れたエンジニアや技術的才能を生み出す研究所もあります」。
シンガポールでイノベーションを起こし世界市場へ
シンガポールをハブとして使うもう一つのメリットが、周辺諸国へのアクセスの良さ、ビジネス展開のスムーズさだ。シンガポールの優れた技術力を活かし、大学などの研究機関や政府機関と連携を進めイノベーションを起こし、その技術力を持って周辺諸国に素早く展開する。ヤオ氏もシンガポールの持つこの強みについて以下のように語っている。「政府は投資を支持しており、自由貿易協定は製品の輸出を容易にしています。さらに周辺諸国へのビジネスの展開は、大きな航空会社と配送ハブによって促進されます」。IoT社会の未来を築くバッテリー事業がシンガポールを中心に世界中に広がっていくことだろう。