現地採用で研究所の人材を強化
The GEARのほかにも、600戸以上の分譲住宅を含むシンガポールの複合施設「The Woodleigh Residences & Mall」の開発プロジェクトをはじめ、オフィスやホテル、工場など、アジア地域で数々の建設・開発プロジェクトに携わってきたKaTRIS。同研究所が果たす役割には、シンガポールで活動しているからこその特徴があると伊達氏は説明する。
「シンガポールは新たな技術、とりわけ社会に役立つ技術を重視する国で、政府がR&D活動を支援しています。その結果、イノベーションのハブとして成長し、世界から優れた専門家や技術が集まっています。国際会議やセミナーも数多く開かれるので、私たちもそこに参加して、技術トレンドや技術ニーズを探索しながら、研究や事業のための人的ネットワークを築いています」
技術開発力を支える人材は、開設当初、日本人数人だった。その後The GEARの完成に向けてスタッフを増やし、現在は30人ほどが在籍。日本人とシンガポール人が中心で、中国、マレーシア、タイ、韓国出身のスタッフもいるという。
「現地の方々を多く採用することができるようになったのは、R&Dや技術移転が軌道に乗り始めたここ数年のことです。The GEARのような研究成果を実証する場があることもプラスになっています。シンガポールには国立大学や、職業教育を行うポリテクニックなどで高等教育を受けた、能力が高い研究者が集まっています。また、企業がシンガポール人を雇えば、その雇用社員がキャリアアップのため学ぶ際に補助金が給付されるなど、政府による手厚いプログラムが数多く提供されており、そのことも現地人材を採用する後押しになっています」(伊達氏)
このプログラムは、国民を対象にした能力開発プログラム「スキルズフューチャー(SkillsFuture)」のことだ。シンガポール政府は、社会の変化にともなう技術革新に労働者が適応できるよう、キャリアアップを促進するためのさまざまな制度を提供しているのである。
オープンイノベーションで技術を革新し権威ある賞を受賞
研究所の人材を充実させる一方で、KaTRIS はThe GEARで同居する事業部門と連携し、オープンイノベーションを積極的に推進してきた。The GEARの建設プロジェクトでも、大学やスタートアップ、シンガポール政府などさまざまなステークホルダーと連携。特にロボットに関する技術では、「THEアジア大学ランキング」4位(2024年)の南洋理工大学(NTU)と協力し、コンクリート工事の自動化に必要なセンサー技術の開発に成功した。
NTUとはそれ以前にも、地下空間の構築に寄与するトンネル支保の技術開発に取り組み、KaTRISの横田泰宏主任研究員がその研究で2021年、岩盤力学分野の権威ある賞であるRochaメダルを授与された。
また、「QS世界大学ランキング」8位(2024年)のシンガポール国立大学(NUS)とは2018年にMOU(協力の覚書)を締結し、サステナビリティなどの分野で共同研究や人的交流を進めてきた。その一つである新型コロナウイルスの飛沫に関する研究では、天井ファンの活用により感染リスクを大幅に低減させることを提示。このノウハウをもって国立研究開発法人の理化学研究所を中心とした新型コロナウイルス感染対策研究プロジェクトに加わり、そのプロジェクトが2021年、コンピューター関連の国際的な賞であるゴードン・ベル賞特別賞を受賞した。
そのようにシンガポールで輝かしい研究成果を上げていることに触れ、伊達氏はこう話す。