シンガポールはアジアで最もイノベーションな都市として認識されている。世界で6番目に革新的な都市として評価され、アジア太平洋地域ではトップにランクする。今ではシンガポールに拠点を構えるスタートアップ企業は55,000社に及ぶ。これはテクノロジーを実現するための資金環境やオープンイノベーションを創出するためのエコシステムが多くのスタートアップを引き付けるからだ。またシンガポールを拠点に革新的な製品を開発すれば経済成長著しい東南アジア市場への可能性も大きく広がることになる。
新型コロナウィルスの拡大は、シンガポールだけではなく多くの国々で個人や職場、公共の場における衛生意識の高まりをもたらしている。今回ご紹介するスタートアップmil-kinは、まさに衛生意識の高まりを明確に見える化してくれる革新的な製品を開発している。そんなmil-kinがグローバル展開の活動拠点として選んだのがシンガポールだ。
シンガポールはアジアで最もイノベーションな都市として認識されている。世界で6番目に革新的な都市として評価され、アジア太平洋地域ではトップにランクする。今ではシンガポールに拠点を構えるスタートアップ企業は55,000社に及ぶ。これはテクノロジーを実現するための資金環境やオープンイノベーションを創出するためのエコシステムが多くのスタートアップを引き付けるからだ。またシンガポールを拠点に革新的な製品を開発すれば経済成長著しい東南アジア市場への可能性も大きく広がることになる。
スマホでリアルタイムの菌検査を実現
株式会社mil-kin(以下、mil-kin)がシンガポールで展開する製品が携帯形微生物観察器『mil-kin(見る菌)®』である。スマートフォンやタブレットを使ってリアルタイムの微生物の状況が見れるのが特長だ。これまで「菌」を見るためには顕微鏡を使うのが常識だった。しかし、『mil-kin(見る菌)®』を使用すればその場で採取した菌を見ることができる。『mil-kin(見る菌)®』が革新的な特長を2つ持っている。第一が、コンパクトで持ち運び可能、さらには電源が必要なくスタンドアローンで使用できる点が挙げられる。単三電池2本とスマートフォンがあればどこでも使用可能で、簡単に高精度で菌の状態を見ることができる。第二の特長が細かい調節が不要で、誰でも1μm以上の高解像度でスマートフォンで見ることができる性能だ。例えば顕微鏡では検体のセットの仕方から細かいピント調節まで、使い方を知らないとできなかった。しかし『mil-kin(見る菌)®』では固定焦点の倍率が、光学倍率1,000倍に設定されており、微生物の大きさである1μm〜数百μmレベルの大きさに設定を行わなくても見ることができる。『mil-kin(見る菌)®』の革新的な点は、上記で述べた二つの特長から、これまで専門的な分野とされてきた菌検査をより身近にすることに成功している。
菌の見える化で衛生意識の向上とワークフローの改善
いわば菌検査の民主化ともいえる『mil-kin(見る菌)®』の手軽さは、主に二つの業界ですでに革新を起こしている。すでに世界23か国、1650社以上に導入されており、食の安全と口腔ケアで使用されている。食品業界にとって菌検査は企業の信用だけではなく、安心安全にかかわる重要な役割を占める。「菌の見える化」を現場レベルで行うことで、より高い安全性を確保することが可能だ。例えば、食品を作る現場の作業者は衛生に対する意識は持っていても、菌に対する専門的な知識を持っておらず、菌を見たことがない。菌の検査を行い現場の衛生検査を行うのが、品質管理担当者の役割だ。これには二つの課題があった。第一が品質管理担当者と食品を作る現場担当者との意思疎通である。菌の数が見える化されていないこれまでの検査体制では、菌を減らすための明確な指標を共有することが難しく現場担当者がどの程度まで衛生レベルを高めるべきかが伝わりづらい。また第二にこのワークフローが分断された方法では、品質管理担当者に菌検査と現場の検査の負担が集中することになる。しかし、『mil-kin(見る菌)®』で菌を見える化することで、誰でも菌の数がわかり、現場担当者での対応や衛生意識の向上も行うことができる。これは安全性の向上とワークフローの改善という大きなメリットを生み出す。また、『mil-kin(見る菌)®』の見える化は、歯科医院でも有用性を発揮している。軽量コンパクトで誰でも菌の状態を見ることができるため、チェアサイドで簡単に患者の口腔内細菌の状態を観察することができる。これにより歯周病の予防など患者に口腔内ケアの啓蒙にも活用されている。
シンガポールはテクノロジー開発と実証実験の場
『mil-kin(見る菌)®』が解決する課題は全世界共通の課題だ。毎年食中毒には世界で6億人がかかり、42万人が亡くなっている状況である。また歯周病もギネスに登録されるほど世界で患者数が多い病気だ。こうした世界に蔓延する課題を解決するため、mil-kinがグローバル展開の拠点として選んだのがシンガポールである。現在mil-kinはシンガポールの法定機関と業務提携契約を結び、2019年3月6日に現地法人HYTECH PTE LTD.を設立し、新たな顕微鏡のニュースタンダードの開発と本格的なASEAN市場への展開を計画している。mil-kinがシンガポールを選んだ理由はさまざまだが、イノベーションエコシステムによって研究開発をスピードアップすることが狙いの一つである。mil-kinは『mil-kin(見る菌)®』による菌の見える化によって、衛生意識の向上やワークフローの改善などの恩恵をもたらしているが、そのデータを数値化やビックデータ化することにより、リアルタイムで菌の同定をし、さらなる効率化と新たな価値の提供を行うことを目指している。mil-kinの特長は、リアルタイムに微生物や汚れを観察でき動画や静止画を撮影できる事だが、一般的には微生物か汚れかは見分けがつかない。将来的には「見える化」、「効率化」、「データ化」の3つのサービスを統合する食品衛生や口腔内衛生のニュースタンダードとなるデジタルプラットフォームを提供する予定だ。そのためには微生物と画像解析に関する技術開発が必要であり、日本での基礎研究やユースケース、さらにmil-kin独自の知見に基づく仮説のもと、特定のAIエンジンの領域で知見を持っているパートナーとデータを共有し委託開発を進めている。微生物のリアルタイム同定は世界中での関心事であり、mil-kinのハードウェア(JIS B 7271)とソフトウェアを融合させる事により、Saas Plus a Box型のビジネスモデルを展開しようとしている。さらに、シンガポールは、食品衛生に対して非常に厳しい基準が設けられており、食品衛生規則(Environmental Public Health (Food Hygiene) Regulations)で、食品の保存方法から調理器具の衛生管理や包装方法に至るまで厳しく点数で監督される。このように、最も食品衛生管理システムが進んでいる国の一つであることから、ここで開発された新サービスの実証実験の場としてASEAN展開を見据えた活用が期待される。
グローバルヘッドクオーターに最適なイノベーションエコシステム
mil-kinがシンガポールに進出するきっかけは2017年から2018年にかけて行われた日本貿易振興機構(JETRO)の中堅・中小企業の海外進出支援「新輸出大国コンソーシアム」に採択されたことである。またその間に、経済産業省が主催する「中堅・中小企業等イノベーション創出支援プログラム(飛躍 Next Enterprise)」に採択され、シンガポールに派遣されたことがきっかけとなった。「中堅・中小企業等イノベーション創出支援プログラム(飛躍 Next Enterprise)」とは、高い技術力や優れた事業アイデアを持つ日本の有望な中堅・中小・ベンチャー企業52社を、シリコンバレーをはじめとする世界のイノベーション拠点に派遣するというプロジェクトで、シンガポールは派遣先の一つである。その際にmil-kinはシンガポールの優れたスタートアップエコシステムに触れることでその豊富なネットワーク、新たなビジネスを創出する環境などが進出への大きなインパクトとなった。特に先に述べた共同研究や開発に加え、資金調達イベント、さらには事業に関連する機関や企業の紹介や同行など、事業が実現するための手厚いサポートが受けられる。mil-kinは今後、シンガポールをグローバルヘッドクウォーターとしての機能を構築し、共同開発によって新たな菌検査のニュースタンダードを確立し、シンガポールから東南アジアなどグローバル市場に向けて食品、医療に加え教育、水産、農業、畜産など多彩な分野への展開を見据えている。