シンガポールは最もイノベーションが起こる都市を示す「Bloomberg Innovation Index 2018」において、韓国、スウェーデンに続き第3位にランクインしている。今回は新たな成長を創造するシンガポールの多様なイノベーションエコシステムについてご紹介しよう。
多様な分野で起きる官民パートナーシップ
シンガポールのイノベーションエコシステムの最大の特長が、官民パートナーシップだ。デジタル化は、イノベーションを創出するカギとして評価されているが、シンガポールではこのデジタル技術の導入に関する多様な官民パートナーシップが存在する。
その一つが、次世代製造技術の開発だ。次世代製造技術とは、ロボティクスやアディティブ・マニュファクチャリングによる自動化と、IoTやAIによる製造プロセスのデジタル化によるもので、この技術を導入することで製造業は競争力を高めることができる。シンガポール経済開発庁とテュフズード(ドイツの世界的な第三者認証機関)は、製造業のデジタル化のロードマップとなるスマートインダストリー準備指標を発表し、デジタル化の過程でサポートも提供している。既に過去2年間において、シンガポールにおける25社以上のグローバル企業が製造プロセスの自動化とデジタル技術への投資を開始している。更に、数多くのテクノロジープロバイダーが、研究開発拠点を設立しており、次世代製造の実現に向けた大きな原動力になると期待されている。例えば、横河電機、富士通、シーメンス、アクセンチュアなどのテクノロジープロバイダーは皆、次世代製造へ移行している。
また、都市交通機能のスマート化、すなわちスマートアーバンモビリティの分野でもイノベーションが起きつつある。シンガポール政府は、都市交通問題解消のためスマートモビリティ2030を打ち出している。これはイノベーションを通じて、公共交通時間の速さや機能上昇、ラッシュアワー解消、鉄道の拡張などによって都市交通の効率化を図るものだ。例えば、南洋工科大学とNXPセミコンダクターズは、12社と共同でスマートモビリティコンソーシアムを立ち上げている。これには、DENSOやIHI、パナソニックといった各専門分野の企業が参画しシンガポールで新たな交通連動システムの構築を行っている。
フィンテックの分野でも官民パートナーシップは盛んだ。マリーナベイは世界有数の金融街だが、ここでは金融サービスに特化した30の企業研究開発ラボが存在する。ここではリスク管理、消費者重視のアプリケーション、支払い、および情報セキュリティに関する研究開発が行われ、政府の強力な支援がある。
世界的企業も注目。スタートアップ・エコシステム
イノベーションエコシステムを実現する二つ目の要素がスタートアップの存在だ。現在、東南アジアのスタートアップ取引の約40%以上がシンガポールで行われており、次々と新たなスタートアップが生まれている。その背景には、スタートアップが集うブロック71の存在が大きい。ここでは250社以上のスタートアップ、30社以上の支援機関が集結し、エコノミスト誌が称した「世界で最も密度の高い起業家のエコシステム」が整えられている。また同時に、シンガポールでは公的研究機関やベンチャーキャピタル、インキュベーターやアクセレレーターなどの連携などにより、開発したビジネスやテクノロジーをアスピーディに試すことができ、周辺諸国に事業展開や拡大も可能だ。各地からシンガポールに集結する世界的な企業の多くも、優れたスタートアップとのパートナーシッププロジェクトを実施するなど、自社のビジネスへとその可能性を活用している様子が見られる。2017年のコンパス・スタートアップ・エコシステム・ランキングの報告書ではシンガポールはアジアで1位、世界でも12位に格付けされている。
多彩なデジタル人材でイノベーションを主導
イノベーションエコシステムを実現する3つ目の要素が多彩なデジタル人材だ。今日のイノベーションには優れたデジタル人材の存在が欠かすことが出来ない。現在デジタル人材の数は世界的にも不足しており、その確保が企業競争力を左右するといっても過言ではない。シンガポールは、ビジネススクール・経営大学院であるINSEADが発表する「グローバル人材競争力指数」2017で、世界2位にランクインしている。また、シンガポール政府は、7つの地方大学と5つのポリテクニックで、サイバーセキュリティ、データサイエンス、ソフトウェアエンジニアリング、ネットワークエンジニアリングの分野で、能力開発に取り組んでいる。例えば、シンガポールでは、ソフトウェアエンジニアは毎年1400人以上の学士号、500人以上の修士号卒業生を輩出している。また、毎年2000人以上のサイバーセキュリティ関連の卒業生が存在する。このほか、ビッグデータの解析には欠かすことが出来ないデータサイエンスに精通する人材や、ネットワークエンジニアなど、イノベーション創出の担い手となる豊富なデジタル人材の育成が盛んだ。
全ての企業・産業のイノベーション創出拠点になる
シンガポールのエコシステムは、官民パートナーシップとスタートアップ、デジタル人材という3つの要素が互いに関連することで、イノベーションを創出する理想的な環境を形成している。それは、スタートアップだけではなく大企業も含めたすべての企業にとって、有効に働くことだろう。次なる時代の成長がシンガポールを基点に起きようとしている。