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世良マリカさんがシンガポール取材で見た、“持続可能な”企業活動

世良マリカさんがシンガポール取材で見た、“持続可能な”企業活動

シンガポールで進むSDGsの取り組みが、BSテレビ東京の報道番組「日経ニュース プラス9」内のコーナー「SDGs 未来への一歩」で、3週連続で取り上げられ話題となった。そこでこの「BRIDGE Singapore Business News」では、現地取材にあたった現役大学生モデルの世良マリカさんにインタビュー。後編の今回は、シンガポールのエコシステムの活用で躍進する企業や産業について、大学生ならではの視点で語ってもらった。

世良マリカさんがシンガポール取材で見た、“持続可能な”企業活動
「空港や屋台までもスマートだった」

「空港や屋台までもスマートだった」

シンガポールのSDGsの取り組みに着目し、「日経ニュース プラス9」(以降「日経プラス9」)が今年3月に特集したのは、シンガポールの半導体やスマートシティ、代替肉といった産業。そして、脱炭素の取り組みの話題だった。当時番組でキャスターを務めていた世良マリカさんは、4日間にわたってシンガポールの現地を取材し、テーマに関連する施設や企業、政府機関を訪れ、担当者や街の声をつぶさに聞いた。

モデルとして活躍しながら慶應義塾大学総合政策学部で学び、「卒業したら、何か社会にいいインパクトを与えられるような仕事に就きたい」と話す世良さん。そんなこれからの社会を担う彼女の目に、シンガポールはどう映ったのか——。

「シンガポールの第一印象として、空港がきれいだと着いてすぐに感じました。そして、とても“スマート”だなとも。入国審査が、パスポートを機械に読み取らせるだけとあっという間で、審査が終わっていたことにしばらく気づきませんでした」

シンガポールでは、入国手続きに必要な電子入国カードや健康申告書の登録をオンラインで行うことが可能だ。これにより、審査官にパスポートを提示して入国スタンプを押してもらうといった一般的な対面審査を受けることなく、入国できるようになっている。

「シンガポールのスマートさは、そのまま向かったホーカーセンターでも感じました」と世良さんが話すホーカーセンターとは、屋台が集まる施設。チキンライスやバクテー、ラクサなどのローカルフードがリーズナブルな価格で提供される国民の台所だ。シンガポール国内に100施設以上あり、2020年12月にホーカー文化がUNESCO無形文化遺産にも登録されている。何よりも特徴的なのは、すでにほとんどの店舗がキャッシュレスに対応していることだ。

もう一つ、シンガポールの街の光景で印象に残っているというのが、自動車の“自動販売機”。「移動中に、高級車が買える自動販売機のようなものを見かけました。キャッシュレスで買えるのでしょうか。とてもおもしろかったです」と語るのは、中古車販売店・Autobahn Motorsが経営するもの。その“自販機”は、ガラス張り立体駐車場のようなつくりで、ベンツやフェラーリなどの高級車がズラリと並び、購入も可能。街の名物となっている。

 

ジュロン島のスケールの大きさに感動

さらに世良さんはこうも言う。

「場所だと、化学やエネルギー産業拠点のジュロン島が非常に印象深かったです。いろいろな国の企業がたくさん集まり、すごいスケールで協業していました」

関税などの貿易の制限になる措置を一定の期間内に撤廃・削減する「自由貿易協定(FTA)」を27件結ぶシンガポールでは、企業が世界の主要経済国と自由に取引ができる。そうした背景から、世界屈指の化学・エネルギー産業ハブとして国際競争力を増しているのがジュロン島だ。

そのジュロン島には、製油所、バイオ燃料をはじめとする燃料やエチレンなどの基礎原料を作る総合化学メーカーのほか、手術用のマスク・手袋や自動車部品などの製品を作るメーカー、つまり川上から川下まで100を超える企業が集積している。企業をまたいで各施設がパイプラインで結ばれ、石油・石化製品を直接運べるようになっている。そのエコシステムにより原料調達面でコストを節約できるうえ、サプライチェーンリスクが軽減されるなど、好ましい相乗効果が生み出されている。

ジュロン島のスケールの大きさに感動

海外からの企業誘致で優れたエコシステムを構築

ジュロン島にさまざまな国籍の企業が集まっているのは、海外投資の呼び込みに力を入れるシンガポールならではのことだ。世良さんも「シンガポールは東京23区ほどの面積と国土が小さく、人や資源に限りがあるため、企業や人材を海外から積極的に呼び込んで産業を発展させてきた国。その歴史を、ジュロン島でも肌で感じました」と語る。 一方、ジュロン島を持続可能な化学・エネルギー産業拠点に転換させるために、シンガポール経済開発庁(EDB)は現在、さまざまな取り組みを行っている。サステナビリティを考慮した新たな生産体制の構築や、資源最適化のためのインフラの整備などがその具体的な内容で、2021年にはCO2排出量の大幅な削減や、持続可能な製品の生産量の引き上げの目標を明記した計画「サステナブル・ジュロン島」も発表した。

ジュロン島に製造拠点を置く旭化成の現地法人・Asahi Kasei Synthetic Rubber Singaporeの髙森仁文取締役社長は、番組の取材に対しこんなコメントをしていた。

「エネルギーの消費を抑えるために今後もさまざまな設備投資を行っていく予定で、EDBと連携してプロジェクト化していきます」

世良さんはそうしたジュロン島のサステナブルな取り組みに関して、期待を込める。

「世界から最先端の技術も集まるシンガポールでは、東南アジア初となる水素対応の発電所の建設を計画していて、建設予定地はジュロン島だそうです。エネルギーは私たちの生活に欠かせないものです。『日経プラス9』で核融合発電や太陽電池などの日本の技術を取材して以来、環境やエネルギー産業に興味を持つようになったので、シンガポールの発電所についても今後が楽しみです」 

多国籍かつ多様な企業が優れたエコシステムを形成しているのは、化学・エネルギー産業だけではない。バイオ医薬品、医療機器分野でもエコシステムの構築が進んでいる。世良さんはそのことについてこう語った。

「例えば、製薬大手・中外製薬がシンガポールに設立した研究子会社の中外ファーマボディ・リサーチへの取材でも、CEO兼リサーチヘッドの嶋田英輝さんが、『シンガポールには世界から人や技術、情報が集まり、一体となって発展している。コミュニティーに参加することでインフラが共有できる環境なので、ゼロから開発能力を構築しなくても薬剤開発が迅速に進む』とおっしゃっていました」

シンガポールではそのように、日本を含む海外からも積極的に企業を誘致し、エコシステムを構築して強化。環境行動計画「Green Plan 2030」を発表するなどシンガポール政府と進出企業とが連携して、持続可能な社会の実現を目指している。

海外からの企業誘致で優れたエコシステムを構築

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