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インタビュー/シンガポール経済開発庁副次官のタン・コンフイー氏

インタビュー/シンガポール経済開発庁副次官のタン・コンフイー氏

モビリティー産業、次世代の柱 都市部で自動運転実証


シンガポールがモビリティー分野を次世代産業の柱とし、育成を強化している。同国は2014年に「スマートネーション」構想を立ち上げ、デジタル化を軸とした国全体のスマートシティー化に取り組む。重点テーマの一つが「交通」で、自動運転技術の実証や、関連サービスを手がけるスタートアップへの投資などに力を注ぐ。狙いや展望について、シンガポール経済開発庁(EDB)のタン・コンフイー副次官に聞いた。

 

―モビリティー領域に注力する理由は。

「技術が自動車産業や輸送にディスラプション(破壊力)をもたらすからだ。その代表がCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)。大手車部品メーカーのほか、半導体やソフトウエアなど自国に立地するさまざまな産業にも波及するため、モビリティーは重要な成⻑テーマだと見ている」

―どんな取り組みを進めていますか。

 「車では特に自動運転車をけん引する、ソフトの分野でイノベーションが生まれている。シンガポールはアジアの『技術ハブ(中心)』だ。有能なソフト人材が集まるほか、開発したものをテストする環境も大切で、ここは我々の国が非常にメリットを出せる」

 ―具体的には。

「他国にも自動運転のテスト環境はあるが、多くが郊外。人口の多い都市部で実証できる点はシンガポールの強みだ。レジャーが盛んなセントーサ島や、工業地帯のジュロン島といった計3カ所で自動運転バスの実証を行う。また自動運転タクシーや空飛ぶクルマ、海運など、あらゆる自動運転を実験していく。24年には路上にテスト車両をもっと増やしたい。レベル4がターゲットだが、実装は社会受容性などを考慮しながら慎重に進めないといけない」

 ―電気自動車(EV)の戦略は。

「30年には内燃機関(ICE)車の販売を止め、40年までに全ての乗用車をEVにする明確なプランがある。実現には充電インフラの構築が重要で、22年4月時点で2500台の充電ステーションを、30年までに6万台に増やす計画だ」

 ―世界的にエネルギー事情が不安定です。計画に影響は。

 「プランに変更はない。EVの方がディーゼルやガソリン車よりエネルギー効率に優れる。再生可能エネルギー利用の拡大も進める。一方、バッテリーだけが解ではなく燃料電池もある。オープンマインドで革新技術を見ることも重要だ」

 *取材はオンラインで実施。写真はシンガポール経済開発庁提供

【記者の眼/デジタル変革 移動課題解決】 国土面積が小さく独自制度で自家用車の保有台数を制限するシンガポール。自動運転やMaaS(乗り物のサービス化)などで移動課題の解決を目指す。少子高齢化など日本と共通する要素もあり、参考にできることも多そうだ。特に政府をはじめ社会全体に浸透する「デジタル変革」が施策の基盤となっている点は無視できない。(名古屋・政年佐貴恵)

出典:「日刊工業新聞」2022年7月14日付け 06面

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