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シンガポール、いかに製造業を復活させたか

高度に自動化された工場を誘致し、富裕国として珍しく製造業の衰退を反転

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米半導体受託生産(ファウンドリー)大手グローバルファウンドリーズの「ファブ7」では、ビー、シュー、ブーンという音が鳴り響いている。スマートフォンや自動車用の半導体チップを製造するロボットアームなどの機械が発する音だ。ここは、同社の最先端の工場の一つで、350以上ある製造工程のうち人間を必要とする工程はほとんどない。

2022/09/13

このような⼯場を誘致することで、シンガポールは富裕国には珍しく製造業の低迷を反転させた。世界銀⾏の統計によると、国内総⽣産(GDP)に占める製造業の割合は2005年の27%から2013年には18%に低下し、この都市国家は産業の衰退に直⾯した。

しかしその後、製造業が復活。世界銀⾏の最新のデータによると、2020年にはGDPの21%に上昇した。シンガポール政府のデータによると、2021年はGDPの22%を占めた。

⽶複合企業ゼネラル・エレクトリックは今年、シンガポールで3次元(3D)プリンターを使⽤してジェットエンジンのブレードの修理を始めた。半導体ウエハーメーカー、独シルトロニックと台湾のファウンドリー⼤⼿UMC(聯華電⼦)は、当地に⼤規模な新施設を建設している。ノルウェーの太陽電池メーカーRECグループは、シンガポールの施設で先進的なレーザーを使⽤して太陽電池セルをカットしている。また、さまざまな多国籍企業が、DNA検査⽤の実験器具を当地で⽣産している。

シンガポールは、税控除や研究協⼒、労働者訓練の助成、多国籍企業への⽀援強化に向けた地元メーカーへの補助⾦給付などのインセンティブを提供し、⾼度に⾃動化された⼯場を積極的に誘致している。

ただし、シンガポールの成功は、多くの仕事を⾃動化することで達成されている。国際ロボット連盟(IFR)によると、シンガポールは従業員1⼈当たりの⼯場ロボット数が韓国を除くどの国よりも多い。

シンガポールの雇⽤に占める製造業の割合は、2013年の15.5%から昨年は12.3%に低下した。製造業に従事する労働者数は8年連続で減少している。

"ゼネラル・エレクトリック(GE)のシンガポールにある航空エンジン修理施設 PHOTO: ORE HUIYING/BLOOMBERG NEWS

⼈⼝550万⼈のシンガポールでは⻑年、労働者の補強を国外からの出稼ぎ労働者に頼ってきた。そのため、⼯場と雇⽤が切り離され、現地の雇⽤率を損なうことなく経済的なメリットを享受できている。シンガポールの失業率は過去10年にわたり2%前後で安定しており、サービス業に従事する労働者の割合が⾼くなっている。

⽶国のように⼈⼝が多く、製造業界が製品だけでなく雇⽤も⽣み出すことが期待されている国にとっては、この⾼度に⾃動化されたモデルは⽀持されないかもしれない。しかし、シンガポールの経済と労働市場は、このアプローチにうってつけだ。

「シンガポールは資本集約的、技能集約的で、労働集約的ではない」。英航空宇宙⼤⼿ロールス・ロイスの東南アジア・太平洋・韓国担当社⻑のビッキー・バング⽒はこう話す。同社のシンガポール⼯場では、約200⼈のスタッフが年間4800枚のチタン製ワイドコード(広幅翼弦)ファンブレードを⽣産している。

独ワクチンメーカー、 ビオンテックは2021年5⽉、シンガポールに新⼯場を建設し、年間数億回分の新型コロナウイルスワクチンを⽣産すると発表した。従業員数はオフィスを含めて最⼤80⼈に増やすことを計画している。新⼯場設⽴の理由として、⼈材基盤や良好なビジネス環境を挙げた。

掃除機メーカーの英ダイソンは、当地で⾃動化された製造プロセスを開発。300台以上のロボットが数百万個の掃除機モーターを組み⽴て、少数のオペレーターとエンジニアがそれを監督している。ダイソンの最⾼サプライチェーン責任者を務めるミシェル・シー⽒は「ダイソンの事業拠点をどこに置くかは、製造製品の品質だけでなく、エンジニアリングや科学の知識・技能が利⽤できるかどうかも決め⼿になる」と述べた。

グローバルファウンドリーズのシンガポール⼯場で、ロボットがウエハーの⼊った容器を移動させる様⼦ PHOTO: ORE HUIYING FOR THE WALL STREET JOURNAL

移転する⼯場

天然資源に乏しい熱帯の島国であるシンガポールは1965年の独⽴以来、国際的な競争⼒を持ち得る産業を追求してきた。マッチや釣り針、フォード⾞などさまざまな製品を製造し、成功を収めた。しかし、賃⾦の上昇に伴い、⽣産拠点は移転していった。

メルセデス・ベンツ⾞を⽣産していたジャーディン・サイクル・アンド・キャリッジの⼯場は、1970年代後半に操業を停⽌し、住宅開発地となった。フォードは1980年にシンガポール⼯場の⽣産を停⽌。その跡地は現在、第2次世界⼤戦に関する展⽰を⾏う博物館になっている。2000年代後半までには、シンガポールは⾦融の中⼼地として最も知られるようになり、富裕国が数⼗年にわたって経験してきた製造業の衰退を迎えた。

だが今、シンガポールは再び⾃動⾞を製造しようとしている。韓国の現代⾃動⾞グルー プによると、同社が当地に建設中の電気⾃動⾞(EV)向けの製造施設は「必要な場合にのみ」⼈⼒を使⽤するという。同社がシンガポールを選んだのは、優れた⼈材、トップクラスの研究機関、政府が協⼒的なことが理由だという。

シンガポールのヘン・スイキャット副⾸相は昨年のある業界イベントで「近代的な⼯場は、⼟地も労働⼒もはるかに少なくて済む」とし、「そのため、シンガポールでは以前は考えられなかった製造活動が再び可能になっている」と述べた。

⽶国では、製造業が経済に占める割合は11%前後で落ち着いており、10年前に⽐べて1 ポイント、2000年に⽐べて4ポイント低下している。英国、フランス、ドイツ、スペインなどの⻄側諸国は減少に直⾯している。

世界銀⾏のデータによると、アジアの先進国では、韓国と⽇本は緩やかに減少または停滞しているものの、製造業の喪失はそれほど顕著ではない。

新型コロナのパンデミック(世界的⼤流⾏)で、世界中の企業が⾃動化を優先するようになった。現場の作業員の数が少なければ、ロックダウン(都市封鎖)中も⽣産を維持しやすいことを学んだためだ。コロナ規制が解除された後、製造業界は労働⼒不⾜を補うために⾃動化を導⼊した。

シンガポールは2021年に85億ドル(約1兆1500億円)、⼀昨年には約125億ドルの固定資産投資の確約を取り付けた。同国の政策当局者によると、低コストの製造業の復活は競っておらず、それよりも先進的な機械や⾼度な教育を受けた技術者を必要とするチップや航空電⼦機器などの製品に重点を置いている。世界銀⾏によると、同国は世界第4位のハイテク製品輸出国だ。トップ3は中国、ドイツ、韓国で、⽶国は5位。

シンガポールが成功した要因は、政府が誘致に積極的で税⾦が安いことと、英語を話す科学・⼯学・数学専攻の卒業⽣と製造管理者の強⼒な基盤にあると企業経営者らは話す。移⺠法が⽐較的緩やかなため、外国⼈エンジニアも雇いやすい。政府は、多国籍企業と協業する地元企業の業務を改善するために補助⾦を⽀給したり、省⼒化技術の開発で多国籍企業と連携したりもしている。

シンガポールは⾼度に⾃動化された⼯場を積極的に誘致している。写真はグローバルファウンドリーズのシンガポール⼯場 PHOTO: ORE HUIYING FOR THE WALL STREET JOURNAL

ハイテク⼈材が豊富にいるということは、アイデアや⽣産⼿法を国内で広く⼿に⼊れられるということだ。そのため、製造⽣産性を向上させたいと考えるバイオテクノロジー企業が、チップ⼯場の社員を引き抜いたりすることもある。政府は、製造効率を向上させ、3D印刷などの新しい⽣産⼿法を統合するための機関を設⽴している。

シンガポールはアジアの中⼼に位置しているため、原材料なども周辺地域から調達しやすい。⾃由貿易協定を幅広く結んでいるため、企業はシンガポールで製造したものを容易に輸出することもできる。

また、時に提携企業に製品を模倣される懸念がある中国などとは異なり、シンガポールの知的財産保護法は信頼に⾜ると経営者らは話している。

⾼解像度のタッチスクリーンやスマホ⽤チップ、⾞載センサーや安全装置を製造するグローバルファウンドリーズの⼯場では、数百台の⾃動化された⾞両がシリコンウエハーが⼊ったピザほどの⼤きさの容器を、天井に設置された約7マイル(約11キロメートル)のレールに沿って移動させている。あらかじめ⼊⼒された⽬的地に到着すると、ウエハーの容器を加⼯機まで降ろす。

地上でも他のウエハー運搬ロボットが稼働しており、荷物を持ち上げては決められた場所に置き、充電ステーションに戻っていく。「⼈間よりも信頼性が⾼い」とファブ(半導体製造⼯場)オペレーション担当のジミー・ロー副⼯場⻑は話す。同社は、シンガポールで40億ドルのオペレーション拡張に着⼿している。

シンガポールで建設中のグローバルファウンドリーズの新⼯場 PHOTO: ORE HUIYING FOR THE WALL STREET JOURNAL

シンガポールでは、製造業がホワイトカラー職になりつつある。同国の製造労働⼒は、2014〜21年にかけて約18%減少した。しかし、シンガポール経済開発庁のダミアン・チ ャン政策・企画担当副次官によると、「⾼技能」に分類される居住労働者(専⾨職者、管理職者、経営者、技術者)が担う製造職の割合は昨年、8ポイント上昇し74%に達した。⽣産性の指標となる労働者1⼈当たりの製造業付加価値は、⾃動化が⼀部寄与し、2014〜21 年にかけて倍増し約23万ドルとなった。

チャン⽒は「⽣産性の向上は実のところ、シンガポールで持続的に賃⾦を上げるための主な⽅法だとわれわれはみている」とし、「シンガポールの製造業の労働⼒が多少減っても、悪いことではない」と指摘。「⾃動化により、外国⼈労働者が減っているからだ」と述べた。

シンガポールの外国⼈の製造労働者数は12⽉時点で20万7000⼈と、2013年の約28万1000⼈から減少している。昨年のシンガポールの製造雇⽤に占める外国⼈の割合は46%と、2013年の52%から低下している。

多くの⾮居住者にとって、シンガポールでの居住権は雇⽤状況と結びついているため、多くの外国⼈が仕事がなくなると帰国している。そのため、それは国の失業率には反映されない。

出典:Jon Emont. "シンガポール、いかに製造業を復活させたか". THE WALL STREET JOURNAL. 2022-06-24.

主力産業一覧

主力産業一覧
  • 「未来の航空宇宙都市」と呼ばれるシンガポールは、130社を超える航空宇宙業界の企業を擁し、アジア最大級で最も多様なエコシステムを誇ります。一流企業や宇宙産業スタートアップ企業をはじめとして成長を続ける企業が拠点を置いています。

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  • シンガポールは、アジア市場への玄関口であり、世界トップクラスの消費者向け企業の多くが、環太平洋の拠点としてシンガポールを活用しています。

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  • シンガポールは、東西のクリエイティブカルチャーが交差する場所であり、拡大を続けるこの地域の消費者基盤へ向けて開かれた扉でもあります。世界的ブランドが、地域統括会社を構えており、トップクラスのクリエイティブな企業がシンガポールを拠点としています。

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  • 今日、主要なガジェットにはシンガポール製の部品が使用されています。エレクトロニクス産業の一流企業は、シンガポールで未来を設計しています。

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  • 精製、オレフィン製造、化学製品製造、ビジネスと革新力が強力に融合するシンガポールは、世界最先端のエネルギーと化学産業のハブに数えられています。100社を超えるグローバル化学企業が主要な事業を当地に構えています。

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  • アジアのデジタルの中心都市として、シンガポールは情報通信技術 (ICT) 企業が選ぶ拠点となっています。世界クラスのインフラ、人材、活気のあるパートナーのエコシステムを提供しています。一流企業と連携して、最先端の技術とソリューションを開発し、シンガポールのビジョンであるスマートネーションと地域および世界の市場を支えています。

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  • アジアの流通のハブとして、当地域内外への世界クラスのコネクティビティを提供します。安全で効率的なロジスティクスと、サプライチェーン管理ハブとしての妥当性を以て、シンガポールは地域の境界を超えた取引と消費に貢献しています。

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  • シンガポールは、医療技術企業がこの地域で成長するための戦略的な拠点です。今日、多くの多国籍医療技術企業がシンガポールを拠点として、地域本社機能や製造、研究開発を行なっています。

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  • 資源豊かなアジアの中心に位置するシンガポールは、農産物、金属、鉱物のグローバルハブです。我が国のビジネス環境は、強力な金融、サプライチェーン管理、技術力を以て、世界をリードする企業を引き付けています。

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  • シンガポールは、アジアでも主要な石油 ・ ガス (O&G) 装置とサービスのハブであり、3,000社を超える海洋・オフショアエンジニアリング (M&OE) の会社があります。世界クラスの機能と優れたコネクティビティは、アジアの強力な成長の可能性に着目する多くの企業をシンガポールに誘引しています。

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  • シンガポールが有する優れた人材、強い生産能力、研究開発のエコシステムは、製薬やバイオテクノロジー企業を誘引しています。企業はシンガポールから世界中の人々に薬を提供し、アジア市場の成長を担っています。

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  • シンガポールの洗練された精密工学(PE)の能力と先進の製造技術で主要分野である高度な製造な地域ハブとしての強みを反映しています。

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  • シンガポールは、プロフェッショナル・サービス企業に最適なハブであり、国際的な労働力と信頼できる規制と枠組みを提供します。

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  • アジアは世界的な都市化のメガトレンドの中心であり、人口集中や公害、環境悪化などの都市問題の軽減を目指して、各国政府はスマートで持続可能なソリューションの開発を推進しています。大企業のいくつかはシンガポールを拠点として、アジアのために持続可能なソリューションを商業化すべく、革新、試行、連携を進めています。

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