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シンガポールは東南アジアのデジタルヘルスケアハブ アジアで最多のヘルスケアスタートアップ数を誇る

シンガポールは東南アジアのデジタルヘルスケアハブ アジアで最多のヘルスケアスタートアップ数を誇る

デジタルテクノロジーが導入されることで大きく進化を遂げる医療・ヘルスケア。医療業務が大きく効率化やAIによる診断精度の向上など、人々の健康寿命の確立に大きく貢献することが期待される。シンガポールは今、こうしたデジタルヘルスケアの分野で、世界をリードする存在になりつつある。


早くから医療業務のデジタル化に努めるだけではなく、数多くのヘルスケアスタートアップがシンガポールを拠点に開発を行っており、医療のスマート化が続々と進んでいる。今回はシンガポールのデジタルヘルスケアの取り組みとスマート化を担うヘルスケアエコシステムについてご紹介しよう。

 

デジタル医療記録の分野で世界に先駆け

シンガポールは、2000年代初頭から電子医療記録を導入することで、医療システムのデジタル化に取り組み始めてきた。シンガポールは、The National Electronic Health Record (NEHR) のようなシステムを設立した最初の国の一つであり、患者の健康記録を統合管理するシステムを構築、医療業務の効率化を実現している。このデジタル医療記録の統合管理システムによって、各患者の健康データは、すべての医療機関(一般開業医の診療所から公立病院、医療センターなど)でデータが共有され、医療従事者はシームレスにアクセスができる。現在、このクラウドデータベースへは年間4万人以上の医療従事者がアクセスしている。
 


患者データの解析をAIで自動化

また最近ではデジタル医療記録は、患者データの解析の部分でAIが導入され、さらに高精度の診断の実現に向けた取り組みが行われている。DiscoveryAIと呼ばれる人工知能ヘルスケアシステムは、国立大学病院で導入された医療システム(NUHS)で、医師が診療や診断を行う際にAIがスピーディに解析し意思決定をサポートしてくれる。これまでデータベース化された患者のヘルスケアデータを引き出し、照合、レビューを行った上で診断・診療を行ってきたが、そのための膨大な時間をAIが自動化によって短縮。医師や看護師などの医療関係者は患者への直接的なケアにより多くの時間を割くことが可能だ。このシステムは、国立大学病院(NUH)やンテンフォン総合病院(Ng Teng Fong General Hospital)さらにはジュロンコミュニティ病院(Jurong Community Hospital)などNUHSの病院全体で、段階的に展開される。

 

患者の体験を向上させるデジタルアプリケーション

さらにシンガポールでは、さまざまなヘルスケアアプリケーションの開発によって、患者の健康寿命の実現がサポートされている。例えば、シンガポール国立大学病院(NUH)からリリースされたアプリ「NUH’s myMed」では、医師の診断とも連携されており薬の処方箋の記録保持や、薬のオンライン注文などが可能だ。シンガポールではまた、ヘルスケアスタートアップの一大拠点としても開発が盛んだ。これまでご紹介してきたのは、公的機関による医療のデジタル化だが、シンガポールでは数多くのスタートアップが医療の分野でイノベーションを起こそうとしている。

 

多彩なヘルスケアスタートアップが活動

現在シンガポールにはアジアで最多のヘルスケアスタートアップ企業が拠点を構えており、国内外のスタートアップが医療、健康、福祉などの分野でデジタルディスラプションを起こそうとしている。例えば、DocDocは、AIを使用することでユーザーの医療ニーズに基づいた医師を発見できるオンライン予約プラットフォームを提供している。また、Biofourmisは、患者の健康管理を最適化するためのリモート監視AIデバイスとプラットフォームを開発。ウェアラブル端末から患者のバイタルサインを監視し予防に努めようというものだ。さらにUCARE.AIは、医療従事者向けにAIベースの疾患予測ソリューションを提供している。同社はAIを使用して、患者の病気を予測。医師がそれに応じて患者に治療を行う。
 

シンガポールはヘルスケアテクノロジーの理想的なテストベッド

なぜこれほど多くのスタートアップがシンガポールに拠点を設けているのだろうか。それはシンガポールの活気あるスタートアップエコシステムが大きい。またシンガポールはASEAN諸国へのゲートウェイとして立地、条件ともに最適な環境が整っている。シンガポールの持つ厳格な知的財産(IP)法と政府によるイノベーションへの強力な支援、さらにトップレベルのデジタル人材が集まっていることが大きい。こうした環境から多くのスタートアップがシンガポールをヘルスケアテクノロジーの理想的なテストベッドとしてとらえ、ASEANやアジア、さらには世界市場へ展開するための一大拠点として活動を行っている。シンガポールのデジタルヘルスケアハブが、世界の健康寿命の実現に大きく貢献しようとしている。

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