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日本企業とシンガポールとの強固な関係性  〜なぜ日本企業はシンガポールを拠点として選ぶのか?〜

日本企業とシンガポールとの強固な関係性  〜なぜ日本企業はシンガポールを拠点として選ぶのか?〜

シンガポール経済開発庁(EDB)は、シンガポールの経済・産業開発戦略の立案と実行を担う政府機関として、海外からの投資を誘致し、産業分野を成長させ、ビジネス環境を強化することで、シンガポールの持続可能な経済成長を実現している。そうした経済成長の背景には、長年にわたる日本企業とのパートナーシップが大きな役割を果たしてきた。

日本企業とシンガポールとの強固な関係性  〜なぜ日本企業はシンガポールを拠点として選ぶのか?〜

数多くの日系企業が地域統括本部を設置し継続的に投資するシンガポール

EDBは2024年5月に日本企業に向けてセミナーを開催し、タン・コンフイEDB副次官が東南アジアにおける日本企業の動向と成長機会について語り、日本企業とシンガポールとの強固で永続的なパートナーシップの重要性を強調した。

シンガポールというと金融サービスや観光のイメージが強いかもしれない。だが実は、GDPの19%が製造業、22%が卸売・小売業であり、製造や販売もシンガポール経済の大きな柱となっている。例えば、2021年の世界の半導体製造装置生産量の19%はシンガポー ルが占めている。 

 数多くの日系企業が地域統括本部を設置し継続的に投資するシンガポール

シンガポールは、アジアで最も多くの日系企業の地域統括本部が設置されている。これは両国における長年の信頼と協力の上に築かれたものであり、日系企業の進出拠点として安定した地位を保っていることの証左と言っても過言ではない。タン・コンフイ副次官は、「日本の製造業は長年にわたってシンガポールを拠点としており、日本との経済的つながりは強固です。その証拠に、シンガポールは日本にとってアジア最大の投資先であり、2022年には日本にとってアジアでトップの投資国になったことが示しています」と述べている。日本は、シンガポールにとって第3位の固定資産投資額(FAI)拠出国であり、2023年の投資コミットメントは2022年の実に10倍にも及んでいる。それは、シンガポールにおける日系企業による製造関連の大規模な直近の投資プロジェクトを見れば頷けるだろう。TOPPANは、高密度半導体パッケージ基板の同社グループ初となる海外生産拠点をシンガポールに新設し、生産能力を拡大させることを発表した。また、三井化学は、持続可能性のゴールをサポートする軟質成形材料である「タフマー」の生産設備の建設を進めている。そしてシマノは、域内の他の国の工場を統括する役割も担いながら、同社のミドルレンジ製品の生産量の70%を占めるスマートファクトリーを完成させ、稼働させている。こうした日本企業による最近の動向は、シンガポールと日本の企業間における継続的なパートナーシップと信頼を表していると言えるだろう。 
 

経済的発展が見込まれる東南アジア、特にグリーン経済やデジタル化にビジネスチャンス

シンガポールからのアクセスが非常に良い東南アジア地域(SEA)は経済的な活況を呈している。ボストン・コンサルティング・グループの調査によれば、2031年までに、米中貿易摩擦の影響によりASEANと世界との間の貿易額は増加すると予想されている。ASEAN地域には魅力的な投資拠点が数多くあるだけでなく、対応可能なサプライヤーが存在し、中立性を保ちながら、投資誘致を積極的に展開しているからだ。シンガポールは、サプライ・チェーンの強靭さと、SEAや世界との接続性の高さにより、こうした成長の恩恵を受けている。そのような成長は、日本企業にとてって大きなチャンスであり、特にグリーン経済とデジタル経済に関するビジネスは注目に値する。

SEAにおけるクリーン・エネルギー開発と炭素市場に対する期待は非常に大きい。SEAはエネルギー需要の80%を化石燃料から得ており、ASEAN諸国10カ国のうち8カ国がネット・ゼロまたはカーボンニュートラルに取り組んでいる。SEAは自然を基盤とした解決策の世界供給量の20~25%を占め、ブルーカーボンのストックは世界一であり、ネット・ゼロ達成に向けた脱炭素化の世界的推進において重要な役割を担っている。SEAにおいて、再生可能エネルギーの資金調達、生産、流通が拡大される中、イノベーター、資金提供者、プロジェクト開発者のエコシステムを拡大しているシンガポールは、こうしたビジネスチャンスを掴むのに格好な拠点だと言えるだろう。また、この地域において数年前から大きな潮流となっているデジタル化も見逃せない。SEAのインターネット市場は、4億6,000万人以上のユーザーを抱え、最も急速に成長している市場のひとつである。デジタル経済は2030年までに約1兆米ドルに達すると予想されている。そうした潮流の原動力となっているAI分野に力を入れているシンガポールは、SEAにおけるDX化の中心的な存在であると言っても過言ではない。 
 

企業が活用しているシンガポールの高い投資価値 

タン・コンフイ副次官は、シンガポールは決してコスト的に安価な立地とは言えないにもかかわらず、数多くの日本企業がシンガポールという拠点を高付加価値活動に活用していることを強調した。例えば、先に述べたTOPPAN、三井化学、シマノの事例に加え、アサヒグループホールディングスが、グループの調達機能を集約することで年平均1億米ドル以上の財務的インパクト創出することを目指してAsahi Global Procurement を設立した事など、枚挙にいとまがない。企業がシンガポールに対して高い投資価値を見出している理由としては、以下のようなものが挙げられる。
 

【人材面における投資価値】

  • 研究とイノベーションに価値をもたらす質の高い人材とその安定性 
  • アジアの人材競争力ランキングで1位を獲得、多様な人材を確保する理想的な環境 
  • 今後5年間で人工知能(AI)の開発と導入を加速させるたまに10億SGDを投資、「New AI Accelerated Masters Programme」のような新しい人材育成プログラムなどによりAIのエキスパートを現在の3倍となる1万5千人にする取り組みを強化 
  • シンガポールに様々な人材を招くことにより、企業のビジネスニーズに合わせた各種雇用パスの採用(Employment Pass(EP)、Tech.Pass、Tech@SG、SG ONE Pass)

シンガポールの各種雇用パスと採用についての詳細はこちら

 

【イノベーションを促す活気あるエコシステム】

  • シンガポールの経済計画において重要な柱として、イノベーション分野に対して今後5年間で280億SGDの投資予算を計上。日本企業を含む民間企業の研究開発項目や、シンガポール国内の公的研究機関などの助成金に活用 
  • 4,000を超えるスタートアップ企業があり、200近いインキュベーターやアクセラレーターが存在。ベンチャーファンドも続々と設立され、活気あふれるイノベーションのエコシステムがある 
  • 日本の大手企業でもシンガポールを起点にイノベーションを起こしている事例 

    資生堂:シンガポールに地域統括本部を設置。アジア太平洋エリアをカバーし、そのイノベーション・センターはアジアの消費者向けの新製品開発をサポート
    鹿島建設:大規模な地域統括兼R&D拠点「The GEAR」を開設。延べ床面積約1万3,000m2を誇る建物に、1988年のシンガポール法人設立以来アジア地域を統括してきた建設・不動産開発の事業部門を集約 
  • 多くの企業の革新的なビジネス・アイデアのインキュベーションや、シンガポールから国際競争力のある企業に成長する可能性を持つベンチャーの創出を支援をする助成金プログラム「コーポレート・ベンチャー・ローンチパッド2.0(以下、CVL 2.0)」を展開 
     

【2024年予算案で追加されたビジネス・フレンドリーな環境への取り組み】 

  • 税率優遇措置:現在の法人税率は17%であり、現行の5%と10%の優遇税率を維持しつつ、新たな国際的な税制改革の取り組みであるBEPS 2.0に対応するために、新たな税率を創設。DEI(拡大優遇制度)とIDI(開発優遇制度)については15%、FTC(金融財務センター優遇制度)については10%の追加税率を発表 
     

税率優遇措置について詳しくはこちら 

【2024年予算案で追加されたビジネス・フレンドリーな環境への取り組み】
  • 返金可能投資クレジット(RIC)制度:該当投資プロジェクトの支出の一部がクレジットとして投資を実行している企業に付与。このクレジットは法人税と相殺する RICについて詳しくはこちら。詳細については第三四半期に発表予定。 

 タン・コンフイ副次官は「シンガポールと日本企業との数十年にわたる信頼深いパートナーシップに感謝し、今後も相互に有益な関係を支援していきたい」と述べ、引き続いて日本企業とのより一層の関係構築へ期待を寄せた。 

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