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アサヒグループがシンガポールに調達機能を集約し、5年間で年平均1億米ドル以上の財務的インパクトの創出を目指す——取締役 﨑田薫氏に話を聞く

アサヒグループがシンガポールに調達機能を集約し、5年間で年平均1億米ドル以上の財務的インパクトの創出を目指す——取締役 﨑田薫氏に話を聞く

アサヒグループホールディングスがシンガポールに設立した子会社Asahi Global Procurementが1月、業務を開始した。シンガポールにグループの調達機能を集約し、グローバル調達の円滑化により、コストダウンや将来的なコストアップ抑制効果を含め、今後5年間で年平均1億米ドル(約147億円)以上の財務的インパクトの創出を目指すという。それだけ大きなインパクトをいかにして実現させるのか。また、その拠点にシンガポールが選ばれたのはなぜなのか。

アサヒグループがシンガポールに調達機能を集約し、5年間で年平均1億米ドル以上の財務的インパクトの創出を目指す——取締役 﨑田薫氏に話を聞く
アサヒグループホールディングス 取締役 EVP 兼 CFO(Chief Financial Officer)﨑田薫氏

アサヒグループホールディングス 取締役 EVP 兼 CFO(Chief Financial Officer)﨑田薫氏

物流の要衝であるシンガポールに調達機能を集約

ビール、スピリッツ、ノンアルコール飲料や食品の製造・販売をグローバル展開するアサヒグループホールディングスが、シンガポールに新たな子会社Asahi Global Procurementを設立し、1月に業務をスタートさせた。

Asahi Global Procurementの設立の目的は、グループの調達機能の統合だった。これまで、日本・欧州・オセアニア・東南アジアの4地域で別々に行ってきた調達活動をシンガポールに集約し、国境を超えた「グローバル調達」を円滑化するのが狙いだ。これにより、原材料や資材、サービスの持続的かつ安定的な調達を目指す。

同ホールディングスの取締役 EVP 兼 Group Chief Financial Officerの﨑田薫氏は、シンガポールにAsahi Global Procurementを設立した理由をこう説明する。

「戦略上のメリットを享受しやすい地理的な位置、強固なインフラ、ビジネスに適した環境や政策などの要素を考慮した結果、Asahi Global Procurementの理想的な拠点としてシンガポールを選定しました。シンガポールは、主要サプライヤーとの関係強化、コラボレーション、イノベーション、また、グループ本社であるアサヒグループホールディングスとの連携など、取り組みを促進するために最適な環境が整っています」

シンガポールは東南アジアの中央に位置し、アジアのハブとして世界の約600港と結ばれるシンガポール港を擁する。さらに、アジア太平洋地域各国への短時間でのアクセスを可能にするチャンギ国際空港をはじめ多様な物流インフラを持つ。そのため、世界銀行が各国・地域の貿易や物流の効率性を順位づけした「物流パフォーマンス指標(LPI)」(2023年)で首位の評価を得るなど、世界の物流のハブとして知られている。つまり、アジアの中継基地であるシンガポールは、物流インフラ・サービスの質が高く、必要な原材料などを迅速かつ低コストで輸送することが可能なのだ。
 

調達の一元管理で大幅にコスト削減

Asahi Global Procurementは今後、グループ全体の調達総支出額の約5割にあたる調達活動を担い、それを一元管理する予定である。そして、グループ全体の調達総支出額の9割以上を、Asahi Global Procurementを含むアサヒグループ内の調達機能組織が管理する見込みだ。
「シンガポールは当社にとって、人材の確保やモビリティの面で最適な環境であるため、コストを上回るアウトプットが期待できます。このような環境の下、コストコントロールやアサヒグループの調達機能のケイパビリティ向上を通じて、グループ全体の調達支出額において、2024年から5年間を目途に、年平均1億米ドル(約147億円)以上の財務的インパクトを積み上げることを目指していきます。アサヒグループが目指す『サステナビリティと経営の統合』に向けて、調達分野で中核的役割を担うAsahi Global Procurementが最もパフォーマンスを発揮しやすい場所として、シンガポールに拠点を構えることにしました。また、調達機能における共通のITプラットフォーム構築により、グループ全体をガバナンスする環境を提供し、業務品質や生産性向上の観点での効果も期待しています」(﨑田氏)
 

サステナビリティの取り組みに先進ソリューションや高度な人材を活用

Asahi Global Procurementをシンガポールに立ち上げた理由はほかにもある。それは、サプライヤーや研究機関との連携強化だ。
「Asahi Global Procurementの戦略的パートナーシップには、地元企業やシンガポール国立大学(NUS)などの研究機関との協力、シンガポール経済開発庁(EDB)との緊密な連携が含まれます。シンガポールのそうした強固なエコシステムを活用することで、革新的なコラボレーションの促進やグローバル調達機能のケイパビリティ強化を図ることができると考えています」(﨑田氏)

さらにAsahi Global Procurementでは、気候変動への対策、循環型の容器包装の実現といったサステナビリティの取り組みも積極的に行う方針だ。
「世界経済の要衝であるシンガポールに調達活動を集約することによって、グローバルなサプライチェーンを見渡し、最適化を推進するだけでなく、同国で発信されるサステナビリティの取り組みをベストプラクティスとして活用することができます。先進的なインフラ、強固なロジスティクス、グリーンイニシアチブへのコミットメント、これらのシンガポールに拠点を構えることで得られる強みを活用することで、Asahi Global Procurementはアサヒグループの調達プロセスにおけるCO2排出量のさらなる削減を推進できます」(﨑田氏)

例えば、シンガポールは太陽光発電開発でアジアをリードし、内外100社を超えるクリーンエネルギー関連企業が拠点を構えている。ほかにも炭素関連サービスを提供する内外企業100社以上がシンガポールに拠点を設置し、さらに人材の面でも企業のサステナブル経営を後押しする環境が整っている。
「Asahi Global Procurementにとってのシンガポールの魅力は、NUSのような高名な教育機関が多いことや、高度なスキルを有した人材の宝庫であることです。シンガポールは教育を重視し、活発な研究を推進しているため、Asahi Global Procurementは最先端のサステナビリティに関連した取り組みを活用することができます」(﨑田氏)

シンガポールでの調達機能の一元化により今後、グループ全体の調達に関わる財務インパクトの創出、さらに、サステナビリティの取り組みを推し進めていくAsahi Global Procurement。﨑田氏は今回のシンガポールへの進出を振り返り、最後にこう述べた。
「政府機関であるEDBがビジネスに対して好意的な環境を提供し、参入企業側である当社とタイムリーにコミュニケーションをとっていただき、シンガポールでの運営を予定通りにスムーズに開始することができました。シンガポールを通じて事業拡大を検討している日本企業のみなさまには、シンガポールの戦略的な立地やビジネスフレンドリーな政策を利用し、そして豊富な人材を活用することで、市場参入を効率的に成功させることができるということをお伝えしたいと思います」
 

*1米ドル= 約147円(2024年2月1日時点)

 

サステナビリティの取り組みに先進ソリューションや高度な人材を活用

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