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急成長するASEAN地域と不確実な時代に求められるサプライチェーンの再構築

急成長するASEAN地域と不確実な時代に求められるサプライチェーンの再構築

(2023年10月30日)近年、東南アジアは中間層を核に高い経済成長を遂げていることから、ボストンコンサルティンググループは、ASEANの製造業生産高が今後2030年まで、2020年の水準から毎年4,000億米ドルから6,000億米ドル増加すると推定している。そうした成長の見込みの一方で、コロナや地政学リスクなどの不確実性が高まっていることから、グローバル企業は、サプライチェーンにおけるリスクの軽減、そしてバランスの取れた事業ポートフォリオを達成するために、中国に偏よることなく成長する東南アジア市場に向けた多角化が重要となる。そのためには、より俊敏で強靭な製造生産体制並びにサプライチェーンの再構築、さらにはそこに関わる人材の職務や担当業務の再定義に投資を行うことが急務だ。また、かねてから世界の貿易拠点として発展してきたシンガポールは、ASEAN地域において優位性の高い立地や地政学的な安定性がある。そして、サプライチェーンマネジメントの拠点としてグローバル企業のニーズに応えるために多様な価値を提供することに注力しており、今後のビジネスの立ち上げや投資の拡大に対してさまざまな形で後押しする。

急成長するASEAN地域と不確実な時代に求められるサプライチェーンの再構築

サプライチェーンの拠点として多様な価値を提供するシンガポールの優位性

シンガポールには強力なグローバル流通網が整備されている。200の海運会社を通じて123カ国、600の港と結ばれており、世界のGDPの60%をカバーしている。そして、これからも世界の物流とサプライチェーンの中心的役割を果たしていくために、さらに空港と港湾の能力を大幅に拡大することを表明している。例えば、2021年に開港したトゥアス港は、ビジネス地区と工業地区をカバーするエコシステムの結節点であり、AIと自動化された港湾運営を導入するとともに、カーボンニュートラルに向けた工夫も盛り込んでいる。また、空輸や海運における脱炭素化への注力など、持続可能性についても取り組んでいるほか、世界銀行の物流パフォーマンス指標(LPI)では、通関効率性、インフラ、輸送の適時性などが評価されて第1位にランク付けされるなど、ロジスティクスにおけるエコシステムが確立している。さらにグローバル人材の宝庫としても高い評価を受けているが、サプライチェーンマネジメントの分野においても7万人規模の専門家を抱えている。
 

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サプライチェーンマネジメント人材における新たなニーズ

人材開発省(MOM)及び同省傘下の就職支援機関Workforce Singapore(WSG)やSkills Future Singapore(SSG)と共同で、シンガポール経済開発庁(EDB)が 調査を実施した「SCM-Jobs Transformation Map Study」によると、①ビッグデータ活用やインダストリー4.0などの「デジタル化」、②エンドツーエンド(E2E)のサプライチェーンの可視化をはじめとする「強靭化・俊敏化」、③調達や廃棄を含む全体のサステナビリティに配慮した「グリーン化」といった3つのニーズが急速に高まっていることがわかっている。シンガポールでは、そうした新たなニーズに応えるサプライチェーンマネジメントにおける高度人材の需要の高まりに備えるため、新たな人材育成の取組を導入し、企業が地域の成長市場に対応するためのサプライチェーンプランニングや調達などの重要な機能におけるサプライチェーンマネジメント能力を強化するための人材を提供する。
 

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シンガポールにサプライチェーン拠点を設けるグローバル企業

すでに、多数の企業がシンガポールをサプライチェーンの拠点として事業を行っている。日本企業では、飲料大手のポッカが、シンガポールにPOKKA Pte LTD.を構え、日本を除く全ての市場に対して製造、販売、流通を行なっている。この拠点では、バリューチェーン全体の自動化や透明性、効率性の向上のために、WMS(倉庫管理システム)やTMS (配送管理システム)などのテクノロジーシステムも導入している。また、同社は隣接するマレーシアの自由工業地帯に工場を持っており、そこで原材料を調達することでコスト効率を高め、利益率を大幅に改善しているという。近隣諸国とのアクセスが非常に良いシンガポールの優位的な立地を上手く利用し、調達の面でも恩恵を最大化しているのだ。他にも、化粧品大手の資生堂はシンガポールにサプライチェーンマネジメントにおけるデジタルコントロールタワー機能を備えたリージョナルHQを設置している。他にも、サントリー、キヤノン、パナソニックなど、大手企業によるサプライチェーンマネジメントの拠点が、ここシンガポールにある。

また、海外企業では、P&Gのプロダクト・サプライ・ハブは、ここシンガポールを拠点に、アジア太平洋、中東、アフリカ全域の需要と供給のプランを最適化し、リスク管理を行っている。これにより、実に19ものエンド・マーケットにおいて7,500以上の個別製品が店頭に並ぶこととなる。また、​総合物流企業であるマースク​は、シンガポールに2つ目の物流施設の設立に向けて着工した。新たなオムニチャネル対応施設であるこのセンターは、シンガポールをサプライチェーン・ネットワークの主要な物流ハブとして位置づけ、ヘルスケア、ライフスタイル、フットウェア、アパレル、消耗品といった価値の高い市場にサービスを提供するという。

こうした例のように、グローバル企業は時代に合わせたサプライチェーンの再構築に向けて試行錯誤を行っている。特に成長著しい東南アジアにおいて、シンガポールはその立地的な優位性や地政学的な安定性、グローバルに広がる流通網やビジネスにおけるエコシステムなど、拠点として選択するのに有利な条件が整っている。だからこそ、世界中の企業がシンガポールへの進出に注目しているのだ。

 

「ガートナー APACサプライチェーン・ネットワーク動向調査 2023」調査結果における分析

世界的な調査・アドバイザリー会社であるガートナー社は、EDBと共同で「ガートナー APACサプライチェーン・ネットワーク動向調査 2023」を実施した。この調査は、製造フットプリント、サプライチェーン機能など、サプライチェーン組織にとって重要な最新のテーマに焦点を当てたものだ。

調査の詳細はこちら PDFダウンロード(英語)

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