OCLS設立のきっかけは政府による建設環境産業変革マップ
国内外で数々の建設プロジェクトを手がける大林組は1965年からシンガポールで建設事業を展開している。以来、シンガポールの金融街のランドマークである「DBS第1・第2タワー」、チャンギ空港の管制塔、複合施設「オフィア・ロチャー」の超高層ビルなど主要な建物を次々と建設。近年は、現実の物体のデジタルコピーを作成しリアルタイムでデータを反映・分析する新技術「デジタルツイン」を活用して、自然の地形を生かした鳥類公園「バードパラダイス」を完成させるなど、さまざまな事業に携わってきた。
その大林組が7月、シンガポールに新たに開所させたのが、アジア地域のR&D拠点「Obayashi Construction-Tech Lab Singapore(OCLS)」だ。海外初のR&D拠点として、積極的にオープンイノベーションを促進し、アジアでの次世代建設技術の育成と展開を目指す。
開所の経緯について、梶田氏はこう語る。
「シンガポールは建設技術が集積するアジアのイノベーションのハブです。最新の情報を入手でき、また、新技術の実証や実装に必要なインフラが整っている点に特に魅力を感じ、2022年にOCLSの前身となる『Asia Digital Labプロジェクトチーム(ADL)』を発足させました」
それから2年が経ち、OCLSの設立に踏み切ったのはこうした理由からだった。
「ADLでは建設ロボットやAIによる自動設計、スマートビルディングの技術などさまざまな技術開発に取り組んでいました。そんななか、ある国際会議で改定版の建設環境産業変革マップ(Built Environment Industry Transformation Map:ITM)について知り、我々もこの取り組みに参加させてもらおうと、ADLを衣替えしてOCLSを立ち上げました」(梶田氏)
ITMはシンガポールの主要各産業の変革を促進するための政府による戦略的なフレームワークだ。ビジョンや目標を明確に設定し、革新すべき技術を策定したうえで、資金や人材などリソースを最適化。さらにパートナーシップの構築を促すなどして、目標達成を支援する。
建設業のITMでは主に、人材不足の課題解決に向けた最新技術を現場に導入することを推進するとしている。その技術とは、建物の部材を工場で製造し現場で組み立てる「プレファブリケーション」技術や、3次元の仮想空間内で物体やシーンをデジタル的に再現する3Dモデルを用いて建物の設計、施工、運用を管理する「ビルディング・インフォメーション・モデリング(BIM)」技術などだ。
OCLSはこの技術開発のうち、プレファブリケーションとBIMに密接に関係し、アジア地域において開発や適用が活発化している建設ロボティクス技術に焦点を当て、開発を進めていく計画だと小野島氏は言う。
「ただし我々は建設会社なので、ロボットやソフトウェアを作ることはできず、製造業やソフトウェア企業、テクノロジー企業などとの協業が欠かせません」 そこでOCLSが入居したのが、2023年10月にシンガポール建設庁(BCA)が開設したオープンイノベーション施設「Built Environment Innovation Hub(BEIH)」だ。BEIHは建築や都市計画などの分野の技術革新やアイデアの発展を支援することを目的とするハブで、梶田氏はこう話す。
「BEIHには多国籍企業からスタートアップまで、建設関連の多彩な企業が入居しています。入居者共用の実験空間やコンファレンス施設もあり、ここでなら自然とネットワークを構築できると考え、入居を決めました」