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大林組が新R&D拠点で進めるオープンイノベーション——シンガポールのエコシステムの活用で建設業の未来を切り拓く

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日本を代表するゼネコンの一社である大林組が2024 年7月、アジア地域のR&D拠点としてシンガポールに「Obayashi Construction-Tech Lab Singapore(OCLS)」をオープンさせた。シンガポールが誇るアジアトップクラスのイノベーションエコシステムを活用して進められるプロジェクトとは――。現在の状況や今後の計画について、専務執行役員で技術本部長の梶田直揮氏と執行役員で技術研究所長の小野島一氏に詳しく聞いた。

OCLS設立のきっかけは政府による建設環境産業変革マップ 

国内外で数々の建設プロジェクトを手がける大林組は1965年からシンガポールで建設事業を展開している。以来、シンガポールの金融街のランドマークである「DBS第1・第2タワー」、チャンギ空港の管制塔、複合施設「オフィア・ロチャー」の超高層ビルなど主要な建物を次々と建設。近年は、現実の物体のデジタルコピーを作成しリアルタイムでデータを反映・分析する新技術「デジタルツイン」を活用して、自然の地形を生かした鳥類公園「バードパラダイス」を完成させるなど、さまざまな事業に携わってきた。

その大林組が7月、シンガポールに新たに開所させたのが、アジア地域のR&D拠点「Obayashi Construction-Tech Lab Singapore(OCLS)」だ。海外初のR&D拠点として、積極的にオープンイノベーションを促進し、アジアでの次世代建設技術の育成と展開を目指す。

開所の経緯について、梶田氏はこう語る。

「シンガポールは建設技術が集積するアジアのイノベーションのハブです。最新の情報を入手でき、また、新技術の実証や実装に必要なインフラが整っている点に特に魅力を感じ、2022年にOCLSの前身となる『Asia Digital Labプロジェクトチーム(ADL)』を発足させました」 

それから2年が経ち、OCLSの設立に踏み切ったのはこうした理由からだった。 

「ADLでは建設ロボットやAIによる自動設計、スマートビルディングの技術などさまざまな技術開発に取り組んでいました。そんななか、ある国際会議で改定版の建設環境産業変革マップ(Built Environment Industry Transformation Map:ITM)について知り、我々もこの取り組みに参加させてもらおうと、ADLを衣替えしてOCLSを立ち上げました」(梶田氏) 

ITMはシンガポールの主要各産業の変革を促進するための政府による戦略的なフレームワークだ。ビジョンや目標を明確に設定し、革新すべき技術を策定したうえで、資金や人材などリソースを最適化。さらにパートナーシップの構築を促すなどして、目標達成を支援する。 

建設業のITMでは主に、人材不足の課題解決に向けた最新技術を現場に導入することを推進するとしている。その技術とは、建物の部材を工場で製造し現場で組み立てる「プレファブリケーション」技術や、3次元の仮想空間内で物体やシーンをデジタル的に再現する3Dモデルを用いて建物の設計、施工、運用を管理する「ビルディング・インフォメーション・モデリング(BIM)」技術などだ。 

OCLSはこの技術開発のうち、プレファブリケーションとBIMに密接に関係し、アジア地域において開発や適用が活発化している建設ロボティクス技術に焦点を当て、開発を進めていく計画だと小野島氏は言う。  

「ただし我々は建設会社なので、ロボットやソフトウェアを作ることはできず、製造業やソフトウェア企業、テクノロジー企業などとの協業が欠かせません」 そこでOCLSが入居したのが、2023年10月にシンガポール建設庁(BCA)が開設したオープンイノベーション施設「Built Environment Innovation Hub(BEIH)」だ。BEIHは建築や都市計画などの分野の技術革新やアイデアの発展を支援することを目的とするハブで、梶田氏はこう話す。 

「BEIHには多国籍企業からスタートアップまで、建設関連の多彩な企業が入居しています。入居者共用の実験空間やコンファレンス施設もあり、ここでなら自然とネットワークを構築できると考え、入居を決めました」 
 

OCLS

スタートアップや大学との連携によるロボティクス技術開発 

OCLSの常駐メンバーは、日本人2人とイギリス人、中国人の4人だ。ITMやBEIHなどによって形成されるシンガポールのイノベーションエコシステムを活用しながら、すでに具体的な活動をスタートさせている。 

一つめのプロジェクトが、アジア諸国スタートアップとの協業による建設自動化技術の現場実証や、実際の適用の促進だ。 

例えばこの秋には、中国のロボットメーカーFang​s​hi Technologyと協力して、大林グループ現地法人の建設現場で技術検証を行うことが決まっている。 

「Fangshi Technologyが開発するのが、コンクリートの表面を均一に仕上げる『コンクリートならし』や、表面を滑らかにする『コテ押さえ』の作業ロボットで、とても興味深く感じています。この実証実験がうまくいけば、日本や他国の現場にも導入する予定です」(小野島氏) 

二つめが、南洋理工大学(NTU)との建設3Dプリント技術の開発だ。NTUの3Dプリント技術研究組織「シンガポール3Dプリントセンター(Singapore Centre for 3D Printing:SC3DP)」に共同研究室を開設。大林組とSC3DPの技術を融合させ、建設業における3Dプリント技術の適用拡大を目指す。 

「大林組は以前から3Dプリント技術に着目し、2023年には、建築基準法に基づく国土交通大臣認定を取得した3Dプリンターによる建物『3dpod』を国内で初めて完成させました。SC3DPとは、3Dプリント技術を建設業にどう活用できるかというところから議論を始めています」(梶田氏) 

三つめが、シンガポール工科デザイン大学(SUTD)との建設ロボティクスの運用・管理に関する技術開発だ。先端的なロボティクス技術を有するSUTDと、ロボットが効率的に機能できるようセンサーやAIを活用して建設現場を整備する研究や、複数の建設現場でのロボットの動作や管理を一元的に行うためのプラットフォームの開発などに取り組む。 

「建設の場合、1台のロボットですべての作業をこなすことができず、複数台のロボットが協力して作業を進める必要があります。そのため、ロボット間で相互に情報を交換できるようなシステムの開発が求められます」(小野島氏) 
 

シンガポールのイノベーションエコシステムの魅力 

OCLSでは今後、建設ロボティクス以外の分野にも研究開発の範囲を広げる計画だ。その成果をシンガポール国内外に積極的に普及させることを目指すとして、小野島氏はこのように期待を込める。 

「シンガポールの研究開発は非常にスピーディーに進む印象を受けています。例えば、シンガポールの人材はアイデアが浮かべばすぐに自分でロボットを作るなど、何事もすぐに形にします。そのスピード感は日本にはないもので、これからが楽しみです」  梶田氏はこう続ける。

「シンガポールの人材はみんな共通してアグレッシブですよね。また、シンガポール政府は産業の発展のため積極的に産業界と関わってくれます。助成金や補助金を提供するのに、国内外の企業を問いません。外国企業である大林組でも政府との距離が近く、一体になって応援してくれている感じがあります」

 さらに梶田氏は、そうしたシンガポールのエコシステムを活用し、シンガポールで共同研究を行うことを日本の企業に呼びかける。
「シンガポールは外国企業に対して非常にオープンです。シンガポールにどんどん進出し、日本では実施が難しい共同研究を、シンガポールでしてみるのも良いと思います」 

左:専務執行役員 技術本部長 梶田直揮氏 右:執行役員 技術研究所長 小野島一氏

主力産業一覧

主力産業一覧
  • 「未来の航空宇宙都市」と呼ばれるシンガポールは、130社を超える航空宇宙業界の企業を擁し、アジア最大級で最も多様なエコシステムを誇ります。一流企業や宇宙産業スタートアップ企業をはじめとして成長を続ける企業が拠点を置いています。

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  • シンガポールは、アジア市場への玄関口であり、世界トップクラスの消費者向け企業の多くが、環太平洋の拠点としてシンガポールを活用しています。

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  • シンガポールは、東西のクリエイティブカルチャーが交差する場所であり、拡大を続けるこの地域の消費者基盤へ向けて開かれた扉でもあります。世界的ブランドが、地域統括会社を構えており、トップクラスのクリエイティブな企業がシンガポールを拠点としています。

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  • 今日、主要なガジェットにはシンガポール製の部品が使用されています。エレクトロニクス産業の一流企業は、シンガポールで未来を設計しています。

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  • 精製、オレフィン製造、化学製品製造、ビジネスと革新力が強力に融合するシンガポールは、世界最先端のエネルギーと化学産業のハブに数えられています。100社を超えるグローバル化学企業が主要な事業を当地に構えています。

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  • アジアのデジタルの中心都市として、シンガポールは情報通信技術 (ICT) 企業が選ぶ拠点となっています。世界クラスのインフラ、人材、活気のあるパートナーのエコシステムを提供しています。一流企業と連携して、最先端の技術とソリューションを開発し、シンガポールのビジョンであるスマートネーションと地域および世界の市場を支えています。

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  • アジアの流通のハブとして、当地域内外への世界クラスのコネクティビティを提供します。安全で効率的なロジスティクスと、サプライチェーン管理ハブとしての妥当性を以て、シンガポールは地域の境界を超えた取引と消費に貢献しています。

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  • シンガポールは、医療技術企業がこの地域で成長するための戦略的な拠点です。今日、多くの多国籍医療技術企業がシンガポールを拠点として、地域本社機能や製造、研究開発を行なっています。

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  • 資源豊かなアジアの中心に位置するシンガポールは、農産物、金属、鉱物のグローバルハブです。我が国のビジネス環境は、強力な金融、サプライチェーン管理、技術力を以て、世界をリードする企業を引き付けています。

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  • シンガポールは、アジアでも主要な石油 ・ ガス (O&G) 装置とサービスのハブであり、3,000社を超える海洋・オフショアエンジニアリング (M&OE) の会社があります。世界クラスの機能と優れたコネクティビティは、アジアの強力な成長の可能性に着目する多くの企業をシンガポールに誘引しています。

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  • シンガポールが有する優れた人材、強い生産能力、研究開発のエコシステムは、製薬やバイオテクノロジー企業を誘引しています。企業はシンガポールから世界中の人々に薬を提供し、アジア市場の成長を担っています。

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  • シンガポールの洗練された精密工学(PE)の能力と先進の製造技術で主要分野である高度な製造な地域ハブとしての強みを反映しています。

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  • シンガポールは、プロフェッショナル・サービス企業に最適なハブであり、国際的な労働力と信頼できる規制と枠組みを提供します。

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  • アジアは世界的な都市化のメガトレンドの中心であり、人口集中や公害、環境悪化などの都市問題の軽減を目指して、各国政府はスマートで持続可能なソリューションの開発を推進しています。大企業のいくつかはシンガポールを拠点として、アジアのために持続可能なソリューションを商業化すべく、革新、試行、連携を進めています。

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