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日本からの投資が6億8,160万SGDで前年比11.7倍――2023年のシンガポールの経済動向とEDBの今後の取り組み

日本からの投資が6億8,160万SGDで前年比11.7倍――2023年のシンガポールの経済動向とEDBの今後の取り組み

シンガポール経済開発庁(EDB)は1月末、2023年の固定資産投資額や年間総事業費などの実績をまとめたレポートを発表した。全体を見ると、投資案件の増加により、年間総事業費、予想年間付加価値は2022年を上回り、シンガポールに対する企業からの信頼感が反映される形となった。それらの経済指標からさらにシンガポールの経済動向を読み解くとともに、産業育成に向け今後EDBが行う取り組みを示す。

日本からの投資が6億8,160万SGDで前年比11.7倍――2023年のシンガポールの経済動向とEDBの今後の取り組み

サプライチェーン強靭化に向けメーカーがシンガポールに投資

2023年、EDBが管轄する国内外の企業による「固定資産投資額」は127億SGD(約1兆4,000億円)となり、中長期予測を上回った。

その7割近くを占めたのが製造業で、特に化学、エレクトロニクス、ヘルスケア分野が大きく貢献した。これは、地政学リスクの高まりなどからサプライチェーン強靭化に向け、多くのメーカーがサプライチェーンの拠点をシンガポールに移した結果だと考えられる。

なお、日本からの固定資産投資額は約6億8,160万SGD(約750億円)で全体の5.4%を占め、前年と比べて11.7倍にもなった。アメリカ、ヨーロッパ、シンガポールに次いで4番目に多い投資額だった。

半導体分野については2022年に例外的に急増したものの、2023年の固定資産投資額は2017年から2021年の平均値と同レベルの127億SGD(約1兆3,970億円)となった。その影響で2023年の固定資産投資額は、全体では前年より減少することになった。

事例:
グローバルに展開する総合化学メーカー、三井化学はジュロン島で高機能ポリマーを生産し、世界市場に供給しています。同社の製品であるタフマーは、太陽電池関連部材、スポーツシューズ、自動車用部品など、さまざまな分野で使用されています。
 

グローバルに展開する総合化学メーカー、三井化学はジュロン島で高機能ポリマーを生産し、世界市場に供給しています。同社の製品であるタフマーは、太陽電池関連部材、スポーツシューズ、自動車用部品など、さまざまな分野で使用されています。

引き続きサービス産業が集中

固定資産投資が減少した一方で、投資案件は増加した。そのため、2023年に企業の経済活動により付加された価値の合計「年間付加価値額」は、投資完了後には、前年を超える267億SGD(約2兆9,370億円)になると予測。多くの雇用も生み出される見通しだ。

さらに、企業が総事業にかけた設備投資や人件費などの費用「年間総事業費」も89億SGD(約9,790億円)と前年を上回った。これに関しては、年間総事業費の7割近くをサービス産業が占めた。東南アジアのデジタル経済の発展、そして全産業に広がるデジタル化の影響で、情報通信テクノロジー企業の本社統括部門の事業が総事業費を大きく押し上げた。
 

多国籍企業と地元企業の共同研究がより活発に

シンガポールでは近年、国内の研究開発エコシステムを活用した多国籍企業によるイノベーション創出のための研究が盛んで、それとともにシンガポールに拠点を置く外資系ベンチャー企業が増えている。そのため2023年は、研究開発およびイノベーション関連の投資が大幅に増え、固定資産投資と年間総事業費のそれぞれ約2割を占めた。

投資が増加した理由としては、2021年に開始したEDBの「Corporate Venture Launchpad(CVL)プログラム」があり、これまでにこのプログラムを通して、大手企業25社の新規事業の創出を支援した。このうち15社は、人工知能(AI)、データサービス、気候技術、農業技術などの分野で新規事業を立ち上げたり、計画したりしている。

なお、シンガポールは2023年、アメリカのシンクタンクStartup Genomeによる最新のグローバルスタートアップ・エコシステムランキングで18位から8位に上昇した。トップ10入りはこれが初めてのことだ。

事例:
フィンランドのエネルギー会社ネステは再生可能燃料と化学製品の新たな可能性を追求するため、APACイノベーションセンターをシンガポールに設置しています。
 

2024年の中長期予測と競争力強化に向けた今後の取り組み

2024年の中長期予測は、固定資産投資額が80億〜100億SGD(約8,800億〜1兆1,000億円)、年間総事業費が50億〜70億SGD(約5,500億〜7,700億円)となっている。EDBはシンガポールの経済競争力をより高めるため、先進製造やサービス業に重点を置き、今後、以下のようなさまざまな取り組みを行う予定である。
 

既存分野の変革

既存分野の変革
AIやデジタル化によって生産性を高め、持続可能な製品やソリューションを発掘するなどして、産業活動の基盤を低炭素に移行していく。

新たな成長分野の開拓

新たな成長分野の開拓
他の政府機関と協力してグリーン経済やAI、精密医療などの分野に注力する。

多国籍企業とシンガポールの企業、研究機関間の協力関係の強化

多国籍企業とシンガポールの企業、研究機関間の協力関係の強化
シンガポール企業庁(EnterpriseSG)と協力して、多国籍企業とシンガポールの企業、研究機関とのコラボレーションを促進していく。

グローバル・バリューチェーンにおけるシンガポールの地位の強化

グローバル・バリューチェーンにおけるシンガポールの地位の強化
シンガポールの地理的利便性、ロジスティクス、供給管理能力を強化し、企業がシンガポールで迅速かつ円滑に事業を立ち上げられるよう引き続き支援する。

こうした今後の取り組みについて、EDBのプン・チョンブーン(Png Cheong Boon)長官はこう発言している。
「2023年の投資を確実にしたことにより、EDBはシンガポールに新たな機能を導入し、経済のレジリエンスを強化し、雇用と事業機会を創出することができます。私たちは将来に向けた事業のパイプラインを構築してきましたが、シンガポールがグローバル企業やアジアの新興企業にとって魅力的であり続けるためには、競争で優位な立場を保つ必要があると認識しています。EDBはシンガポールの強みをさらに強化するだけでなく、新たな戦略を推し進めることで、経済を成長させ、エコシステムを向上させて、シンガポールでより良い雇用を創出するための新たな機会をつかめるようにしていきます」
 

グローバルに展開する総合化学メーカー、三井化学はジュロン島で高機能ポリマーを生産し、世界市場に供給しています。同社の製品であるタフマーは、太陽電池関連部材、スポーツシューズ、自動車用部品など、さまざまな分野で使用されています。

EDBは、シンガポールでのベンチャーの創出を支援しています。「Corporate Venture Launchpad(CVL)プログラム」についての詳しい情報は、EDBのウェブサイトをご覧ください。

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