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新しい就労ビザプログラムの導入により高度に優秀な人材を確保し、企業による投資を加速させる

新しい就労ビザプログラムの導入により高度に優秀な人材を確保し、企業による投資を加速させる

世界中の企業がシンガポールに進出する理由の一つに、有能で豊富な人材の宝庫であることが挙げられる。「2022年グローバル人材競争力指数報告書(2022 Global Talent Competitiveness Index Report)」においてクラス最高の人材マネジメントで2位を獲得し、アジア太平洋地域で唯一トップ10にランクインしているシンガポールは、人材確保の取り組みをさらに強化するための新しいビザプログラムをスタートさせた。シンガポール経済開発庁(EDB)のジャクリーン・ポー(Jacqueline Poh)次官が Nikkei Asiaのインタビューで見解を述べた。

新しい就労ビザプログラムの導入により高度に優秀な人材を確保し、企業による投資を加速させる

シンガポールの新たな就労ビザ「ONE Pass」とは?

シンガポールは、新しい就労ビザプログラム「Overseas Networks & Experience Pass(ONE Pass)」を昨年8月に発表、2023年1月から申請の受付を開始した。シンガポールを人材のグローバルハブとするため、世界のトップクラスの人材を、誘致、維持、育成する戦略の一環として行われた。ONE Passの発給対象となるのは、金融、技術、学術研究、スポーツ、芸術などさまざまな分野で実績を上げている人材や月収3万SGD(約300万円)以上の高い技能を持つ人材だ。この発給基準は、既存の「Employment Pass(EP)」(外国人幹部・専門職向け就労ビザ)の給与所得額上位5%に相当し、有効期間はEPの2年よりも大幅に延長された5年間。さらに、保有者は複数の企業で就労可能となる。特定業種を対象とした他の就労ビザよりも柔軟な働き方ができるのが特徴だ。

外国人を含めても人口約560万という小さな都市国家であるシンガポールは、これまで国内労働力を補完するため海外の専門技能を持つ人材に依存してきた。

Nikkei Asia のインタビューの中で、シンガポール経済開発庁(EDB)のジャクリーン・ポー次官は、次のように語る。
「ONE Passは、シンガポールで不足する人材を呼び込むことで、国内人材やその育成を補完しようというものです。AI科学者、学術研究やテック分野で高度な技能を持つ方、あるいは芸術やエンターテインメントで実績を上げている方などを想定しています」

シンガポールにおける人材雇用の詳細はこちら:
https://www.edb.gov.sg/en/setting-up-in-singapore/business-guides/guide-to-hiring-in-singapore.html
 

シンガポール経済開発庁( EDB ) ジャクリーン・ポー次官

シンガポール経済開発庁( EDB ) ジャクリーン・ポー次官

北東アジアからの関心が高まるシンガポール投資

シンガポールが発表した最新の投資統計によると、2022年の固定資産投資額は対前年比でほぼ倍増、過去最高となる225億SGD(約2兆2500億円)を記録している。また、数年後に投資が完了した場合、1万7113人の新規雇用が創出され、年間付加価値額は206億SGD(約2兆600億円)になることが予測される。

ポー次官によると、シンガポールへの投資について、中国、日本、韓国、台湾などの北東アジアからの関心が高まっているという。加えて、企業がレジリエントなサプライチェーンの構築に取り組んでいることがその背景にあるとして、ポー次官は、パンデミックによって多くの企業の幹部がレジリエンスを第一に考えるようになったと話す。企業のサプライチェーンが多様なシンガポールは、成長著しい南アジア・東南アジア市場に位置し、活発な研究開発とイノベーションのエコシステム、そして豊かな人材の宝庫がある。信頼性、中立性の点で高い評価を得ていることも、投資先として関心を高めている理由であるといえよう。
 

「テック分野は逆風に直面しているものの依然堅調」

一方で2023年は、世界的な景気後退が予想されるため、投資の伸びは鈍化することが想定される。ポー次官は、世界経済が大きく後退すれば、どの国も厳しい状況となるだろうと指摘している。
しかし、中長期的な視点において、シンガポールの重点分野である先進製造業(エレクトロニクス、ヘルスケア、航空宇宙)、農業ビジネスを含むグリーン経済、デジタル経済など、高成長かつ高付加価値の産業分野には十分チャンスがあると考えられる。
また、デジタル企業はパンデミックがもたらした好景気を経て調整局面を迎えているものの、テック分野は依然として堅調に推移している。

これについてポー次官は「テック分野は過去5年間の過剰なバリュエーション(企業価値評価)や高揚感から、世界的な逆風に直面しているものの、収益性や財務上の安定性、強靭性に向けた今後のより確かな道のりにつながる」とコメントしている。

*本稿は、Nikkei Asia (“Singapore's new elite visa will help lure investment, official says”, January 16, 2023) を要約したものです。
 

*本稿は、Nikkei Asia (“Singapore's new elite visa will help lure investment, official says”, January 16, 2023) を要約したものです。

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