“62.6%の労働者が重要なポストに就く”という労働事情
シンガポール の雇用率は82.6%(25~64歳)と、経済協力開発機構(OECD)と比較した場合4番目に相当する高い水準を維持しており、経済はじつに活発だ。そこで働くのは244万人(2023年)。人材は総じて高いスキルを身につけている。それを証明するように、62.6%の労働力が専門職や管理職、経営幹部、技術職など重要なポストに就き、所得中央値は5,197SGD(約59万円)となっている。また、アジア地域で統括的役割を果たす職務の約25%がシンガポールを拠点としている。
しかしなぜシンガポールの人材が優秀なのか。その理由の一つとして、国が教育に力を入れていることが挙げられる。
労働力の62.8%が修了している高等教育について、まずシンガポールに現在6校ある国公立大学のうち、シンガポール国立大学(NUS)は、イギリスの大学評価機関であるクアクアレリ・シモンズ(QS)による「QSアジア大学ランキング2024年版」で3位。南洋理工大学(NTU)は4位といずれも世界的に評価され、学生は高度な教育を受けている。
次に、職業教育を中心に行う高等専門学校(ポリテクニック)が5校、キャリア・技能訓練を提供する技術教育学院(ITE)が3校ある。それら高等教育機関から即戦力となる卒業生が輩出している。
人材競争力アジア1位、世界2位
さらに注目すべきは、人材が多様性に富んでいる点だ。多くの国際企業がアジア太平洋地域の統括拠点をシンガポールに設置していることから、シンガポールにはさまざまな国の労働者が集まってきている。また、シンガポールはダイバーシティを重視し、異なる民族や文化が共存。バイリンガル教育政策を採用していることもあり、7割以上の国民が公用語である英語に加え、中国語、マレー語、タミール語など2言語以上に習熟しているため、グローバルなビジネスに向く。
加えて、環境行動計画「シンガポール・グリーンプラン2030」を掲げるシンガポールは、国を挙げて持続可能な開発を進めており、技術革新や研究開発により新たな産業が生まれている。このことも国内の労働市場を活性化させる一因となっている。
そうした要素が重なりシンガポールは、フランスのビジネススクール・欧州経営大学院(INSEAD)が発表する「世界人材競争力指数」で、3年連続で2位(2023年)を獲得。スイスのビジネススクール・国際経営開発研究所(IMD)による「世界人材ランキング」でもアジア首位(2023年)となり、有能な人材が集まっていることが浮き彫りになった。
シンガポールの人材の活用で事業を拡大するシマノとポッカ
シンガポール に進出する数々の日本企業も、現地の有能な人材を活用し、事業を優位に展開している。
スポーツ自転車用部品大手のシマノは、1973年に設置した初の海外生産拠点で、現地の人材を積極的に採用、育成。そのうえで、シンガポール の人材の高い生産技術と言語力を生かして生産のグローバル化を進めた。
飲料・食品大手のポッカサッポロフード&ビバレッジは1977年にシンガポールに生産拠点を設置し、そこから多数の国や地域に製品を輸出してきた。現地の人材が中心となり、ポッカの製品をシンガポールに根付かせ、現在ではマーケティングや研究開発機能を現地法人にも持たせている。
企業の人材確保・育成を支える仕組み
シンガポール でなら企業はそのように高度なグローバル人材を確保、育成し、事業を展開していくことが可能なのだ。そしてそれを支える仕組みとして、例えば、政府機関であるワークフォース・シンガポール(WSG)は、オンラインでのキャリア情報の提供や、就労準備研修、交流会、キャリア関連イベントの開催などを行う。
また、人材育成については、政府機関のスキルズフューチャー・シンガポール(SSG)が、能力開発プログラム「スキルズフューチャー(SkillsFuture)」を整備。その一環として、技術革新など社会の変化に労働者が適応できるよう、キャリアアップを後押しする制度を多数用意している。
その他、給与水準の設定や雇用に関するサポートなど、詳しくは『シンガポール人材採用の手引き』にまとめられている。