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2026年にグリーンアンモニアとグリーン水素の受け入れ・利用を開始するシンガポール

2026年にグリーンアンモニアとグリーン水素の受け入れ・利用を開始するシンガポール

シンガポールは2050年までに温室効果ガス(GHG)排出量を実質ゼロとする目標を掲げており、気候変動対策の一環として2026年にはグリーンアンモニアやグリーン水素の利用が本格的に始まる見込みである。The Straits Timesは、この取り組みの詳細とともに、プロジェクトを推進するGreenko Energy Holdingsの社長兼共同マネージング・ディレクターであるマヘシュ・コリ(Mahesh Kolli)氏のコメントを伝えた。


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Greenkoの社長兼共同マネージング・ディレクターであるマヘシュ・コリ氏は、同社はまずクリーンエネルギーを石炭などの化石燃料よりも安価にすることを目指すと述べた

クリーンエネルギーの家庭への供給が2026年に開始予定

シンガポールは、グリーン水素(再生可能エネルギーを利用して生成され、製造の時にCO₂を排出しない水素)やグリーンアンモニア(グリーン水素を利用して生成され、製造時にCO₂を排出しないアンモニア)などのエネルギー源を取り入れることで、近い将来、電力供給のさらなる脱炭素化を実現できる見込みだ。

具体的には、2026年からシンガポールの一般住宅や商業施設向けのパイプラインで供給される都市ガス(現在は水素とメタンの混合物)に、グリーン水素が一定割合で含まれる予定である。

さらに、他の重工業とともに国内の海運業も燃料としてグリーンアンモニアを利用することが 可能になり、国際海事機関(IMO)の2030年の脱炭素目標の達成に向けた後押しとなることが期待されている。
 

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グローバルな3者提携でシンガポールでのプロジェクトを推進

摂氏マイナス33度で液体化するグリーンアンモニア、そしてグリーン水素は、電解装置を使用して製造される。電解装置は電気を用いて水分子を水素と酸素に分解する仕組みで、グリーンアンモニアはこの水素を利用して作られる。

使用時にCO₂を排出しないこれらのグリーンガスの一部は、シンガポールの政府系投資会社であるGIC、マレーシアの石油会社Petronasの再生可能エネルギー部門であるGentari、インドに拠点を置きグリーンアンモニアやグリーン水素を製造するAM Greenの3者の提携を通じて供給される予定だ。

この提携を通じAM Greenは、2026年までに、インドからシンガポール、さらに日本、韓国などの市場にクリーンエネルギーを輸出し、2030年までに年間約100万トンのグリーン水素を製造することを目指している。

AM Greenは2006年にインドで設立された再生可能エネルギー企業であるGreenko Energy Holdingsの完全子会社であり、Greenkoは化石燃料を持続可能かつ安価なエネルギーに置き換えることを目的としている。

また、Petronasはこの提携に16億米ドル(約2,496億円)を投資したと報じられている。一方、Greenkoの株主の一つであるGICは、The Straits Timesの取材に対し、投資に関するコメントは控えた。

 

コストとインフラの整備がクリーンエネルギー普及への課題

Greenkoの社長兼共同マネージング・ディレクターであるマヘシュ・コリ氏は、同社はまずクリーンエネルギーを石炭やその他の化石燃料よりも安価にすることを目指し、その後、シンガポール、ヨーロッパ、経済協力開発機構(OECD)加盟国などの市場に輸送する計画であると述べた。

さらに、グリーンアンモニアを受け入れるために必要なインフラの準備がシンガポールで整うには、1~2年かかる可能性があるとも話した(2023年10月時点)。

この提携は2023年10月30日に発表されたが、それに先立ち、2022年10月にGreenkoとシンガポールのインフラ企業Keppel Infrastructureとの間で別の提携が行われた。

その2者の提携は、少なくとも年間25万トンのグリーンアンモニアを製造する施設の開発を検討し、さらに、その生産施設を稼働させるための太陽光および風力エネルギーのプロジェクトのポートフォリオを評価することが目的とされている。

市場調査などのデータを提供するドイツのStatistaは、2021年のシンガポールのグリーンアンモニア市場規模は60トンだったが、2030年までに約1万8,000トンへと大幅に増加すると予測している。

そのようにグリーンアンモニアが未来の燃料として注目されている一方で、それを大規模かつ定期的に使用するには高いコストが伴う。

例えば、グローバル商品市場のスペシャリストである調査会社のArgusは、グリーンアンモニアは化石燃料ベースの海運燃料の約4倍のコストがかかるとしている。

また、金融評価や格付けを行うS&P Globalによると、2023年9月のグリーンアンモニアの月間 平均価格は最高で1トンあたり804.65米ドル(約12万5,500円)だった。
 

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Greenkoの新たなアイデアでコスト高の課題を克服

そのようにコストが高い理由の一つは、再生可能エネルギーを電力網に供給・貯蔵する過程が完全にカーボンフリーではないことにある。再生可能エネルギーを支えるためには、依然として化石燃料に頼らざるを得ないのだ。

コリ氏は次のように説明した。

「再生可能エネルギーに関する技術的な課題でありチャンスでもあるのは、エネルギーの供給が断続的で、信頼性が低いことです。再生可能エネルギーを電力網に供給する場合、太陽光発電は1日に6~8時間しか発電できず、残りの16時間ほどは、ガスや石炭エネルギーが必要になります」

コスト削減のため、Greenkoはエネルギー貯蔵と電解装置の製造に大規模な投資を行っており、コリ氏はこう付け加えた。

「そこで私たちは、電解装置とエネルギー貯蔵を組み合わせることで、24時間365日再生可能エネルギーを利用可能にするというアイデアを発展させました。これにより、再生可能エネルギーを低コストで利用できるようになるのです」

 

*1米ドル= 約156円(2025年1月20日時点)

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