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不確実性が深まる世界で、シンガポールが競争力を維持するために必要なこととは?

不確実性が深まる世界で、シンガポールが競争力を維持するために必要なこととは?

シンガポール経済開発庁(EDB)による「International Advisory Council」の年次会議において、持続可能な成長の達成、雇用創出の推進、世界経済における影響力の強化に向けたシンガポールの戦略が議論された。

不確実性が深まる世界で、シンガポールが競争力を維持するために必要なこととは?

不安定な経済状況情勢や世界的な需要低迷の兆候が見られる状況のもと、世界各国のグローバル企業や人材にとって魅力的なシンガポールテャどうあるべきか--。シンガポール経済開発庁(EDB)による「International Advisory Council」の年次会議において、持続可能な成長の達成、雇用創出の推進、世界経済における影響力の強化に向けたシンガポールの戦略が議論された。その場において、4人のグローバル企業のトップエグゼクティブがそれぞれの見解を示した。

 

グローバルでかつ持続可能なエネルギー転換をサポート

世界最大規模のエネルギー企業であるシェルの前CEO(2022年末に退任)ベン・ファンブールデン(Ben van Beurden)氏による見解

1891年にここシンガポールに進出して以来、シンガポールはシェルにおけるアジア太平洋地域の重要な役割を担ってきました。当社は、現在もシンガポール最大の外資系企業のひとつであり、約3,000人の従業員を擁し、幅広いエネルギー製品を供給することで、地域全体のお客様にサービスを提供しています。
 

「私たちがシンガポールで好んでビジネスを行う理由は明確です。シンガポールは人材の層が厚く、貿易やビジネスを推進するという一貫した政策を行なっているからです。その結果、シンガポールはエネルギーと化学における主要なグローバルの拠点へと成長を遂げました」

ベン・ファンブールデン(Ben van Beurden)氏

前CEO

シェル


エネルギー転換は、低炭素経済に向けた世界的な進展にシンガポールが貢献する好機です。未来の経済を左右するのは、太陽光発電や風力発電、バイオ燃料、水素、炭素回収・貯留のためのインフラなど、未来のエネルギーシステムです。また、未来の経済には、消費者や企業が低炭素技術や燃料を採用できるよう保証する、政府による規制・政策による保証が求められます。

そのためには、より緊密かつ効果的に官民協働することで、エネルギー移行を共に乗り越えていくことができるでしょう。

その一例が、ここシンガポールにあります。それは、プラウ・ブコム島にある当社によるアジア唯一のエネルギー・化学拠点です。シェルはシンガポール初の石油貯蔵施設を設立した後、1961年にはプラウ・ブコム島に同国初の製油所を設立しました。そして現在、同島の施設をエネルギー・化学拠点へと転換を進めており、バイオ燃料のような低炭素エネルギー製品の生産、廃プラスチックの原料化といった循環型への対応、再生可能エネルギーの供給などに取り組んでいます。

 

地域における脱炭素化の「コーディネーター」

フランスを拠点とする電気・天然ガス・エネルギー事業大手エンジー社のCEO キャサリン・マクレガー(Catherine MacGregor)氏。同社は20年前にシンガポールへ進出し、地域本部を置いている。

昨今のマクロ経済学的および地政学的な文脈において、サプライチェーンの推進企業が持続可能性とレジリエンスへの取り組みを急速に発展させています。こうした状況は、東南アジアの脱炭素化に向けた中心的コーディネーターとして、シンガポールの役割を深化させる絶好の機会となります。

例えば、地域冷房や屋上および水上太陽光発電設備といった低炭素ソリューションにおいて、若い世代と熟練エンジニアをともに育成支援することは、シンガポールの重要な役割であると私たちは考えています。こうしたスキルは輸出に非常に適しているため、地域の脱炭素化目標の達成を後押しするとともに、エネルギー供給とソブリンリスク(信用リスク)を緩和してくれるでしょう。

また、シンガポールは企業が現地の要件や投資上の制限といった、地域特性の理解を深めるためのサポートを行うこともできるでしょう。こうした複雑な問題は、脱炭素化に向けた統一規制の枠組を地域レベルで策定できるように支援することで軽減することができるでしょう。すなわち、財政的なてこ入れ(炭素税、クロスボーダーの炭素取引、会計)や民間の低炭素分野の投資促進を通じて実現できるでしょう。

シンガポールは、新規事業やイノベーションのスケールアップに適した魅力的な場所です。当社はこれまで、国内と海外、両方の人材を(適切な移民計画に従い)うまく組み合わせ、優秀な人材にアクセスしやすい環境を活用してきました。

また、事業を保護・保証する強固で明確な制度、グローバル展開の容易さ、豊富なマーケティングテストの機会も得てきました。こうした要素は、将来を見越した事業への取り組みを促進してくれました。例えば、Engie Labとのイノベーションへの投資、Engie Factoryを通じた新規ベンチャー支援、人材パイプライン開発に向けた現地大学との提携などです。  Engie LabとEngie Factoryは、当社の能力向上やイノベーションを迅速にテストする上で役立っています(例えば、セマカウ島ではパイロットサイトを大規模に運用)。さらに、グリーン水素などの冷却・再生可能エネルギーソリューションを通じて、東南アジアのエネルギー移行を安価で利用可能にすることにも役立っています。
 


イノベーションと人材の拠点

240年以上の歴史を持つ世界的バイオ医薬品企業タケダのCEOクリストフ・ウェバー(Christophe Weber)氏。同社は、アジア太平洋地域統括拠点および臨床開発拠点を2008年にシンガポールに設立しています。

シンガポールはすでに、グローバルな舞台で有能な人材を呼び込み、育成、支援、定着させる上で最先端を走っています。インシアードとPortulans Instituteによる「2022年グローバル人材競争力指数報告書(2022 Global Talent Competitiveness Index Report)」において、シンガポールはクラス最高の人材マネジメントで2位を獲得し、アジア太平洋地域で唯一トップ10にランクインしました。

グローバルな競争力を維持するには、国際的なビジネスの需要に対応できるよう、人材のスキルアップを考えることが引き続き重要となってきます。

移ろいゆく世界の課題に応えるには、長期戦略に焦点を合わせ、各人材が最高の潜在力を発揮できるように、キャリア向上の機会、柔軟な職場環境、生涯学習の文化創出などを検討し、確実に人材を呼び込み、定着させることが不可欠です。

世界で最も研究開発(R&D)集約的な産業として、バイオ医薬品業界は過去10年間に世界全体で約1兆7000億米ドル(約217兆3552億円)をR&Dに投資してきました。今後5年間で、世界全体でさらに1兆2000億米ドル(約153兆3948億円)の投資が見込まれています。バイオ医薬品業界は、高賃金、R&D、製造に関わる雇用を通じて経済成長を促進しています。また、革新的な医薬品は、生産性の高い労働力の維持に役立ち、超高齢化社会の課題のいくつかに対処することもできます。

革新的な治療法を最終的に患者さんに届け、未来の医療課題を解決する上で、科学の継続的な発展は絶対に欠かせません。まず取り組むべきは、イノベーションを刺激してその成果が報われるようにすること、そして科学的な発見のペースに見合ったインセンティブを保証することで、バイオ医薬品のイノベーションエコシステムを強化することです。
 

「世界の分断が進んでも、開かれた経済、地政学的な中立性、そして地理的にも恵まれているシンガポールは、これからも製薬業界にとって重要かつ魅力的な海外直接投資先となるでしょう」

クリストフ・ウェバー(Christophe Weber)氏

CEO

タケダ


東南アジアのデジタル資本に

グローバルな金融インフラプラットフォームStripeのプレジデント兼共同創業者、ジョン・コリソン(John Collison)氏。決済の受け付け、収益成長、新しい事業機会の加速を企業に提供している。

世界中の企業が、厳しさを増す経済情勢に直面しています。ですが長期的に見れば、特に東南アジア地域でビジネスを行う企業には楽観できる要素がたくさんあります。アジア開発銀行は、2023年の東南アジアの国内総生産成長率予測を5%に更新しました。この数字は、この地域が最悪の景気後退に耐えられるという一つの指標です。

景気の減速は経済サイクルの一部として当たり前の現象です。痛みを伴うこともありますが、リセットする期間でもあります。野心的な企業は、景気後退が機会を創出すると考えます。シンガポールの進歩的な事業環境は、こうした見解に最も適した条件が整えられています。2030年に世界をリードするテック企業は、おそらく2022年と2023年に誕生するのではないでしょうか。

Stripeと当社のアジア地域ユーザーにとって、シンガポールは依然として重要な地域拠点です。私たちは、長期的な視野に立つことが、次のGrab(シンガポールの配車アプリ運営企業)やCarousell(シンガポールのフリマアプリ運営企業)が生まれ、グローバルに拡大できるような金融インフラの確保につながると考えています。シンガポールは数十年単位の忍耐強い視点を備えていることから、そういったベースとして最適な場所なのです。シンガポールは早くから、成功の鍵となる要素として、グローバルな統合、技術の進歩、配慮をもった発展が重要であることを理解していました。

シンガポールの人材基盤、グローバルな視点、イノベーション能力を考えると、金融インフラの多くがシンガポールや東南アジア地域で広く確立されていくだろうと楽観しています。

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