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利益と目的のバランスを取りながら、より良い世界を目指すシンガポール

利益と目的のバランスを取りながら、より良い世界を目指すシンガポール

シンガポール経済開発庁(EDB)が管轄する2022年の固定資産投資額が、過去最高に達した。世界的に経済の先行きが不透明ななか、海外直接投資を行う投資家たちが投資先に求めることとは何か。そしていま、改めてシンガポールに注目する理由とは――。

利益と目的のバランスを取りながら、より良い世界を目指すシンガポール

世界中で求められるビジネスと環境とのバランス

混乱と危機に見舞われ、激動の時代に耐えてきた2000年以降の世界。社会は地球規模で、気候変動や食料不安、格差の拡大など深刻化する課題に直面している状況だ。

世界人口の増加にともない、栄養不足を解消して、すべての国民が健康的で持続可能な食生活を送れるようにすることは、よりハードルの高まっている課題だ。その解決のためにも、家畜に代わるタンパク源の確保が急務となっている。

また、人口が増加すればするほど必要とされる資源やエネルギーについて、化石燃料を燃やしたり有限な物質の消費を加速させたりせずに、ニーズを満たす方法を見つけなくてはならないことは、いまや常識になっている。

この問題に対して、デジタル経済はいくつかの答えを見つけ、より少ない消費で済む経済機会を提供している。一方で、急速に発展するインターネット経済が、基本的な情報手段を持たない人々を取り残す危険性もある。

こうした問題はいずれも、社会とそれを支える企業にとって大きな課題となっている。それはつまり、問題を解決するために適応し革新する企業には繁栄の機会がもたらされ、そうでない企業は後退の危機に直面することを意味する。

 

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混乱や危機はポジティブな変化へのトリガー

アジアでは、最近の世界の出来事が人類に悪影響を及ぼしたと考えているリーダーが大多数を占めていることが、調査で明らかになった。しかし逆に、アジア地域の企業の約半数は、こうしたネガティブな要因が自社のビジネスにプラスの変化をもたらし、より機敏で柔軟かつ革新的になり、さらに従業員や顧客、環境の幸福を重視するようになったと答えている。

海外直接投資を行う投資家(FDI)たちも、このポジティブな変化を受け入れている。アメリカの経済専門通信社であるBloombergが世界のFDIを対象に実施した2022年の調査によると、半数以上が2021年当時よりも世界経済に関して楽観的になったと回答。現在およそ60%のFDIが投資戦略に、環境・社会・ガバナンス(ESG)に関する事項を組み込み、80%が今後3年以内に国際的に事業を拡大する意向を示した。

なぜこれが“朗報”なのか。それは、世界の課題の壁が差し迫っているにもかかわらず、ビジネスリーダーたちは解決策が見つかると確信しており、適切な環境を見つけることができれば投資する用意があることを強く示唆しているからだ。

Bloombergの調査によるとFDIは、将来の経済を形づくり、その中で成功するために必要なものを見つけることに重点を置くようになってきている。具体的には、高度なスキルを持つ労働力、発達した金融市場、国際基準を満たした事業環境へのアクセスを意味する。要するに、これらの要素が、政情不安や安全保障上のリスクを回避し、安定した通貨でビジネスを行うことと同様に大切になってきているということだ。

この調査ではさらに、投資家が、技術的な変化を受け入れる、機敏で柔軟性のある投資先を求めていることがわかった。ESG要素は投資判断においてますます重要な要素になってきている。というのも、投資家の3分の2が、持続可能な取り組みを採用している国への投資の可能性が高いと述べたのである。

 

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シンガポールはアジアの到達地

世界のFDIの10人中4人が、今後1~3年の間にアジア太平洋地域へ投資することを検討している。そしてアジアに目を向けたとき、シンガポールは彼らが思い描くトップ3に入っている。

これは、投資基準が複雑で厳しいものになるにつれ、多くのFDIが進化するニーズを満たすため、シンガポールに注目するようになった結果だ。世界的な調査によると、FDIはシンガポールに対して主に、持続可能な開発プログラム、ハイテクソリューションの利用可能性、世界クラスのインフラ、政治的安定性、熟練した労働力といったイメージを持っているという。

実際シンガポールは、Bloombergの調査によると、社会・政治、経済、技術・インフラ、人間・健康の各要素を網羅するほぼすべての基準において、新興市場と先進市場の両方の平均評価よりも高くランクづけされている。

投資の可能性という点でシンガポールは、先進的な技術と革新性においてFDIから高い評価を得ており、ASEAN(東南アジア諸国連合)地域における革新的なグリーンフィールド投資(現地法人を設立して工場などを一からつくる投資)先として、トップになっている。

そうしてシンガポールは2022年上半期には、ASEAN諸国、中国、韓国、日本よりも多くの投資を呼び込んだ。また、EDBは2022年通年で、過去最高となる225億SGD(約2兆2500億円)の固定資産投資額を集めた。

 

違いを生み出すシンガポールのビジネス環境

食料安全保障、再生可能エネルギー、カーボンマネジメントのサービス、デジタル経済などの分野でイノベーションをリードする企業は、ハイテクソリューションの利用可能性、熟練した知識のある労働力、先進的な規制が整った環境、ビジネスに適した投資環境などを理由に、シンガポールをパートナーに選択している。

そのなかにはマイクロソフト(アメリカ)やグーグル(アメリカ)も含まれており、デジタル格差のないインクルーシブな社会の実現のための地域的・世界的な計画と、世界の最も差し迫った問題を解決するためのテクノロジーの導入を推進する拠点として、シンガポールを選んでいる。

また、シンガポールをパートナーとする企業には、持続可能で革新的なソリューションへの高まる需要に特殊素材の開発で応え、世界をリードするArkema(フランス)や、再生可能エネルギー分野のグローバルリーダーであり世界第4位の風力・太陽光発電事業者であるEDP Renewables(スペイン)の一員であるEDPR APACも含まれている。

さらに、養殖AIソリューションプロバイダーのAquaEasy(シンガポール)や、果物・野菜大手Dole(アメリカ)などの企業は、健康的で持続可能な食料システムの構築が求められるなか、食料生産を無駄なくより費用対効果の高いものにする革新的な生産およびアップサイクルのソリューションをシンガポールで設計している。

社会には、私たちが直面する大きな課題を解決するための才能とビジョンがすでに備わっている。これらの課題に立ち向かうことを決意した世界で最も先駆的な企業の多くにとってシンガポールは、パートナーシップ、コラボレーション、イノベーション、変化への寛容さを兼ね備える。そしてシンガポールは、将来の世代のため、世界を再構築するために必要な環境を提供している。

*本稿は、Bloomberg Media Studios (“Singapore: Balancing Profit and Purpose for a Better World”) を翻訳・再構成したものです。

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