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シンガポールのスマートシティ構想、日本企業の発展を促進

シンガポールのスマートシティ構想、日本企業の発展を促進

AIやIoTをはじめとするデジタル技術の進歩にともない、スマートシティ構想の実現への取り組みが世界で加速している。スマートシティ先進国として知られるシンガポールは、イノベーション創出や人材育成のための環境が整っているため、いままさにスマートシティ関連事業を手がける大手企業が続々と集まってきている⸺。


Courtesy of the Housing & Development Board

Courtesy of the Housing & Development Board

完成間近の大型スマートシティ「テンガータウン」

先端技術の活用で、交通やエネルギーなどのインフラが効率的に運用される都市“スマートシティ”。その実現に向けたASEANの連携の枠組み「ASEANスマートシティ・ネットワーク」への協力のため、日本とASEAN各国のスマートシティ関係者が集まる「日ASEANスマートシティ・ネットワークハイレベル会合」の開催時期が今年も近づいてきた。

この「ASEANスマートシティ・ネットワーク」の設立を提案したのはじつはシンガポールなのだが、シンガポールは世界有数のスマートシティ先進国として周知されている。

例えば、スイスのビジネススクール・IMDによるスマートシティランキング「IMD Smart City Index」では、2021年に3年連続で1位を獲得。また、アメリカで放送事業などを手がけるBloombergが発表している「イノベーション指数」では、2021年に2位を獲得するなど、さまざまなランキングで高い評価を得ている。実際、テック系多国籍企業のおよそ6割がシンガポールに地域統括会社を設置しているほか、世界トップ100のテック企業のうち8割以上がシンガポールに事業所を構えているともいわれている。

そして現在、約4万世帯、10万人以上が暮らせる予定である大型スマートシティプロジェクト「Tengah Town(テンガータウン)」が政府主導で進行中だ。

シンガポール西部で開発が進むこのスマートシティは、住宅に最新のエネルギー管理システムが導入されるなど、街全体にスマートテクノロジーを計画的に導入したシンガポール初の公共団地。2023年にも入居開始予定とあって注目が集まり、こうしたことも、シンガポールの先進性を裏打ちしている。

そんなテンガータウンのプロジェクトでは、スマートシティ関連事業に取り組む日本企業も多く、空調大手のダイキン工業や、東京海上ホールディングスも参画している。

ダイキンはシンガポールの電力大手・SP Groupと協業し、地域内の建物をまとめて冷房する地域冷房システムを供給。このシステムの導入により、各家庭での冷房に関するトータルコストが約30%削 減され、スマートシティ全体においても消費電力が大幅に抑えられ るという(ダイキン工業ホームページから)。

一方、従来の都市とは異なるインフラや施設を持つスマートシティでは、スマートシティ向けの保険が必要になるが、東京海上ホー ルディングスのシンガポール現地法人・Tokyo Marine Life Insurance Singaporeはテンガータウンでその保険を提供する役割を担う。まずは、財物保険の提供から始まり、将来的にはよりパーソナライズされた保険商品やサービスを展開する予定としている (東京海上ホールディングスホームページから)。

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その他の大手日本企業によるシンガポールでのスマートシティ事業

ほかにも、スマートシティ実現に向けたモビリティーサービスの開 発に力を入れる電機メーカーのパナソニックが、シンガポールに設置した研究開発拠点・パナソニックR&Dセンターシンガポールを活用し、技術を前進させている。

例えば、車両同士、あるいは車両とインフラなど、車とモノをつなぐ通信技術V2X(Vehicle to Everything)に関するデータ収集の技 術開発では、パナソニックR&Dセンターシンガポールがテスト面で大きく貢献したという。

というのも、実証実験のための環境整備が進んでいるシンガポー ルでは、新技術の試験や検証を行いやすい。そのためこのデータ収集の技術開発でも、パナソニックR&Dセンターシンガポールが中心となり、シンガポールで公道試験が実施されたのである(パナソニッ クホームページから)。

さらに最近では、2022年4月、ロボット事業を手がけるソフトバンクロボティクスが、スマートシティ向けのアプリケーションを開発するシンガポールのIoT企業・UnaBizとの連携を発表。スマート施設管理にまつわるビジネスをともに展開していくということで、国家の枠を超えた協業も広がりつつある(UnaBizホームページから)。

 

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スマートシティ政策と新技術の実験場としての魅力

このように、シンガポールには日本そして世界から企業が集まり、 スマートシティ化が急速に進められているが、なぜシンガポールはスマートシティ技術のいち早い導入に成功しているのだろうか。それにはいくつかの理由がある。

第一に、国の政策が挙げられる。シンガポール政府は2014年、交通渋滞や少子高齢化などの課題解決や国民生活の向上を目指すスマートシティ政策「Smart Nation Singapore」を開始。以来、国を挙げてスマートシティ実現に向けて取り組み、気温の観測値や、顔認証に関する情報などを提供する住民サービスのためのプラットフォームを整備する「Smart Nation Sensor Platform」や、高齢者の見守りシステムを整備する「Elderly Monitoring System」、自動運転のシャトルバスを開発する「On Demand Shuttle」など、数々のプロジェクトを実施してきた。

第二に、スマートシティ技術の研究開発拠点になっていることだ。 パナソニックの例でも示される通り、シンガポールは新技術のテスト環境として最適であるため、研究開発に取り組む企業が世界から集まり、革新的なソリューションが次々と生み出されているのである。

テスト環境として最適というのは、まず、シンガポールには約70の公共機関のデータ記録を公開する「Data.gov.sg」が整備されている。 Data.gov.sgではこれまでに、駐車場の空き状況を知らせるアプリや不動産仲介のアプリなど、政府のオープンデータを利用したアプリも100以上作成され、企業は新しいスマートソリューションを開発する際、アイデアとなるこれらの情報に、いつでも自由にアクセスすることができる。

さらに、アメリカの自動運転のスタートアップ・nuTonomy(現在はAptivが買収)が自動運転タクシーの公道でのテスト走行を世界で初めて行ったのがシンガポールだったように、企業は政府の協力を得ながら新技術を試すことができるのだ。 

そのうえ、アジアで最も優れたデジタルインフラを持つとも評されるシンガポールには、次世代技術が集結。産業パーク・ジュロンイノベーション地区内のモデル工場では、IoT、AI、ロボティクスなどのデジタル技術をどう組み合わせられるか実験できる。

そうした環境がシンガポールを“スマートシティ先進国”たるものにしているのであり、今後もシンガポールを中心としたASEANと日本のスマートシティ関連事業のますますの発展が期待できる。

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