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医療テクノロジー:病気のない世界を実現するシンガポールの処方箋

医療テクノロジー:病気のない世界を実現するシンガポールの処方箋

医療問題に取り組むシンガポールの企業は、革新的な遠隔医療、生物医学や医療技術分野の発展を通じてアプローチを個人化しています。

医療テクノロジー:病気のない世界を実現するシンガポールの処方箋

世界初の「ラピッドスマートテストキット」、脊髄手術支援ロボット、医師による非対面での診察。これらはどれも SF の話ではありません。テクノロジーがもたらす急速な医療変革によって、将来の世代は、人生をより長く健康に過ごせるでしょう。

シンガポールでは、より健康的な世界の創造を目指す革新的な企業が、活気あるエコシステムを享受してビジョンを現実に変える取り組みを行っています。優れた科学人材、開発支援、パートナーネットワークにアクセスできることで、生物医学、医療技術、健康管理サービスに携わる企業が、治療効果や患者ケアの水準を高め、未知の病気から世界を守る方法の開発にさえ取り組むことができました。

Medtronic Singaporeでグローバルコマーシャルオペレーションズおよび顧客体験の担当副社長を務めるダイアナ・タン(Diana Tang)氏は、次のように述べています。「革新的な医療技術で誰もが平等に医療を受けられるようになった近未来の世界を想像してみてください。それがシンガポールでは現実のものになり始めています」。これが、この医療技術の最大手企業がシンガポールに拠点を置き、世界中の患者に向けて製品やサービスの製造や提供を行っている理由なのです。

一方、バイオテクノロジー企業のGenScript Biotechと、遠隔医療のスタートアップであるDoctor Anywhereが野心を実現できたのは、広範な研究者や先駆的な優れた科学人材で構成されたシンガポールのネットワークを通じて志を同じくするパートナーと協力したからです。

 

未知の病気に向けた世界の対応力を強化する

ライフサイエンスに関する研究ツールおよびサービスのプロバイダであるGenScriptは、世界初の FDA 承認済みコロナウイルス中和抗体検査キットである cPass™ を開発するというグローバルな成果を 2020 年に達成しました。シンガポールに拠点を置く同社は、cPass™ テストキットの概念化、設計、テスト、製造を行うことができる世界レベルの研究チームを結成しました。これはデュークシンガポール国立大学医学部およびシンガポール科学技術研究庁の診断開発部門との協力を通じて実現できたことです。

GenScriptは、シンガポールに新たな製造施設を開設して、新しい治療法、医薬品、ワクチン開発の基礎となるタンパク質や遺伝子の革新や製造を進め、き続きこの国の研究および医療分野で重要な役割を果たしています。
 

シンガポールにあるGenScriptの施設で cPass™ をスキャンする様子(写真提供: GenScript)

シンガポールにあるGenScriptの施設で cPass™ をスキャンする様子(写真提供: GenScript)


GenScriptのアジア太平洋地域担当プレジデントを務めるジョンソン・ワン(Johnson Wang)氏はこう指摘します。「シンガポールは、技術的な観点だけでなく、政府による支援、経済、環境、法制度、その他のマクロ経済的要素の観点からも優れたエコシステムを備えています」

シンガポール経済開発庁や、同国の主要調査機関であるシンガポール科学技術研究庁などの強力な支援パートナーと協力することで、同社は成長を加速できました。主な成功要因はもう 1 つあります。それは人材プールです。

同氏は言います。「シンガポールは、多くの著名な科学者を輩出しています。人材は不可欠な要素であり、それがシンガポールに地域本社を設置することにした理由の 1 つです。また、シンガポールには、シンガポール国立大学と南洋理工大学という世界最高レベルの大学が 2 つあるだけでなく、他にも将来の人材を育成するための優れた機関が数多く存在します」
 

Doctor Anywhereの遠隔医療アプリでバーチャル診察を受ける女性(写真提供:Doctor Anywhere)

Doctor Anywhereの遠隔医療アプリでバーチャル診察を受ける女性(写真提供:Doctor Anywhere)


いつでも、どこでも医師に相談

世界的感染拡大を受けて、Doctor Anywhereはシンガポールの遠隔治療ソリューションプロバイダとして利用者を集め、高齢者や子供が医療機関を訪れなくても診察が受けられるようになりました。また、同社は業界初となるオンライン指導つき遠隔 ART 検査(抗原検査)サービスも開始しました。このスタートアップ企業は現在、東南アジア全体で 250 万人のユーザーにサービスを提供しています。この数字が同社の信頼性を高め、他国への展開にもつながりました。

Doctor Anywhereが東南アジアでサービスを拡大しながら目指すのは、高品質で安価な医療の利用しやすさを向上し、病気や慢性疾患の患者が専門医療を迅速に受けられるようにすることです。同社の設立者兼CEOであるリム・ワイ・マン(Lim Wai Mun)氏は次のように述べています。「テクノロジーに対応した医療で、この地域の医療需要と供給をより適切に一致させられると確信しています。当社の開発目標は、医療リソースの利用効率を高め、全体的な冗長性とコストを削減することに向けられています」

シンガポールに本社を置いたことで、同社と地域市場との物理的な距離も縮まり、さまざまな視点を持つ国際的な人材プールへのアクセスも得られました。これにより、Doctor Anywhereはより広範なユーザーに価値を提供できるようになったのです。

Doctor Anywhereが成功した背景には、企業を優遇する文化と、政府による支援もあったとのことです。リム氏は言いました。「シンガポールはスタートアップ企業のエコシステムの成長に向けた約束を確実に実行してきました。シンガポール企業庁とシンガポール経済開発庁から事業拡大の指導を受け、これが他の創業者や企業と関係を築く上で大きな助けになりました。彼らは当社の戦略について鍵となる質問を投げかけてくれました。おかげで事業とネットワークの構築が加速しました」

 

誰もがより健康になれる未来を描く

Medtronicは、迅速で正確な診断と標的治療という未来に向けて取り組んでいます。同社が夢見るのは、鼻腔を通して肺癌を検出し、最低限の侵襲手術 1 回で治療ができたり、テストストリップやプリックを使わなくても糖尿病患者が個人に適した予測ケアを受けられたりする未来です。同社では医療、データ、テクノロジーを統合したソリューションで、医師がより良い治療を提供できるようにすることを目指しています。

「Medtronicでは、高度な個人化と先進のコンピュータ技術を活用して患者を中心に据えた開発に取り組み、適切なソリューションを適切な場所、適切なタイミングで提供しようとしています。これによって患者が自分の病状を心配する時間を減らせるのです」とタン氏は述べています。
 

心臓病に人工知能と機械学習がどう使われるのかを表す視覚的資料(写真提供:Medtronic)

心臓病に人工知能と機械学習がどう使われるのかを表す視覚的資料(写真提供:Medtronic)


こうしたことを実現するために、医療技術と機器を提供する企業が患者最優先のイノベーションを推進するには、政府からの支援が必要です。シンガポールにはそれがありました。

Medtronicはシンガポールに拠点を置いたことで、国立心臓センター(National Heart Centre)や他の病院と協力することができ、右心室のみにペーシングを必要とする患者に世界最小のペースメーカーを植えこむことに成功しました。同社は 2027 年までに先駆的な製品を展開する予定です。それはロボット工学とAIを活用し脊髄インプラント向けにカスタマイズを施した、完全統合型の脊椎手術で、SingHealthとの提携を通じて実現します。

さらに、同社では医療エコシステムのさらなる強化を目指しています。2021 年には、有望な医療技術やデジタル医療ソリューションを特定して投資するために、シンガポール経済開発庁と共にMedtronicのオープンイノベーションプラットフォーム(OIP)を立ち上げました。これは、同社がデータ、AI、自動化を活用して患者のニーズに対応する上で役立つ開発をサポートするものです。

また、国民がデジタルに精通しており、革新的な技術を受け入れる支援インフラが整っていることも利点です。「シンガポールの強力で、統合され、効率的な医療エコシステムと、医療技術の革新を育み、成長させるという政府の揺るぎないコミットメントは、シンガポール、そしてアジア全体の人材プールが医療の未来に不可欠であることを示しています」

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