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ローレンス・ウォン副首相兼財務大臣、世界の物流とサプライチェーンの中心的な存在であり続けることを明言

ローレンス・ウォン副首相兼財務大臣、世界の物流とサプライチェーンの中心的な存在であり続けることを明言

5月末に、シンガポールのローレンス・ウォン副首相兼財務大臣( Mr. Lawrence Wong, Deputy Prime Minister and Minister for Finance of the Republic of Singapore)が、岸田内閣総理大臣を表敬訪問した。両名はシンガポールと日本との素晴らしい関係を再確認し、岸田総理は「デジタル、エネルギー・気候変動、防衛装備協力を含む安全保障分野等での二国間協力を深めていきたい」とした。ウォン副首相は、日・ASEAN友好協力50周年を迎えるにあたり、ASEANとの関係を深めようとする日本の尽力を歓迎すると共に、包括的戦略パートナーシップへの格上げへの期待感を示した。


Photo: MCI Photo by Fyrol

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ウォン副首相は、アジアの政治や経済について討議する日経フォーラム「第28回アジアの未来フォーラム」の基調講演に登壇し、世界の分断の拡大が、アジアの諸国に安全保障やサプライチェーン(供給網)などの面で大きな影響を及ぼしていることを懸念。貿易と投資が自由かつ国際ルールに準拠していることが大切であり「ルールに基づく秩序を強化すべき」と訴えかけた。

さらに、同時期に行われたメディアインタビュー*では、「世界的な投資競争がさらに厳しくなっているにも関わらず、シンガポールはアジアにおける貿易、資本、人材、イノベーションの重要な拠点となっている。引き続きシンガポールが世界の物流とサプライチェーンの中心であるために、空港と港湾の能力を大幅に強化する」とした。加えて「研究開発とイノベーションの能力をさらに高め、グローバル企業と協力して最先端の活動をシンガポールに定着させていく。オープンなビジネスハブであり続けることにより、世界中から才能ある人材がシンガポールに集い、国際競争力を有した素晴らしいチームを結成することができるだろう」と述べている。シンガポールと日本との二国間協力については「スマートシティ、5G通信ネットワーク、人工知能などのデジタル経済の分野でさらに多くのことができる」と述べた。

同インタビューにおいて、ウォン副首相は環境面での取り組みついて次のように述べている。「シンガポールは小さく人口密度の高い島であり、再生可能エネルギーに関する選択肢は限られているが、2050年までに実質ゼロ排出を達成するために自らの役割を果たす。主要な取り組みとしては電力部門の脱炭素化であり、さまざまな面で日本と協力していきたい。例えば、水素に関しては、現在不足している生産や貿易に関する国際規格や認証の開発に協力することができる。日本とシンガポールの研究機関や企業が、水素バリューチェーン全体で実現可能性調査や技術テストベッドを探索する余地もある。」

*シンガポール首相官邸サイトに掲載されているNikkei Asiaのインタビュー(23年5月実施)による

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世界最大の海運燃料補給拠点であるシンガポールがクリーンな海運業の推進をリードする

ウォン副首相は「空港と港湾の能力を大幅に強化する」と語っていたが、かねてよりシンガポールは世界の貿易拠点として栄えてきた国家であり、世界最大の海運燃料補給拠点としても知られている。しかし、そうした海運業も世界的な気候変動対策に対応するために、化石燃料からのエネルギー移行に取り組んでいく必要がある。持続可能性について前向きに取り組んでいるシンガポールは、今や海運業においても世界をリードしつつある。

船舶は世界中で年間約10億トンの二酸化炭素を排出しており、これは総排出量の約3% に相当すると言われている。そのため海運の脱炭素化に注目が集まっており、2050年のゼロエミッション目標と、パリ協定の目標達成に向けた圧力も高まっている。国際海事機関(IMO)は、パリ協定を念頭に国際海運の温室効果ガス排出削減目標について引き続き議論を進め、2030年の目標の強化や40年目標新設について検討しており、23年中にも目標が改定される予定だ。そのような背景がある中で、シンガポールが世界の海運と貿易と燃料補給の一大拠点としての地位を維持するには、海運業における持続可能なエネルギー移行に対して積極的に取り組むことが求められる。

シンガポールでは、2050年までに排出ゼロを達成するための海運業の包括的な戦略が示されている。シンガポール海事港湾庁は、パートナーと協力して、特に、クリーンアンモニア、水素、メタノールといったゼロカーボン燃料のサプライチェーンを確立することで将来に向けた準備を進めている。また、ローカルで運航する船舶の電動化も進んでいる。シンガポールは、2030年までにすべての新しい港湾船舶を完全電動化またはネットゼロ対応にすることを義務化しており、実際にシンガポール初の完全電動フェリーも運航を開始している。

シンガポール初の完全電動フェリーについて詳しくはこちら(英語)

世界最大の海運燃料補給拠点であるシンガポールがクリーンな海運業の推進をリードする

その他、交換可能なバッテリーを搭載した大型貨物船開発も進行している。船舶の充電ポイントをさらに拡充する計画は、東南アジア最大のバッテリー蓄電システムとして22年12月に導入されたSembcorp Energy Storage Systemとうまく組み合わされている。これにより、太陽光発電の国内利用の拡大には重要な役割を果たすことになる。

また、シンガポールはオランダのロッテルダム港湾局と協力し、2027年までに「グリーン・デジタル海運回廊」を開設する計画だ。これによって、約8,000海里にわたる港間において持続可能な燃料を使用する船舶の通行が容易になる。加えて、カリフォルニア州のロサンゼルス港とロングビーチ港との間にも類似した横断太平洋回廊のための協定を締結、さらにノルウェーとの協力により港湾と船舶の脱炭素化の支援も行っている。同様に、2025年末までにシンガポール・オーストラリア間のグリーンおよびデジタル輸送回廊を確立する予定であり、低炭素およびゼロ炭素燃料サプライチェーンの確立、グリーン海洋燃料源の開発と導入を加速するための港湾サービスと海運業務のグリーン化を測る。

シンガポールの取り組みは、企業による脱炭素化に向けた歩調にも合致している。Amazonをはじめとする世界の大手小売業者は、2040年までにゼロエミッション燃料を使用する船舶のみを利用することを公約しており、初の商用アンモニア燃料船エンジンも来年導入される予定だ。デンマークの海運企業Maersk社は、2040年までにネットゼロを達成することを目指しており、今年後半にも19隻のメタノール対応のコンテナ船を発注、事業に投入する予定だ。そこで、シンガポール、上海、その他の主要な港でサービスプロバイダーと契約し、新しい船が持続可能な原料メタノールで運航できるようにしているという。

このように、海運業においても、環境への配慮とパリ協定に合致した規制に準拠するための大きな潮流が起こっている。新たな燃料や再生可能エネルギーの利用を伴った船舶関連技術開発は不可欠であり、それは同時にクリーンエネルギーに関する大きな経済的な機会をもたらすものでもある。実際、シンガポールにおける2023年5月の海洋・オフショア・エンジニアリング部門における生産高が、造船所の活発化や石油・ガス田用機器の増産に支えられ31.5%も拡大していることからも窺える。

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