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国際競争力を高める シンガポールの石油化学産業

国際競争力を高める シンガポールの石油化学産業

パリ協定は、21世紀末までに、産業革命前からの気温上昇を2度より低く抑えることを目標に作られた、国際的な枠組みだ。現在、140以上の国と地域が批准し、2020年以降、各国が取り組みを開始する。地球温暖化防止に向けての CO2排出削減は、もはや世界的に取り組む潮流と言えよう。


シンガポールにおいても、CO2排出削減を目指すため炭素税の導入が検討されている。対象は、年間25,000トン以上の温室効果ガスを排出している設備で、温室効果ガス1トンに対し、10~20SGDの炭素税が導入される。ただし、2019年の施行については政府が産業界と対話のうえ、シンガポールの経済状況や、他国の導入状況も考慮したうえで、詳細が決定される。特に直接影響を受ける、高いCO2排出量を持つ石油化学産業への適切な措置を講じたうえでのことだ。具体的には石油化学産業のような貿易露出・排出集約産業(略称EITE、エネルギー消費量が多く、国際競争上の費用の転嫁が難しい産業のこと)のコスト競争力を維持するための対策がとられる。シンガポール政府は、CO2排出量が効率的なEITEの工場の炭素税を控除する業界援助を研究している。

ASEAN消費市場の拡大と次世代型の道を進む石油化学企業

ジュロン島は、シンガポールの石油化学産業の一大拠点だ。進出企業は100社以上で、日本の三井化学や住友化学など、世界中の石油化学関連企業がここを拠点に成長を続けている。また、ジュロン島への投資は年々増加しており、完成した2009年には280億SGDであったが、現在は500億SGDにまで拡大している。この投資の目的の一つに、エネルギー効率化による競争力の維持・拡大があげられる。例えば、ここ2,3年の間で、ジュロン島の企業は、16億SGD以上もの資金をコジェネレーション工場などの建設に投じている。コジェネレーションといえば、総合的にエネルギー効率を高める新たなエネルギー供給システムだ。
また、CO2排出削減が期待されるもう一つの取り組みが、プラント工場のデジタル化だ。製造業のIoT化は、ビッグデータとセンシング技術によって製造プロセスを効率化し、生産性を向上させる力が期待される。例えば総合化学品メーカーのデンカでは300個の蒸気トラップの監視をIT化することで、プラント単体では300トン以上CO2排出量を削減できると推定。これは年間144,000SGDのコスト削減に換算することができる。このように、シンガポールの石油化学産業は、炭素税導入でも企業競争力を高め、成長を維持することで、急速に拡大している巨大なアジアの消費者市場に対応しようとしている。

 

EDBも競争力を高める様々なサポート体制を発表

シンガポール政府も一般的に石油化学産業の持続的な成長を促すため、様々な手段を講じている。その最大のものがインフラの整備拡大だ。例えば、ジュロン島に建設されたVopakターミナルは、ナフサの代替原料となるLPガスのターミナルで東南アジア初のLPGターミナルだ。原料の多様化はコスト競争力につなげることができる。また、EDBは、石油化学関連企業の研究開発能力の強化を行っている。これは、科学技術研究庁(A*STAR)と共同で行われるプロジェクトで、企業が強化したい分野に公的資金を投資し、公的研究機関内で能力開発を行うものである。このようにシンガポールは石油化学関連企業を多角的な面からサポートし、成長を促す取り組みを行っている。

バリューチェーンの進化でグローバル市場の中心に

シンガポールの石油化学産業は、独自の製造プロセスとバリューチェーンを次世代型に進化させることで、グローバル市場における役割を更に高めようとしている。そこには、より生産性を高め、効率化されたハイテクの仕組みだけではなく、インフラからR&D、労働政策など、政府と一体となった取り組みが見て取れる。今後もシンガポールの石油化学産業から目が離せない。

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