土地や賃金が安く立地にも恵まれているイスカンダル
ジョホール州では特に、2006年から開発が進められている複合開発区「イスカンダル・マレーシア」が、外国企業の製造拠点の移転先として、あるいは新たな投資先としても評価を得ている。
工業団地や商業施設、住宅、教育機関などが集まるイスカンダル・マレーシアに製造拠点を置く何よりの魅力は、土地の安さにある。イスカンダル・マレーシアの広さはシンガポールの国土の約 3 倍に相当し、ペナン州やセランゴール州などマレーシアの他の地域よりも工業用地や既存工場の賃料が安い。
また、イスカンダル・マレーシアの製造業における平均賃金は安く、例えばマレーシア南部・東海岸地域の平均賃金よりも20%から50%も低い。そのうえ、イスカンダル・マレーシアの総労働力160万人のうち74%が高校以上の教育を受けているなど、優秀な人材の確保が可能である。
さらに、原材料や部品、機械、設備の輸入関税や売上税の免除、雇用助成金、人材育成のための助成金など、開発地域ならではのインセンティブが充実している点も外国企業にとっては大きな魅力だ。
そしてもう一つのポイントが、ハブ港の存在。イスカンダルにあるタンジュン・ペレパス港は、輸入関税がかからないなどインセンティブが設けられた自由貿易地区に指定され、港湾料金が安く、コンテナ取扱数の世界ランキングでも2020年は16位(速報値)。イスカンダルはこの港やジョホール港、セナイ国際空港を通じてシンガポール、そして世界につながっているため、拠点を置く企業はビジネスをグローバルに展開しやすい。
そうしたことからも、多国籍企業のダイソン(シンガポール)、BMW(ドイツ)、DHL(ドイツ)のほか、昭和電工、味の素、日本通運、商船三井など多くの日本企業が進出している。
若く優秀な人材や優遇税制が魅力のBBK
一方、BBKには、日本からパナソニックやセイコーエプソン、自転車・釣り用品のシマノなどさまざまな企業が進出し、製造業を中心に発展。日系や欧米の企業による新たな投資の動きも目立つようになってきている。
BBKがそのように、東南アジアの中でもとりわけ製造拠点として選ばれているのには、シンガポールから近いという立地条件に加え、高いコスト競争力や外国企業にとって有利な税制など、いくつかの理由がある。
まず、電子機器や造船といったBBKの主要な産業に従事する労働者は、スマトラ島やジャワ島の労働者よりも生産性や生産レベルが高い。そのため、これらの産業の成長は著しく、例えば、BBKの電子製造サービスは2018年から1年間で10%も成長している。
次に、投資環境の整備を行うインドネシア投資調整庁(BKPM)は、インドネシアに5,000万米ドル(約60億円)以上の投資を行う企業に対して、5年から20年間法人税を100%免除している。
さらに、BBKの近くにはハブ空港のチャンギ国際空港(シンガポール)があり、また、BBKそれぞれの工業地域は自由貿易区の指定を受けており関税などが免除されるため、ジョホール州同様、グローバルに活動する企業の大きな支えになる。
そのように、シンガポールに数多く集まる外国企業のビジネスの可能性を一層広げるイスカンダル・マレーシアとBBK。2021年2月の東南アジア製造業同盟(SMA)発足時のスピーチで、当時のチャン・チュンシン(Chan Chun Sing)シンガポール貿易産業大臣は、両地域を含む東南アジア全体の製造業に関してこうコメントしている。
「この地域には大きな消費者層と若い労働力という強力なファンダメンタルズがあります。地域の総合力を活用して、一緒にチャンスをつかむことができます。」
世界的なビジネス、イノベーション、人材のハブであるシンガポールに拠点を持ちながら、イスカンダルやBBKなど近隣地域との間で生産体制を構築すれば、企業はより有利にビジネスを展開していけるのではないだろうか。