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〜A Tale of Two Cities〜 横浜×シンガポール二都物語

〜A Tale of Two Cities〜 横浜×シンガポール二都物語

企業誘致の政策で外国企業をひきつけ、経済を発展させてきたシンガポールと同じような特徴を、じつは横浜も持っている。そして、互いに多数の企業が進出し合い経済を好循環させているが、進出企業はそれぞれどのような活動を展開してきたのか。動向を追いながら、両都市のビジネス環境としての強みを明らかにする。

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横浜とシンガポールに名だたる企業が集積する理由

横浜港を拠点に発展してきた国際都市・横浜。そして、シンガポール港を中心に栄えてきた都市国家・シンガポール。横浜ベイエリアに企業や商業施設が集まるみなとみらい21や、シンガポールベイエリアに位置する統合型リゾートのマリーナベイ・サンズを代表として、両者は港湾都市として世界的に知られるが、もう一つ大きな共通点がある。それは、横浜もシンガポールも、大企業の本社やR&D拠点の集積が進んでいる点だ。

横浜は、市内に事業所やR&D拠点などを設置する企業を、軽減税率や助成金で支援する「企業立地促進条例」を導入している。さらに2017年からは、IoT関連の新ビジネス創出を促進する横浜市のプログラム「I・TOP横浜」などを実施。その効果もあって、例えば再開発で活気づくみなとみらい21では、ここ数年だけでも資生堂の研究開発拠点・グローバルイノベーションセンターや、京浜急行電鉄の京急グループ本社ビル、村田製作所の研究開発拠点・みなとみらいイノベーションセンターなどが続々とオープンしている。

対するシンガポールも、経済改革とビジネスの成長を促進する目的で2020〜22年の3年間で83億SGD(約6500億円)を拠出。シンガポール経済開発庁(EDB)を窓口に、そうしたビジネスのしやすい環境を整える政策で、外資企業や多国籍企業をひきつけてきた。その結果、進出企業の集積が進み、ダイソンや村田製作所、サントリー、セイコー、参天製薬など名だたる大手企業はもちろん、急成長するGrab、Lazada、RazerなどのIT企業も、地域統括機能の拠点としてシンガポールを選んでいる。
 

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“ビジネスがしやすい地・シンガポール”で活動する横浜ゆかりの企業

そのように目覚ましい発展を遂げている両都市では、企業が互いの都市を行き来し、経済をいっそう好循環させている。

例えば、研究開発拠点を横浜に置く医薬品大手の中外製薬は、創薬開発の短縮化や革新的な研究開発の創出を目的に、2012年、シンガポールに新たな研究拠点として研究子会社の中外ファーマボディ・リサーチを設立した。当初からEDBなどの政府機関が医薬品産業の発展に向け強力に支援。高度な研究機関や研究施設など世界レベルのインフラ、そしてシンガポールに集まる優秀な多国籍科学者集団を有効に活用したことも功を奏し、特定の自己免疫疾患を対象とした開発薬「SKY59(crovalimab)」は既に新薬承認申請目前で、認可されればシンガポールで初めての国際承認医薬品となる。

三菱ケミカルグループは、2018年にパフォーマンスポリマー事業の地域オペレーションを統括する拠点を初めてシンガポールに設置し、2020年にはMMA(メタクリル酸メチル)事業の強化を目的に同事業部のグローバル統括機能をシンガポールに移管した。

研究開発については、A*STAR(シンガポール科学技術研究庁)の Institute of Sustainability for Chemicals, Energy and Environment(ISCE2)との間で複数のプロジェクトを進めており、シンガポールと既存の研究開発提携を特殊化学品分野に拡大することを検討している。その一環として、ジュロン島にあるISCE2に研究者を派遣し、シンガポールでの研究活動を補完、さらに充実させる予定である。また、同社は横浜の研究開発拠点において、オープンラボを備えた新しいサイエンス&イノベーションセンターを立ち上げ、国際的な研究協力のさらなる推進に取り組んでいる。

一方、同じ三菱のグループ企業で重工業大手の三菱重工業は、横浜に本社を置き環境関連事業を手がける三菱重工環境・化学エンジニアリングとともに、シンガポール環境庁の廃棄物焼却発電事業を手がけるTuasOne社を2022年7月、完全子会社化した。TuasOne廃棄物焼却発電施設の運営や保守業務も開始しており、今後、再生可能エネルギーの一つとして需要が高まる廃棄物焼却発電における、東南アジアや中東での受注拡大を目指す。

なお三菱重工業グループはこれまでに、TuasOne廃棄物焼却発電施設をはじめ、シンガポールで4件の廃棄物焼却発電施設の建設を手がけている。東南アジア全体では業界最多の納入実績を誇り、エネルギーの有効活用による環境負荷低減にも貢献している。

さらに、横浜に本社を置きスーパーマーケットを運営する成城石井は2022年11月、シンガポールの商業施設・伊勢丹スコッツ店に期間限定のポップアップストアをオープンさせた。海外での出店は同社初の試み。今後予定されるグローバル展開の足がかりとして、シンガポールをテストマーケティングと、成城石井ブランドの認知拡大の場と位置付け選んだという。昨今では、紀伊国屋書店やダイソーなど多くの日本企業が、成長著しいシンガポールや東南アジア諸国へ進出しており、一つのトレンドになりつつある。
 


“企業支援に注力する横浜”でビジネスを拡大するシンガポール企業

シンガポールの企業の横浜への進出の好例としては、脱炭素化AIoTプラットフォームシステムを開発する、Envision Digitalがある。同社の進出については、神奈川県が企業誘致施策「セレクト神奈川NEXT」で補助金を出すなどして支援。ジェトロ横浜のサポートも受けながら2021年、横浜市内に日本法人・Envision Digital Japanを設立した。同社の設立は、日本の再生可能エネルギー発電所に、デジタル技術を活用した高度なエネルギーマネジメントが浸透する助けとなるに違いない。また、ネット・ゼロ・オペレーション・システムの日本導入も予定されており、日本企業のネット・ゼロを支援していく。

また、世界40カ国260都市に進出しているシンガポールの不動産大手・キャピタランド・インベストメントは、日本法人キャピタランド・ジャパンの2000年の設立以来、オフィス、ホテル、サービスレジデンス、物流施設、賃貸アパートなどの分野で日本での投資実績を積み重ねてきた。

横浜では2017年、みなとみらい21にあるオフィスビル「横浜ブルーアベニュー」の取得を皮切りに、2020年、馬車道駅直結のサービスレジデンス「オークウッドスイーツ横浜」、2023年6月に、日本大通りに滞在型ホテル「シタディーンハーバーフロント横浜」の開業を予定している。

そして、シンガポールのスポーツテック企業・Rapsodoは2021年、横浜市内に日本法人のRapsodo Japanを設立。横浜進出にあたっては、Envision Digital Japanと同じく「セレクト神奈川NEXT」を活用したという。同社は野球選手の投球の回転数、回転軸や打球速度・角度などを計測する弾道測定分析機器の販売やサポートを行っている。日本のプロ野球チームへはもちろん、高校・大学野球などアマチュア球界への導入も進んでおり、日本でのビジネスを順調に拡大しているのである。

さらにそんな両地域では、神奈川県とシンガポール国立大学およびシンガポール国立大学保健機構が締結している、ヘルスケア・ライフサイエンス分野での連携覚書(MOU)が2021年に更新されるなど、連携を強化する動きもある。

横浜とシンガポールはこれまでの企業誘致政策や実績を踏まえると、極めて親和性が高く、「似た者同士」の都市ではないだろうか。日本貿易振興機構(ジェトロ)横浜貿易情報センター所長の内尾雄介氏はこう語る。

「シンガポールは世界有数のエコシステムを持ち、世界規模での活躍を目指すスタートアップ支援の一大拠点となっているが、横浜もアジアにおける同様の拠点となるために、横浜市やジェトロ横浜がハード・ソフト両面で各種施策を打ち出している。ハード面では横浜市が2019年10月に市内にスタートアップ成長支援拠点『YOXO BOX(よくぞボックス)』を開設している。また、ソフト面ではジェトロ横浜が横浜市との連携のもと、エコシステム形成促進支援に乗り出し、2022年12月からYOXO BOXを舞台に海外展開を目指す地元スタートアップの支援を担うメンターの育成プログラムを開始した。このプログラムは似た者同士のシンガポールでの先行事例を紹介しつつ、横浜流のメンタリング手法を学んでもらおうとする仕掛けだ。従来型の企業誘致政策だけでなく、イノベーション分野でも両都市が『似た者同士』となって、お互いに刺激を受けながら経済発展していく将来像に期待したい」
 

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横浜の都市景観

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