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エンゼル・マニュファクチャリング・シンガポール

エンゼル・マニュファクチャリング・シンガポール

ジュロン・イノベーション・ディストリクトの次世代スマートファクトリー


世界のIT市場は、2020年の7.8兆ドルから、2025年には11.8兆ドルに達すると予想されている。* テクノロジー産業は、世界的に最も急速に成長する産業として、最も価値ある産業の一つといわれている。

Fortune誌の「2020年急成長企業100社」のうち20社がテック企業であった。今日の複雑でダイナミックな世界では、ハイテクが新たな競争優位性の源泉となることが多く、あらゆる業界でデジタル化が拡大している。カジノゲーミング産業も同様に、デジタルトランスフォーメーションへの旅に出ている。特にディーラーのミスを防ぎ、またプレイヤーによる不正行為を検出するといった用途でデジタル化が進み、カジノゲーミング産業の品質向上に貢献している。そんなカジノゲーミング産業における代表的な企業がエンゼルグループだ。同社はトランプ、チップ及びその読み取り装置での世界のリーディングカンパニーであり、その生産システムで次世代技術を取り入れたスマートファクトリーを実現している。今回はシンガポールに設立されたエンゼル・マニュファクチャリング・シンガポール社の最高執行責任者(COO)兼取締役の平野氏にお話しを伺った。

高精度、高品質なものづくりの追及

エンゼルでは、トランプへの「高精度、高品質なものづくり」に妥協を許さない強いこだわりをもって製造を行っている。トランプ専用原紙やインクやコーティング材などの素材開発、印刷やカッティング技術などのものづくり技術開発に加え、品質検査技術・数量カウント技術等のデジタル技術を融合させて、高精度高品質な製品造りに加えて、No one touch productsを実現している。


カジノゲーミング産業においては、ゲームの健全性を保つため、一般用のトランプと比べて桁違いに厳格な基準で製造されたトランプが求められる。エンゼルグループのトランプは独自の情報がトランプに印刷され、自社開発したセキュリティ読み取り機能付き電子ディーリングシューに対応している。高精度高品質なトランプに加えて、近年ではAIやRFIDを用いたデジタルテクノロジーによってカードやチップのアナログ情報をデジタル化する技術開発に注力しており、カジノゲーミング産業の業務運営の高度化やセキュリティ向上にも貢献している。

シンガポールは東南アジア・オセアニアの中心にある拠点

エンゼルグループは、2015年にシンガポールに進出して現地法人を設立し、当初は営業拠点として5名のスタッフでスタートした。シンガポールは東南アジア、オセアニアの真ん中に位置している有利な立地が魅力の一つであり、「もともと日本が営業の拠点でしたが、東南アジア、オセアニア市場へのサービス提供と情報収集のスピード向上のため、シンガポールに拠点を設けました。」(平野氏)

海外初のマニュファクチャリングセンターとR&Dハブ

2015年のシンガポールへの営業拠点開設後、エンゼルグループのシンガポール現地法人であるエンゼル・マニュファクチャリング・シンガポール社は2018年9月には日本国外では初めての製造工場及びR&Dセンターをジュロン・イノベーション・ディストリクト(以下、JID)に建設しオープンした。約18,000平方メートルの土地に、床面積33,000平方メートル4階建の新社屋が建ち、製造工場、R&Dセンター、販売拠点など、地域のハブ拠点として総合的機能を営んでいる。


工場内はデジタル化と自動化によってスマート化が進められており、リアルタイムのデータ収集と分析を行う技術、RFIDを使用したトレーサビリティなどのデジタルテクノロジーが取り入れられている。また施設内では、無人搬送機などが稼働しており、No one touchの効率的ワークフローが実現されている。


こうした次世代製造技術による海外製造拠点をシンガポールに設けた狙いの一つは、世界への製品の安定供給網の確立にあった。エンゼルグループは世界のトランプ市場のトップシェアを持っており、自然災害などの不測の事態が起ころうとも、世界各国のカジノに対して製品を途切れることなく安定的に供給することが顧客から求められる。「政治的経済的に安定しており、災害も少なくインフラが充実しているシンガポールに製造拠点を設けたことで、日本からだけではなく、複数国から安定して供給できる体制を構築することが可能となりました。」(平野氏)

シンガポールの人材と知的財産の推進、研究開発に適した環境

シンガポールに立地を定めることとなった、さらに重要な側面として、シンガポールの高い先進性があげられる。「カジノゲーミング産業向けの製品を供給するためには、高いセキュリティレベルの製造施設を維持することが非常に重要です。シンガポールはセキュリティが高く、社会インフラも整備されており、理想的な環境です」。(平野氏)また、シンガポールは、世界経済フォーラムの調査で、知的財産(IP)の保護において世界第2位にランクされている。進歩的な知的財産制度を推進することで、シンガポール政府は、適切なレベルの規制がビジネスの利益を保護しつつ、自由なアイデアの交換を可能にしている。カジノゲーミング産業のパイオニア企業であり、500件以上の特許を保有しているエンゼルグループにとって好ましい環境と言える。現在、エンゼル・マニュファクチャリング・シンガポール社は、シンガポールのグローバルな感性を持った優秀なシンガポールの人材を活用しさまざまな活動を行っている。「現在当社では約80名のスタッフが製造及び開発を行っています。そのうち約60名がシンガポール人です。シンガポールの教育レベルは高く、先端技術の知識やスキルを持つ人材が多く、ポテンシャルを持っている人が多いことが魅力です。」(平野氏)こうした人材の採用に加え、研究開発に適した環境もシンガポールを選んだ理由の一つとなっている。「シンガポールは先端技術を持っている大学や企業が近くに存在し、いつでも共同開発に取り組める環境です。またJIDにはさまざまなネットワークがあり、スピード感をもって共同開発に取り組めることに期待しています。」(平野氏) エンゼルグループは、シンガポールに製造・研究開発拠点を置くことで、東南アジアを中心とした各国の需要に迅速に対応し、高い教育レベルの人材と、共同研究のネットワークが豊富なビジネス環境によって、先端技術を駆使した製品を開発している。

 

次世代製造開発拠点ジュロン・イノベーション・ディストリクト

ジュロンイノベーションディストリクト(以下、JID)は、シンガポールの製造業が集積するエリアの中心に位置する次世代製造開発拠点だ。600ヘクタールの広大な敷地では、各研究機関やテクノロジー企業などが集まっており、次世代製造技術におけるアイデアやイノベーション開発や、人材に対するスキルアップが行われるワンストップハブである。さらに開発された新しい製造技術やソリューションを実際に試すことができるシンガポール最大のリビングラボでもある。ここでは、3Dプリントや5G、自律走行車などのアイデアや技術が開発され、試作とテストベッドが行われており、これらのイノベーションをスピーディに市場に投入することができる。JIDには、企業のi4.0プロジェクトをサポートする最先端の研究機関やテクノロジープロバイダーが集まっており、メーカーにとってもユニークな環境が整っている。一般的な工業団地とは異なり、JIDは車の使用を軽減したサステイナブルな設計となっており、敷地内は緑に囲まれた公園のような作りだ。クリーンでグリーンな先進的な製造環境は、従来の製造現場のイメージとは異なり、そこで働く人々に快適な職場環境を提供している。また、JIDはシンガポール初の地下専用物流ネットワークを構築し、商品移動の効率化を図るとともに、地上のスペースがビジネスや地域の人々などのコミュニティのために開放されている。

 

*ビジネスリサーチ社「情報技術の市場レポート2021年版」コビット19の影響と2030年までの回復

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