シンガポールに拠点を置きアジア太平洋での管轄事業は連結売上高の4割超
シンガポール建国から8年後の1973年に設立。世界で名を知られる工作機械メーカー牧野フライス製作所のアジア太平洋地域の拠点であるマキノアジアが今年5月、ついに50周年を迎えた。ネオ・エンチョンCEOは言う。
「この50年間、私たちはシンガポールでの事業を拡大し、ここから中国、インド、東南アジアといった大きな市場への進出を果たしてきました」
アジア各地に事業所や工場を持つマキノアジアは、管轄するアジア太平洋地域の事業がグループ全体の連結売上高の4割を超え、いまなお成長中。その成長の秘訣ともいえるのが、“不断の技術革新”である。
「時代とともに進化し続けるためにも、製造業に関わる者として、テクノロジーの進化とともに常に技術を革新していかなくてはならない」というネオCEOの言葉通り、マキノアジアは老舗企業でありながら、現状維持を是としない。工作機械のトップリーダーとして常に市場の要請にこたえながら、製造業の発展を支えてきたのだ。
そんなマキノアジアは、設立50周年の記念式典でも“流儀”として新型のマシンを披露した。その「S50立形マシニングセンター」とは、半導体や新エネルギー車、航空宇宙、医療など高成長産業の次世代ユーザー向けに製造プロセスを合理化した金属精密加工機だ。工程にかかる時間を短縮。AI やデジタル技術を使ったリモート操作も可能と、期待を裏切らない。
「グローバル企業である私たちの製品は、世界40カ国以上の顧客に届けられます。そのため、異なる地域、国の産業がどのように展開しているのかを理解することが非常に重要で、その点においてもシンガポールは魅力的です。というのも、その“理解”を可能にする、グローバルな人材を採用するのに、国際都市であるシンガポールは適しているからです」(ネオCEO)
シンガポールは、アジアを中心に世界の市場への玄関口の役割を果たすグローバル都市であるため、じつに多様な人材が活躍している。
マキノアジアでも同様で、従業員の国籍の数は約18。そして、そのダイバーシティのある環境で、各国拠点間での人材交流や、部門を超えた協働プロジェクトへの参加の機会を設けている。それによりそれぞれの市場や部署、またグループ全体で何が起きているかを社員自身が理解し、対処法を考えるよう促しているのだが、この仕組みもまた、同社の企業としての成長を支えている。
なお、「海外現地法人のマネジメントは現地の人間に任せるのがマキノの哲学」。京都で機械工学の修士号を取得し、日本に深い理解を持っているネオCEOは、シンガポール出身の4人目のCEOとなる。
海外唯一の研究開発センターと初のスマートファクトリー
もう一つ、マキノアジアの事業になくてはならないのが、南西部のジュロン地区にある
「国際研究開発(IRD)センター」だ。そこでは新エネルギー車など成長著しい産業向けの工作機械の設計などを行い、日本以外ではグループで唯一の研究開発施設となっている。
しかし、あえてシンガポールにR&Dの拠点を置いたのはなぜなのか。ネオCEOは「ベンツやBMWなどのハイエンド製品よりもう少し大衆向きの、中国やインドなどの大市場を対象とする製品開発は、市場に近く、市場をよく知れる場所で行うほうが理に適う」と説明する。
さらに、2019年にシンガポール西部ジュークーン地区に設立した海外初のスマートファクトリーも注目される。1億SGD(約80億円)が投じられたこの工場は、持続可能な生産を確保するため、環境に配慮した設計となっているのが特徴だ。
例えば、工場の屋根には5,300枚の太陽光パネルを装備。太陽光発電で工場全体の消費電力の25%を賄うとともに、二酸化炭素の排出量を年間1,000トン削減している。
グループで初めて導入されたこの太陽光パネルは、今年4月にマキノアジアが100%出資して中国・武漢に開業した新工場のほか、中国の他拠点や日本の一部の工場でも採用。シンガポールの生産拠点は常に新しいアイデアやソリューションを検証するパイロットプラント的存在にもなっている。
このスマートファクトリーの強みは環境面だけではない。「8,000平方メートルのフロアで働く人員は3、4人程度」(ネオCEO)という未来型の工場でもあるのだ。工場には遠隔で機械稼働を管理するIoT技術を導入。これによりアジア全域の顧客企業で稼働する機械のデータをすべて追跡し、機械の効率的な運用や不具合の早期発見を可能にした。さらに、自動化のため工場内に無人のフォークリフトを設置し、あらゆる作業を監視、制御している。こうしたデジタル化と自動化により生産能力を倍増させることに成功した。