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外国企業の拠点に選ばれるシンガポール

外国企業の拠点に選ばれるシンガポール

シンガポールにはグローバルビジネスを可能にする環境が整っている——アメリカのフードテックのスタートアップ企業Eat JUST Asiaのサウラブ・バジャージ(Saurabh Bajaj)CEOがそう語る通り、多くの外国企業がアジア拠点にシンガポールを選んでいる。しかしそれはなぜなのか。進出から2年あまりで生産施設の建設計画を起動に乗せ、代替鶏の販売を世界で初めて開始したEat JUSTを例に、外国企業を取り巻くシンガポールのビジネス環境を考察する。


Eat JUSTがシンガポールを拠点に選んだ理由

Eat JUSTは、緑豆から抽出したタンパク質や培養肉を主原料とする代替卵商品JUST Eggを主力商品とするアメリカのフードテックのスタートアップだ。さまざまな商品を展開し、植物性卵市場をリードする同社は、2019年にシンガポールに進出。その理由をサウラブ・バジャージCEOはこう説明する。

「アジアは人口が増えており、2030年までに世界のミレニアル世代人口の65%がアジアに居住するとも予測されています。そのうえ、1人当たりの卵の消費が最も多い日本をはじめ、アジアでは非常に多くの卵が消費されていて、アジアには我々のフードテックを活用できる機会があると思いました。」

さらに、生産の面でもメリットを感じたようで、「JUST Eggの主原料である緑豆は、世界の他の地域よりもアジアで盛んに栽培されていて、調達しやすい。そのため、今後需要拡大が見込まれるアジアで主原料を調達し、生産、販売するのが効率的と考え、アジアに拠点を置くことを決めました」とサウラブ・バジャージCEO。

同社がアジアのなかでも特にシンガポールを拠点に選んだのは、次のような理由からだった。「外部のコンサルタントに依頼し、シンガポールを含むアジア数か国の分析調査を行いました。拠点をどこに配置すればコストを抑えられるか。知的財産が侵害されるリスクはないか。代替タンパク質に関する法制度はきちんと整備されているかなど、総合的に比較。政府のサポートが厚く、プロフェッショナルな人材が多いこともプラス評価となり、シンガポールを選びました。」

「事業は全体的に非常にスムーズに進んでいる」

Eat JUSTはシンガポール進出を決めると、2019年からシンガポール経済開発庁(EDB)やシンガポール食品庁(SFA)との連携を開始。2020年10月にはEDBの支援により、同社アジア初となる代替タンパク質生産施設の建設を発表。そして同年12月には、鶏の細胞から培養した人工鶏肉の販売を開始するなど、スピーディーにシンガポールでの事業を展開している。

「動物の細胞から人工培養で作る培養肉の販売が承認されたのは、世界で初めてのことでした。製品化が認められたのは培養鶏肉を使ったナゲットで、非常に好評です」とサウラブ・バジャージCEOは話し、さらにこう続ける。

私はシンガポール人ではありませんが、手厚いサポートを受け、シンガポールで無事に事業を展開できています。特にEDBには助けてもらっていて、EDBが中心となり各省庁と連携して必要な調整をしてくれているので、これまで主にEDBとSFAとのやりとりだけで事業を進めてこられました。生産施設の建設計画では、A*STAR(シンガポール科学技術研究庁)のサポートも受けていて、全体的に非常にスムーズだったと思っています。」

シンガポールにおける代替タンパク質ビジネス環境

そうしてアジアでの事業を円滑に進めているEat JUST Asiaの サウラブ・バジャージCEO氏は「シンガポールにはEat JUSTのグローバルビジネスを可能にする環境が整っている」と言い切る。

第1に、シンガポールでは代替タンパク質の法整備が進んでおり、同社の培養鶏肉の販売を初めて承認したのもシンガポールだった。

第2に、同社の培養鶏肉がシンガポールの食品生産業者の施設で生産されているように、エコシステムが実現している。

第3に、さまざまな商業銀行が集まり、資金調達がしやすい。さらに、ビジネススクールの経営大学院インシアード(INSEAD)が発表しているグローバル人材競争力指数(2020年度版)で、シンガポールはアジア太平洋地域で第1位、世界で第3位となっているように、有能な人材の確保がスムーズである。

第4に、効率的で安定しているビジネスインフラを備え、企業の設立と運営を助長する規制環境が整っている。世界銀行の報告書「ビジネス環境の現状(Doing Business)」の、企業の設立・経営を容易にするビジネス環境改善のランキングで2020年度に第2位を獲得し、ビジネスを行いやすい国として評価を得ている。

サウラブ・バジャージCEOは、外国企業を取り巻くシンガポールの環境に関してそのようにまとめ、シンガポールでの代替タンパク質ビジネスについてこう感想を述べる。

EDBは我々のシンガポールでの事業をとてもよくサポートしてくれました。SFAもそうなのですがオープンに、前向きにコミュニケーションしてくれました。フィードバックもくれるし、やり取りがスムーズでした。商品の生産や販売、資金調達や現地での人材確保も順調にいっており、今後もシンガポールとの関係を続けていこうと思っています。」

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