より多くの企業がオープンイノベーションの活用とスタートアップとの連携を模索
その中でも注目されているのがスタートアップとの連携だ。アクセンチュア・ストラテジーの調査によると、多くの企業がイノベーション・キャパシティ向上のためにデジタル能力を取り込むスタートアップとの連携を重要視している。調査では回答企業の72%が「今後3年間で5社以上のデジタル企業へ出資」と答え、ほぼすべての企業(96%)が「デジタル企業への投資は自社のビジネス戦略の中核を成す」と回答している。「日本企業がイノベーションを創出する方法の一つとして、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を組織し、スタートアップに出資をおこないつつ協業するというやり方が増えています。アクセンチュアでは、CVC活動の上流にあたる新規事業戦略/投資戦略立案からビジネスの創出やデジタル化まで、一貫して支援するサービスを提供しています。」と横瀧氏は語っている。
シンガポールにイノベーションハブを設ける理由
こうしたDigital Factoryや、スタートアップとの連携といった、イノベーション創出の中核となる存在がアクセンチュアInnovation Hub Singaporeだ。アクセンチュアはイノベーションハブを東京にも設けているが、横瀧氏はシンガポールにハブを設けることの理由を次のように語っている。「シンガポールに拠点を設ける理由は大きく2つあります。第一に、シンガポール政府が政府機関・企業・大学・スタートアップ・投資家などの間でのデジタル空間での連携を推進するスマートネーション政策です。第二がシンガポールのコスモポリタン人口と、急成長する東南アジアマーケットへのアクセスです。例えば、消費者調査を一つとっても、わずか2-3週間で欧米人・インド系・中華系・カトリック・ムスリム・富裕層・ミドルクラス・出稼ぎ労働者・ベジタリアンといった幅広い消費者層へのリーチが可能です。上記のような観点から、シンガポールにデジタル化の拠点を置くことで日本や他国とは異なるダイナミックなイノベーション創出が可能となり、これがアクセンチュアだけでなく、クライアントにとっても大きな価値につながっています。」
高まるデジタルを使ったイノベーション創出のニーズ
アクセンチュアは既にInnovation Hub Singaporeにてさまざまなプロジェクトに取り組んでいるが、デジタルテクノロジーを使ったイノベーションニーズが日増しに増えていると奥谷氏は言う。「デジタル領域のクライアントニーズが日々高まっていると感じています。例えば、シンガポール金融管理局(MAS)、シンガポール銀行協会(ABS)などとProject Ubinと称する、銀行間の送金プロセスをブロックチェーンを活用して効率化改善するコンソーシアムを各種金融機関と実現しました。また、シンガポール海事港湾庁(MPA)・シンガポール税関と共に、貿易に関する情報やプロセスをデジタル化したNTP(National Trade Platform)プラットフォームの設計・構築をサポートしました。更に日系企業で言うと、化学メーカーとは次世代IoTファクトリーのモデルをシンガポールにて構築し、現在グローバルへ拡大中です。他にも、ロジスティクス企業とスタートアップと連携したオープンイノベーションの取り組みや、消費財メーカーとは、10以上のエスニックグループからなる消費者調査を通して、デジタルを活用したアジア市場向け新規事業を発掘するなど行っています。」
グローバル・イノベーションのゲートウェイであるシンガポールを通じてASEANへ展開
こうした高まるデジタルニーズと共に、シンガポールを基点としたイノベーション創出の魅力を奥谷氏は次のように語ってくれた。「シンガポール政府が推進するスマートネーションによって、さまざまな分野でイノベーションが起こります。例えば、消費財から医療サービス・保険まで含めたヘルスケアの分野では新しい技術を持った異業種との協業やクリニック・患者データベースの活用などを通して今後数年で大きなイノベーションが期待され、日本企業が持つ強みとのシナジーが大いにあると考えられます。更に、周辺のASEAN諸国では、中間層が大きく成長することで、健康や食に関する高い感度を持つセグメントも拡大してきています。日本企業においては、既存事業のしがらみや働き方から意図的に切り離し、現地でしか得られないインサイトやネットワーク、エコシステムを活用することで、シンガポール・ASEANを活用した新しい形のイノベーションを模索する機会があるのではないでしょうか。」