シンガポールを選んだ理由
しかし、新たなビジネスの立ち上げは困難の連続だ。当時は日本だけで展開を行い、ニッチな体験のみを提供していたが、アクセスも少なく全く売れない時期が続く。日本でのベンチャーキャピタル（以下VC）からの追加投資もうまくいかない中、シンガポールとの縁は意外なところから始まった。「たまたま弊社のサイトで相撲部屋見学を申し込んだお客さんが、シンガポールのVCの方でした。資金調達の話をすると興味を持っていただき、シンガポールのVCを紹介していただきました」。その縁がきっかけで高橋氏は、シンガポール政府が行う投資支援プログラムと、インド系のVC、ジャングルベンチャーズからの調達に成功し本社をシンガポールに移す。 「シンガポールはスタートアップを育てる視点もグローバルです。自国だけではなく、インドのVCを紹介してもらったり、他国とネットワークも広がることが大きいです」。
また、シンガポール政府のベンチャー支援プログラムについて次のように語ってくれた。
「シンガポール政府は積極的にベンチャー育成を支援していて、私たちのようなベンチャーだけでなく、政府もV Cもみんなにメリットのある仕組みができあがっています」。更に、高橋氏が、シンガポール進出を決めた大きな理由の一つが、シンガポールの持つ多様性だ。「シンガポールを訪れた際に驚いたのが、アジアや欧米など、さまざまな国の人々が当たり前のように一緒にビジネスに取り組む姿でした。日本で言われる“多様性”が、ここでは当たり前の存在であることに衝撃を受けました」。その人材に対する衝撃が、現在のシンガポール本社の機能にもつながっている。法整備、会社の立ち上げやすさ、行政プロセス、民間に対する投資などのあらゆる面において、シンガポールが国を挙げてスタートアップを支援していることは明らかだった。
最大の強みはビッグデータ×シンガポールスタッフの多様性
Voyaginは現在、日本に40名、シンガポールに10名のスタッフが働いており、シンガポール本社は専らマーケティングチームを中心に活動している。シンガポールにマーケティング機能を集中させている点について、高橋氏は以下のように語っている。
「Voyaginの最大の強みは年間100万人が利用するビッグデータです。それによってどの国の人々が、どのアクティビティを買っているか、なぜこのアクティビティが売れているのかという結果を分析することができます。そしてその分析をもとに、次の商品開発やマーケティングを行うためには、その国の感覚が欠かすことができません。また、SEOなどグローバルなマーケティングは英語が一般的なため、現地の文化や国情に精通し、尚且つ英語が使いこなせる人材というと、シンガポールが最適な場所です。現在シンガポールではシンガポール人をはじめ、フィリピン人、インドネシア人など、非常にバラエティに富んだ人材がいて、それぞれの国の感覚が大きく活かされています」
新たな価値の創出と更なる成長の場所
Voyaginは、2015年に楽天からの出資をうけ、更なる事業展開に乗り出している。従来の予約ビジネスから、地方自治体などのプロモーションやコンサルティング、商品開発といった、BtoBビジネスの創出など、ビジネスモデルの多様化に成功している。そして、高橋氏はスタートアップが更なるスケールアップを行ううえでも、シンガポールは最適な場所だという。「日本のさびれた観光スポットは、ちょっとだけ外国人仕様にしてあげるだけで、観光客を増やすことができます。私たちは、シンガポールの会社になることで、初めからグローバルな思想が入っています。そして圧倒的に違う思想で生きている人たちをミックスできるその感覚は、新たな価値の創出に大きな力となってくれます。まさに立ち上げから拡大までシンガポールはスタートアップにとって最適な場所です。」と高橋氏は今後の展望を語ってくれた。
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