「サーキュラーデザインビルド」は、建築を通じて循環型経済を実現するため、竹中工務店が提唱するコンセプト。建築物の設計と施工段階で、リユース、リサイクル、アップサイクル建材の選択・使用から解体プロジェクトまでを考慮した循環型の建築手法を導入する取り組みの総称だ。
同社は11月にCOT-Labシンガポールを通じ、同国中心部にある現代美術ナショナル・ギャラリー・シンガポールでサーキュラーデザインビルドをテーマにイベントを開催した。
イベントでは、同社の専門家だけでなく、大学教授やシンガポール政府機関の専門家、欧州の大学の著名な教授など計10人がパネルディスカッションに参加。「シンガポールと東南アジアにおける木材建築の将来」「シンガポールと東南アジアにおける建築物の保存と適応型再利用」「カーボンニュートラリティー(温室効果ガスの排出量が実質ゼロ)と持続可能な建設環境」の3つのテーマで意見を交わした。
木材建築の将来では、国立台湾大学の冨田匡俊非常勤教授が、木造構造物を台湾の教育に活用している事例を紹介。木造建築は、持続可能で環境に配慮しているという認識が高まりつつある一方、東南アジアでは依然として木材が燃えやすく、湿度の高い気候では耐久性に欠けるという誤解が根強く規制上のハードルも高いことが指摘された。
建築物の保存と適応型再利用のパネルディスカッションには、近代建築の記録と保存を目的とするNPOドコモモ(DoCoMoMo)の共同創設者でオランダのデルフト工科大学名誉教授のベッセル・デ・ヨンゲ氏もオンラインで参加。「近代都市開発と文化的なアイデンティティーの保存のバランスを取る適応型再利用という考え方が重要」との考えを示した。持続可能性から循環型への移行、建材の再利用、近代的な建築物の保存など、文化的遺産を維持するための東南アジアに適合した新たな方法の必要性についても触れた。
自社が何を目指すかを発信
カーボンニュートラリティーと持続可能な建設環境では、竹中工務店のサーキュラーデザインビルドのアプローチに基づく活動事例を紹介した。同社は2050年までに産業廃棄物をゼロにする目標を掲げており、22年末時点でのリサイクル率は96.3%。研究、評価、施工の組み合わせにより、カーボンニュートラルと建材の循環性の両立を目指している。
竹中工務店技術本部の清水孝昭技術戦略部長はNNAの取材に対し、「今回のイベントは竹中工務店がイノベーションのパートナーを得るために自社が何を目指しているかを発信する場で、COT-Labの取り組みの一環でもある」と説明。同社には建築の専門家はいるが、新しい価値を作るために他分野の企業や専門家とつながる必要があると付け加えた。
シンガポールにCOT-Labを設置した理由については、「日本では規制などのためなかなか進まないことでも、シンガポールでは政府がルールを決めれば早く進む。同国政府の関心が高い環境や社会課題などに関するテーマについては現地で取り組むのが良いと判断した」と説明した。
COT-Labシンガポールの高尾全代表はイベントの最後で、「世界の循環型経済(サーキュラーエコノミー)は現在、全体の7.2%に過ぎない。裏を返すと92%以上という非常に大きなビジネスチャンスが埋もれていることを意味する」と指摘。循環型経済は、試行錯誤を繰り返しながら着実、綿密な進展を必要とする分野であり、志を同じくするパートナーと協力して共に意義ある変化を推進することが極めて重要だと締めくくった。
出典:NNA 2024年12月20日付け記事
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