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宇宙の扉を開くシンガポール:アジアの宇宙産業拠点としての優位性

宇宙の扉を開くシンガポール:アジアの宇宙産業拠点としての優位性

シンガポールは、東南アジアの玄関口としての好立地、地政学的な安定性、イノベーションのエコシステムなど、ビジネスを推進する好条件が揃っていることから世界中の数多くの企業が進出している。また、先進技術・先進製造が発達しているシンガポールでは、宇宙産業も活況を呈している。11月30日に発表された世界デジタル競争力レポートの第7版では、シンガポールが信用格付けとインターネット帯域幅の速度スコアの両方で世界トッ プランクにランクされた。 これまで宇宙ビジネスは欧米が常にリードしてきたが、最近はアジアの宇宙ビジネスが活況を呈しており、シンガポールもアジアの宇宙ビジネス拠点としての存在感を強化しているのだ。

宇宙の扉を開くシンガポール:アジアの宇宙産業拠点としての優位性

数多くの宇宙関連企業が参画するシンガポールの宇宙産業と成長するシンガポールの宇宙産業エコシステム

シンガポールの宇宙産業は、2,000人以上の専門家や研究者を雇用し、バリュー・チェーン全体で60以上の国内外の企業を擁している。

そして、30以上もの衛星の製造または打ち上げの実績があり、現在も15以上の衛星プロジェクトが走っている。

シンガポールの宇宙産業では、宇宙技術・産業企画室(OSTIn:Office for Space Technology & Industry)が中心となり、学術機関、ベンチャー企業のコミュニティ、研究開発や事業拡大計画に有益な人材プールといった、国際競争力のある宇宙産業のエコシステムを形成している。この宇宙産業のエコシステムは、多様で熟練した人材、シンガポールのイノベーションのカルチャー、そして知的財産の保護体制やオープンで公正な規制によるビジネスフレンドリーな環境などによって急速に加速している。

多くの日本企業もシンガポールに進出しており、こうしたエコシステムを活用している。例えば、衛星との通信を支える技術革新のコラボレーションとして、シンガポールのベンチャー企業と連携した東芝もその一つだ。

シンガポールのベンチャー企業SpeQtralは、地上と宇宙の両方のソリューションを組み合わせて、グローバルな量子通信のネットワークを構築・展開することを目指している。SpeQtralは2022年11月に、東芝デジタルソリューションズと提携して、東南アジア初の量子ネットワークエクスペリエンスセンター 「QNEX」 を立ち上げることを発表した。量子物理法則を利用してハッキング不可能な暗号鍵を作成する量子鍵配送 (QKD) に基づいた機密データ保護のソリューションが提供され、量子コンピューターによる攻撃など、既存および将来のサイバー攻撃に対する通信インフラの回復力が強化される。
*詳しくはこちら(外部リンク:東芝デジタルソリューションズ株式会社プレスリリース)
 

宇宙技術開発のための専門研究機関

シンガポールの宇宙産業エコシステムの中に3つの専門的な研究機関が存在する。ナンヤン工科大学(NTU:Nanyang Technological University)、シンガポール国立大学(NUS:National University of Singapore)、そして科学技術研究庁であるA*STAR(Agency for Science, Technology and Research)の3つだ。NTUは九州工業大学と提携して3つの研究衛星を打ち上げているなど実績も上げている。ここでは、中でも日本企業に特に関係性の深いものを紹介する。
 

nanyang logo
  • NTU Satellite Research Centre (SaRC)
    LEO超小型衛星ミッション、地球観測と通信アプリケーションのための革新的宇宙技術
  • Earth Observatory of Singapore (EOS) Remote Sensing Lab
    リモートセンシングデータ(特に合成開口レーダー(SAR))の処理、分析、応用
     
nus logo
  • NUS Satellite Technology and Research Centre (STAR)
    分散型衛星システムの設計と開発(フォーメーションとコンステレーション)
  • NUS Centre for Remote Imaging, Sensing Aand Processing (CRISP)
    光学、SAR、ハイパースペクトルデータを含むリモートセンシングデータの処理、解析、応用
     

シンガポール政府による宇宙技術開発に対する強力な支援

シンガポールは、航空、海洋、持続可能性などの分野をサポートする宇宙能力の開発、および国の宇宙産業の競争力を向上させる宇宙技術開発を目指している。そのためOSTInは、シンガポールの研究開発機関と協業する企業に対して総計1億5,000万ドル助成金を支給する宇宙技術開発プログラム(STDP:Space Technology Development Program)を実施している。

STDPの対象となるプロジェクトには以下が含まれる

  • より地球に近い軌道で衛星を運用し、差別化された能力を提供することを可能にする超低軌道(VLEO)衛星技術
  • 量子的に安全な情報の送信を可能にする量子鍵配布(QKD)衛星ソリューション
  • 炭素測定・報告・検証(MRV)、農業、汚染監視などの用途への衛星データの利用

さらにOSTInは、AI、ロボット工学、材料科学、生命科学などの分野におけるシンガポールの強みを宇宙ビジネスへと活用すべく、軌道上でのサービス、宇宙での製造、宇宙生命科学などの新たな機会を探っている。
 

世界宇宙技術大会(GSTC)、2024年2月に開催

シンガポールは、世界中の宇宙産業関係者が集う「世界宇宙技術大会(GSTC:Global Space and Technology Convention)」を毎年主催している。急速な進化を遂げる宇宙分野では、業界の最新動向や開発に関する情報を常に入手し、つながりを保つことが極めて重要となる。2024年2月に開催される大会では、アジアの市場動向から、地球上の持続可能な取り組みにおける宇宙技術の極めて重要な役割までが議論される。
 

世界宇宙技術大会 GSTC2024

2024年2月14日-16日

詳細および参加登録はこちら
https://www.space.org.sg/gstc/

本イベントは、業界のオピニオンリーダーとラウンドテーブルやワークショップで交流したり、業界エグゼクティブとネットワーキング・イベントで知り合うことができる、またとない機会です。OSTInも参加いたしますので、シンガポールの宇宙関連企業との協業にご興味がある企業様からのご参加をお待ちしております。

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