西暦2050年、その遠くない未来において、アジアではネットゼロを実現していた。主要なエネルギー源は再生エネルギーとなり、排出された炭素は回収されるようになっていた。また、温室効果ガスを排出する企業がその対価を支払い、炭素税を負担する慣行は続いている。
シンガポールは、脱炭素化を目指すアジアの取り組みにおいて、常に支援と協力を惜しむことなく、力強く自らの役割を果たしてきた…。
このシナリオが現実となるか否かは、定かではない。しかし、これが、シンガポールが追求し続けている目標だ。
2年前、シンガポールは「シンガポール・グリーンプラン2030」を立ち上げ、持続可能な発展に取り組む決意を示した。昨年には、2050年までに排出量ネットゼロ達成という公約を掲げた。
その後、企業のエネルギー効率向上を促す奨励策の導入や、電力輸入によるクリーンエネルギー供給源の多様化などの進展を見せている。長期的には、2035年までに低炭素電力の輸入を、その時点でのシンガポールの電力供給の30%に相当する4ギガワットに引き上げることを目標としている。
しかし、なすべきことはまだ多い。たとえば、シンガポールでは他にも、ネットゼロ実現に向けてクリーン・テクノロジーの利用を拡大するため、炭素回収などのイネーブリング・テクノロジー(実現技術)の開発や、アジアにおける水素供給網構築を目的とする地域的連携の模索が進められている。
同時に、東南アジアの各国政府および企業が持続可能な経済成長に取り組んでいることを受け、グリーン成長の分野に大きな経済的機会が生まれることが予測される。コンサルティングファームのベイン・アンド・カンパニーによる「Green Economy 2022 Report」によると、農産品、電気自動車、太陽光発電、自然由来ソリューションなどの分野の製造・サービス業界全般において、東南アジアで生まれるグリーン経済の機会は、2030年までに年間最大1兆ドルに上ると見込まれる。
これまでの歩み
2019年、シンガポールは東南アジアの他国に先駆けて炭素税の導入を発表した。政府は当初から企業に働きかけ、排出の削減と変革への対処を後押しするため、移行を促す枠組みを立ち上げた。
炭素税は現代の新たな歳入源ではなく、脱炭素化の取り組みを推進し、企業や消費者が受ける影響の緩和を目的としていることを、政府は明確に説明した。炭素税はシンガポールの排出量の80%を対象としており、価格シグナルを通じて脱炭素化をさらに促進している。
炭素利用と低炭素水素の分野で企業が新技術の導入を容易に拡大できるようにするため、この施設はプラグ・アンド・プレイ方式での運用を目指している。