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機会均等の世界をシンガポールから革新

機会均等の世界をシンガポールから革新

シンガポールの企業は、社会的に取り残されたコミュニティの進歩を妨げる格差を解消しようとしています。その手段となるのが、宇宙技術、デジタル設計、さらには美容や化粧品にまで至るイノベーションです。


Microsoft、テクノロジーを通じて障がいを持つ人々に新たな機会を提供(写真提供: Microsoft)

Microsoft、テクノロジーを通じて障がいを持つ人々に新たな機会を提供(写真提供: Microsoft)

シンガポールに拠点を置く企業は、世界の不平等を減らすイノベーションによって変化を推進しています。その取り組みは宇宙にまで広がっています。

Transcelestialの宇宙レーザーネットワークは、海底ケーブルを地球から軌道上に送り、そこから町、都市、さらには国全体に電力を届けます。

CEO 兼共同設立者のロヒット・ジャ(Rohit Jha)氏は指摘します。「コネクティビティは基本的人権です。それにも関わらず未だ、世界中で 30~50 億人もの人が低価格で高品質のインターネットにアクセスできていません。ネット接続は雇用機会や、基本的な医療、経済発展、教育の確保に必要です。何か手を打たなければなりません」 

世界で不自由な思いをしている別の 10 億人のために、Microsoftは製品に組み込んだ人工知能(AI)によってアクセシビリティを向上しています。Microsoftのチーフテクノロジーオフィサー(CTO) であるリチャード・コー(Richard Koh)氏はこう言っています。「何らかの障がいを持つ人々は地球上に 10 億人以上いますが、経済に有意義な貢献を可能にするためのツールにアクセスできているのは、そのうち 10 人に 1 人だけです。テクノロジーには世界をよりインクルーシブにする力があるので、能力や背景事情に関係なく、誰もがその恩恵にあずかれるのです」 

一方、美容業界大手の資生堂は自分の外見に深刻な悩みを抱く人々の生活改善を目指しています。同社のアジアパシフィック地域社長兼 CEO であるニコル・タン(Nicole Tan)氏は言っています。「資生堂は第二次世界大戦の終戦以来、深刻な皮膚疾患や症状を患う人々を支援してきました。私たちの美容イノベーションは、見た目が異なる人々の自信を回復させるだけのものではありません。社会的に取り残された人々の内面にまで入り込み、充実した人生を歩む力を与えるのです」

 

Microsoftの Immersive Reader(左)と Seeing AI(右)を使う様子(写真提供: Microsoft)

Microsoftの Immersive Reader(左)と Seeing AI(右)を使う様子(写真提供: Microsoft)


インクルーシブな社会と自立をもたらすテクノロジーを設計する  

Microsoftが対象にしているのは、世界最大のマイノリティ層、すなわち身体に障がいを持つ 10 億人以上の人々です。

Seeing AI や Immersive Reader といった同社の人工知能や先進のテクノロジーを通して、視覚障害者もこの世界に対応し、体験することができます。Seeing AI を使うと、文字をスマートフォンでスキャンして読み上げさせることができます。また、Immersive Reader は容易でシームレスなウェブサイト閲覧を可能にします。

Microsoftが毎年開催しているイマジンカップでは、世界中のチームがインクルーシブで利用しやすいように設計された製品を生み出しており、2022 年のライフスタイル部門では Sign2Sign という、手話を実践的に学べるシンガポール発のアプリが優勝しました。

Microsoftは、テクノロジーの利用しやすさを高めることで、機会を均等にすることを目指しているとコー氏は述べています。「テクノロジーには世界をより良くする強い力があります。私たちは、テクノロジーによってもたらされる機会を誰もが利用できるような未来を育てることに取り組んでいます」 

コー氏はさらに続けます。「当社が望んでいるのは、利用しやすい次世代型テクノロジーを開発することだけでなく、障がいを持つ人々がそうしたテクノロジーに関心を持って開発をサポートしてくれることです。製品を改善できるようにフィードバックが欲しいのです」 

Microsoftがシンガポールで事業を立ち上げたのは 30 年以上前のことです。コー氏は、この数十年を振り返ってこう指摘します。「シンガポールはテクノロジーや政策への対応が早く、テクノロジーを受け入れる環境が整っています。おかげでMicrosoftは、インクルーシブな文化を育み、多数の官民パートナーシップを通じて政府や組織体とパートナー関係を築くことができました」 

最終的なゴールは、地球上のすべての人と組織体がより大きな成果を達成できる世界を作り出すことです。「クリエイター、開発者、エンジニア、実業家の皆さんに当社のツールやプラットフォームを使っていただければ、さまざまな魔法を生み出し、あらゆる人にとってよりすばらしい世界を創造できるでしょう」

 

「資生堂ライフクオリティーメイクアップ」事業の一環として、テクノロジーを活用して新たな美容ソリューションを開発する資生堂の研究者(写真提供:資生堂)

「資生堂ライフクオリティーメイクアップ」事業の一環として、テクノロジーを活用して新たな美容ソリューションを開発する資生堂の研究者(写真提供:資生堂)


インクルーシブな世界の基盤を作る美容  

美容およびパーソナルケア業界の製品販売額は 2025 年までに 7,160 億米ドルにまで拡大すると予測されていますが、日本のスキンケアと化粧品業界最大手の資生堂は肌のさらに奥深くを見据えています。 

資生堂が 2022 年に創業 150 年を迎える中、同社のタン氏は、次のように指摘します。「希望を提供することも私たちのビジネスです。私たちは、すべての業務を通じて満足感と幸福感をもたらしていきます」 

同社のシンガポールの拠点では、「資生堂ライフクオリティーメイクアップ」事業を立ち上げ、「パーフェクトカバー」製品群を通じて、皮膚深部のさまざまな症状および病気や治療の副作用に伴う外見ケアに対応してきました。それらの製品は資生堂独自の光学補正技術を採用し、青、赤、茶色の変色、しみ、がん治療が原因のくすみやくま、白斑、ニキビや傷による肌の凹凸に対処します。

「肌を気にして臆することなく、あらゆる人が最高の自分を見せ、すばらしい気分になり、自信にあふれた人生を送れるようにすることが私たちの願いです。これは、美容の力を通じて人々の生涯にわたる幸福に貢献し、インクルーシブな世界を促進していることを示す絶好の事例です」 

シンガポールは、複数の宗教と人種で構成されているため、ブランドは東南アジアの消費者全体を反映した洞察を得ることができます。「シンガポールの多様な人口動態は、当社の美容イノベーションの実験環境として完璧です。この地域に進出し、より多くの人々に当社との一体感を持ってもらうためにシンガポールのアジアパシフィック地域本社から必要なあらゆるサポートを受けています」 

タン氏はさらに続けます。「シンガポールでは、研究機関および学術機関のパートナー、包括的なスタートアップエコシステム、その他のパートナーシップの機会を活用できます。これは新しいソリューションを見つけ、アジアパシフィック地域特有の消費者ニーズやビジネスニーズに対応することにつながります」

「肌を気にして臆することなく、あらゆる人が最高の自分を見せ、すばらしい気分になり、自信にあふれた人生を送れるようにすることが私たちの願いです。これは、美容の力を通じて人々の生涯にわたる幸福に貢献し、インクルーシブな世界を促進していることを示す絶好の事例です」 

シンガポールは、複数の宗教と人種で構成されているため、ブランドは東南アジアの消費者全体を反映した洞察を得ることができます。「シンガポールの多様な人口動態は、当社の美容イノベーションの実験環境として完璧です。この地域に進出し、より多くの人々に当社との一体感を持ってもらうためにシンガポールのアジアパシフィック地域本社から必要なあらゆるサポートを受けています」 

タン氏はさらに続けます。「シンガポールでは、研究機関および学術機関のパートナー、包括的なスタートアップエコシステム、その他のパートナーシップの機会を活用できます。これは新しいソリューションを見つけ、アジアパシフィック地域特有の消費者ニーズやビジネスニーズに対応することにつながります」

 

新たな 10 億人に平等な機会を提供する

高度に都市化された豊かな社会では当たり前の高速な常時ネット接続も、インフラや財源が不足している地域には未だに行き渡っていません。無線光ファイバープロバイダのTranscelestialは、コネクティビティはあらゆる人が教育、情報、機会を得るための基本的人権であるという信念のもとに、このギャップを埋めることを目指しています。

同社が将来提供する宇宙レーザーネットワークでは、海底ケーブルの役割を地球から宇宙に移し替えることを目指しています。こうすることによって、コネクティビティ確保のための大規模なインフラ構築にかかるコスト、時間、労力を縮小できます。現在同社では、ラストマイルのコネクティビティ格差を解消し、都市部と郊外のデジタルギャップを埋める取り組みをしています。 

ジャCEOは次のように指摘します。「日常的に知識や資源、富にアクセスできる人と、それができない人の間には大きな格差があります。平等な機会を提供することは非常に重要です」

 

CENTAURI、シンガポールでTranscelestialが開発中の、レーザー光経由で高速インターネットを提供する機器(写真提供: Transcelestial)

CENTAURI、シンガポールでTranscelestialが開発中の、レーザー光経由で高速インターネットを提供する機器(写真提供: Transcelestial)

インドの小さな町出身の彼は、そうしたアクセスが実現することでコミュニティにどんなメリットがあるかということを、実感として理解しています。彼は、デジタル化によって急速な成長を遂げたシンガポールを例に取り、こう強調しました。「高速接続が利用できれば、教育、医療、金融セキュリティ、物理的セキュリティなどが大きく進歩します」

Transcelestialが生み出した CENTAURI は、高速インターネットを実現する靴箱サイズの装置で、すべてシンガポールで製造されています。これは複雑な装置で、作動に使われているのはいずれも高度な、電子工学、光学、精密工学、光学力学、AI、先進アルゴリズム、その他さまざまな分野の技術です。 

開発を実現したのはシンガポールの高スキル人材です」とジャCEOは述べています。「時間はかかりましたが、シンガポールで適切な製造ラインを構築して、そこで必要とされる最適な人材をすべて獲得することができました」 

また、国際的な人材プールにアクセスできたことで、チームに多様性が生まれた、とも述べました。「世界中の人々に提供する製品を構築するには、ネット接続が人生を変えたという個人的な経験を持ち、他の人にも同じことをしてあげたいと感じている人材が必要です」 

特にTranscelestialのようなディープテックのスタートアップが拠点を選定するに当たっては、シンガポールにおけるベンチャーキャピタルおよび高スキル人材基盤の堅牢さは、地理的な利点に加えてのもうひとつの重要な検討要件でした。

「ここに拠点を作ったことで、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、インド、その他の新興経済圏にも進出することができました。これらの場所で、私たちは実際に変化をもたらすことができました」とジャCEOは述べています。「シンガポールで取り組みを行うということは、世界のために取り組みを行うことなのです」 

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