競争力増すシンガポールの化学・エネルギー産業
シンガポールが世界屈指の化学・エネルギー産業のハブであることはよく知られている。同産業は国内総生産の3%を占め、この10年間で国際競争力を強化。世界貿易機関(WTO)はシンガポールを化学製品の輸出国世界第8位(2019年)にランク付けした。
シンガポールではこの産業でおよそ2万7,000人の雇用が生み出され、技術職や管理職などキャリアアップが可能で高収入が見込める職種の一つになっている。さらに、多くの化学・エネルギー工場は、保守作業や物流、倉庫サービスを商社や請負業者などに外注しており、大きな経済波及効果も生んでいる。
2030年までにジュロン島で200万トンのCO2を回収
そんなシンガポールの化学・エネルギー産業の中心地が、シンガポール南西部に位置するジュロン島だ。アメリカの石油大手エクソンモービルやイギリスの石油大手シェルをはじめとするエネルギー・石油化学・特殊化学企業100社以上の工場が立ち並ぶ。また、液化天然ガスの輸入を管理するためのLNG受入基地や天然ガスプロバイダー、シンガポール国内の電力需要の約半分を供給する電力会社などのエネルギー関連会社も多数進出し、一大集積地となっている。
そのジュロン島が大きく変わろうとしている。国連が気候変動を世界最大の脅威と位置づけている現在、国際機関や各国政府が相次いで、サステナビリティに関する政策、枠組み、規制を強化。そうして進められている世界的なエネルギー転換を背景に、シンガポールは2021年2月、環境行動計画「グリーンプラン2030」を掲げ、2025年までに太陽電池発電設備容量を2020年比で4倍にする目標を設定した。
そしてこれを機に、ジュロン島を持続可能な化学・エネルギー産業拠点へと転換するために、企業誘致を進めるEDBは2021年11月、「サステナブル・ジュロン島」を発表。ジュロン島の化学・エネルギー産業において、2050年までに①持続可能な製品の生産量を2019年比で4倍に引き上げ、②低炭素ソリューションにより年間600万トン以上のCO2排出量を削減するという野心的な目標を掲げたのである。
さらに、この長期目標を達成するために、2030年までの主要な目標を、①持続可能な製品の生産量を2019年比で1.5倍に引き上げ、②シンガポールの製油所およびクラッカー(石油化学の原料製造装置)のエネルギー効率を世界の上位4分の1以内にし、③少なくとも200万トンのCO2を回収することと設定した。