オーストラリアから自然エネルギーを送電する「AAPowerLink」
オーストラリアに世界最大の太陽光発電所と蓄電設備を設置し、そこからシンガポールまで、約4,200㎞の海底ケーブルを含む約5,000㎞の送電システムで再生可能エネルギーを供給する——そんな壮大なプロジェクトが動き始めている。
そのプロジェクト名は、「オーストラリア-アジア パワーリンク(AAPowerLink)」。300億豪ドル(約2兆5,000億円)以上が投じられ、オーストラリア北部ノーザンテリトリーの町エリオット近くに広さ1万2,000ha、容量およそ20ギガワットピーク(GWp)の太陽光発電所と、エネルギー容量約40 GWhの蓄電池を設置。さらに、そこで発電・蓄電した電力を、海沿いにある都市ダーウィンを経由してシンガポールまで運ぶための送電システムが構築される計画だ。
この一連のプロジェクトには、シンガポールのスタートアップ「サン・ケーブル(Sun Cable)」をリーダーに、建設やリスクマネジメントなど各業界大手5社が参加。現在は、海底調査やソフトウェアの開発などを行っている最中だという。
持続可能な未来のために太陽光発電を野心的に拡大
しかし、はるかオーストラリアの太陽光発電所で発電して、シンガポールまで送電する必要性とは何だろうか。
世界各国が温室効果ガスの排出量削減に力を入れるなかで、シンガポールは風力や太陽熱など大気汚染物質を排出しないクリーンエネルギーへの転換に向けていち早く動き出している。2018年に、世界で最も持続可能な都市を選出する「Sustainable Cities Index」でアジア第1位にも選ばれている。
そんなシンガポールが特に注力してきたのが太陽光発電の普及だ。2013年末に15.3 MWpだった太陽電池発電設備容量を、2020年には384.1 MWpまで拡大させた。
そして2021年2月、政府は2030年までに国を挙げて取り組むべき環境政策の包括的なプラン「シンガポール・グリーンプラン2030」を発表。そのなかで、太陽光発電など環境に優しいエネルギー源を確保する方針を示し、2030年までに、太陽電池発電設備容量2 GWp(年間35万世帯への電力供給に相当)以上への拡大を目指すとしている。
シンガポールが行ってきたこれまでの具体的な取り組みには、例えば、シンガポール経済開発庁(EDB)が2014年に開始した「SolarNovaプロジェクト」がある。このプロジェクトでは太陽光発電の普及と拡大に努め、2020年までに公共施設など約6,000の官公庁の屋上に太陽光発電システムが配備された。
また、シンガポールの工業・商業地区の開発を行うJTCコーポレーションは、74万㎡を超える工業用地と、サッカー場103面に相当する屋根に太陽光発電設備を設置する計画を進めている。
そして、今回のAAPowerLinkのプロジェクトだ。シンガポールの面積は東京23区と同程度の約720㎢と土地資源が限られているため、太陽光発電を行う用地の確保などが難しい。そこで世界6位の面積を持ち、太陽光発電の資源が豊富なオーストラリアから、電力を供給するこのプロジェクトが立ち上がったのである。